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  4. 男の子も可愛いものが好き

保育園から帰っていると、息子が唐突にこうつぶやいた。

「○○(自分の名前)は、男の子だよ」

 

ついに、性別の概念を知るようになったのか。どこで聞いたんだろう。だれに言われたんだろう。どんな風に聞いたんだろう。

「そうなの? 男の子なんだね。じゃあ、ママは? 男の子? 女の子? それとも別のやつ?」

答えがわからなかったらしい息子はニヤニヤふざけて、この話はおしまいになった。どうやら深い意味はなかったようだけど、そっかあ、彼にも、性別の概念が生まれ始めたのかあ。そう思うだけで、突風が吹いた時みたいに心がザワッと音を立てた。

最近の私の興味は、もっぱら子どものジェンダー。というのも、ちょっと困りごとというか、悩ましいことというか、どうにかならんかなあと思うことが日々増えているから。

2歳9ヶ月の息子は、可愛いものが大好き。

「かわいいとかっこいい、どっちが好き?」と聞けば、即答で「かわいい」だし、好きな色はピンクだし、ラメやキラキラ、虹色が大好きで、好きなキャラは、ミニーちゃんや、スカイ(パウパトロール)、サリー(カーズ)と、ヒロインも多い。私に影響されていないかと「ママは青も好き」「ママは、ミッキーも大好き」といろいろとアシストしてみるけれど、彼の“一番”は変わらない。

ミニーちゃんラブな息子を見ていると、ミニーちゃんの服を買ってあげたいと思うのが親心だけども、ミニーちゃんが可愛くあしらわれているピンクの“男の子をターゲットとした服”は、1枚もない。だいたい、過剰にハートがあしらわれていたり、レースやフリルがついていたりする。私が大好きで崇拝しているディズニーランドでさえ、ミニーちゃんのスカート、ミッキーとドナルドのズボン、しか売っておらず、ミニーちゃんのドットをあしらった男の子服は、ゼロ。「ミニーちゃんがいいの」という彼の希望はスカートでしか叶えられず、こういうとき、どうするのが正解なの? と頭を抱えたものだった。こういうのが、日常茶飯事。スカイは、男の子服には描かれていないこともあったし(なぜか男キャラチーム、女キャラチームで分けられていた)、サリーに至っては主要なキャラにも関わらず、トミカが廃盤になっているという驚き(欲しがる息子のために、メルカリで2倍の値段で買いましたけども)。

先日、H&Mに連れて行くと、女の子のキラキララメラメピンクエリアに歓喜の声を上げて、吸い寄せられていった息子。

「このTシャツもかわいいし、こっちのリュックもいいね。このドレスもかわいいし、スカートもかわいいね」

あらゆる商品を平等に一緒に見て、「こっちもあるよ」と男の子服コーナーにも行くと、今度は対象的に黒、青、緑のコーナーたち。息子は一気に興味を失い、「これは? これは?」と見せている間も、ずっと首を振っていた。唯一「これがいい」と指差したのは、まだ一度も見たことのない、スーパーマリオの赤い服。きみは明るい色がいいんだよね。でも、それが、男の子コーナーにはほとんどないんだよねえ……。

ぐる~っと広い店内を一周して、最終的に彼が選んだのは子ども用の指輪セットと、ラメのリュックサックと、ヘアゴム&ヘアピンのセット。2つだけにしようと話すと、「じゃあ、リュックは辞める」と自分で言って、指輪と新しいヘアピンをゲットしていた。「もうつけるの!」とはしゃいで、買った直後に5本の指に指輪を、前髪に2つのヘアピンを着けていた息子の、あの照れ臭さを隠しきれていない微笑みが忘れられない。

こう書くと、息子は「女の子っぽいのか?」と思われるかもしれないけれど、そうではない(というか、それはまだわからない)。彼は決して「女の子のものが好き」なわけではなくて、自分の好きなものが欲しいだけ。一番お気に入りのおもちゃはプラレールだし、カーズの車だし、だから今日は車が欲しいけど、明日は指輪が欲しい。そんな風に彼は生きていて、誰の目も気にしないでまっすぐに自分の“好き”を選ぶ彼を、私はいつも眩しく見つめている。

「ジェンダーレス」「ユニセックス」の考え方はここ数年でうんと広がってきて、若者を前に「男らしい」「女らしい」なんて他人が口にしようものなら、もはや時代遅れと判断されるようになってきた。都心に住んでいれば、男性もあたりまえに花柄やピンクを着ているし、メイクやネイルをする男性も頻繁に見かけるようになって、たった数年で変化した傾向に目を細めている。同じように、子どもたちを取り巻く環境もゆっくりと変化しているのは確かで、息子がピンクを着ていても、年配者以外は、誰も何も言わない。いいことだ、ほんとうにいいことだ、だからこそ、頼むよ。はよ、子ども服のアップデート、頼むよ!

H&M然り、あのあからさまなほどの、女児対象コーナーと男児対象コーナーの色味の違いは、なんなんだ!? もちろん「男向けとか女向けとか、うちは表記しませんよぉ」と言っている店が多いものの、実際には女の子が着られない男の子服はないけど、男の子が着られない女の子服はわんさかあるのが実情だと思う。スカートやワンピースにはじまり、フリルやレース、リボン、パフスリーブ……。これらはさすがに男の子に着せるには、なにかひとつ「えい」と跨がないといけない壁がある。

なんでもかんでもユニセックスにしろとか、過激なことを言いたいわけじゃないのよ。キラキラワンピースの可愛さを女児たちから奪う気もないし、かつてワンピースに浮足だった私の気持ちも忘れちゃいない。友人の娘ちゃんに洋服のプレゼントを買うときの、あのウホウホ財布ユルユル状態も嫌いじゃない。それに、やはり市場が変わらない限り、企業としても、売れづらいものを作るわけにはいかないんだろう、と、大人として理解はしている。けどさ。

別に、ピンクや赤や虹色の男の子服がもうちょっとあってもいいんじゃない?
スパンコールでキラキラの、ピンクの消防車Tシャツを、男の子も着られるデザインでつくってくれない!?!?

だって、男の子も、可愛い物が大好きだもん!!
男の子向けの、可愛いもの、もっと用意してください!!!!!

息子は、最近は髪の毛を結びたがるようにもなり、ときおり保育園にも結んでいくようになった。園のお友達の名前を挙げ、「○○ちゃんみたいに2つに結んでね」と指示をして、好きな服を選び、自分でコーディネートを完成させる。お気に入りは、カップケーキが描かれた水色とピンクのT シャツ(ZARA で女の子コーナーから選んできた)や、ピンクの花柄のTシャツ(これも女の子コーナーから)に、ミニーちゃんやデイジーが描かれたズボン(これも……)。ふにゃふにゃの短い髪の毛をしばると真横に伸びる小さな毛束が、ぴょこんっと揺れる。先生に「かわいいね」と言われて、照れたように私の脚にまとわりつくときの、まあるい笑み。

この好きにまみれている姿を、誰かに「男の子なのに」と言わせたくない、といつも思う。

「男の子なのに、変」だけでなく、「男の子なのに、女の子のものが好きなのね」とも言われたくない。「男向け」「女向け」を作っているのは大人たちのほうで、性別を決めたがるのは、いつだって大人。大人が悪気なく刷り込んだ概念、店の作り、服、おもちゃによって、まもなく子ども同士でも「男の子なのにピンクは変」とか「これは女の子のものだよ」と、性別を意識して話を始める時期がやってくる。だれかが何気なく「それは女の子のやつだから、きみはこっちだよ」と、息子に言う日もあるかもしれない。ひとつひとつは些細なものだけど、数を重ねて、何度もその言葉を浴びて、いつしか当たり前に変わって、染み込んで、小学生になるころには、本当の心が見えなくなって、ピンクを選ばなくなってしまうかもしれない。髪は結ばなくなるかもしれない。大人はさっさと自由になっているのに、子どもたちは、まだ不自由だなんて、ちょっとおかしいよ。

男とか、女とか、縛られずに生きていって欲しいけど、そうはいかないんだよなあ。「きみは、きみだよ」と、語りかける私の声だけを信じてくれたらいいけれど、残念ながら親の言葉を信じるのはいまだけで、だんだんと周りの声を信じるようになってしまう。いまのうちに、なににも左右されないきみだけの眼差しで、好きを選びとって欲しい。彼の好きを、どう守るか。いつまで守れるか。私にできることは。最近は、そんなことばかりを考えている。

それにしても。

もし、私が女の子を生んでいたら、幼少期の自分と重ね「きっと可愛いものが好きだ」と思い込み、はじめから女児コーナーにしか連れて行かなかったかもしれない。わざわざ(自分が好きでもない)消防車や恐竜の服を手にとって、娘に「これにしてみる?」と聞くこともなかったかもしれないし、キラキラを当たり前に与えていたかも。息子のおかげで、いま初めて、わたしは性別について考えている。

 

最後になるけれど、面白い記事を見つけたのでシェアしたい。

When Did Girls Start Wearing Pink?(女の子はいつからピンクを着るようになったのですか?) / Jeanne Maglaty / Smithsonian MAGAZINE」によると、アメリカの業界誌「Earnshaw's Infants'Department」の1918年6月には、下記の記述があるのだという。

一般的に受け入れられているルールは、男の子はピンク、女の子はブルーです。その理由は、男の子にははっきりとした強い色であるピンクの方が似合うし、女の子にはより繊細で可憐なブルーの方が可愛いからです。

さらに、その後、出生前に性別がわかるようになってから、物が売れるように「男向け」「女向け」の商品が売り出されるようになったそうだ。『裕福な親なら、第一子である女の子のために飾りつけをし、次の子どもが男の子になったら最初からやり直すということも考えられるから』と。

 

男向け、女向けって、いい加減だね。そんなもの、きみの動きに合わせて激しく揺れる髪の束で、蹴散らしちゃえ。

関連書籍

夏生さえり『揺れる心の真ん中で』

不安な夜も、孤独な朝も。 愛を信じられるようになりたい――。 【“あの日”の自分を思い出して涙が止まらない(28歳女性)】 【最後の言葉に救われました(19歳女性)】 SNSフォロワー22万人超! 恋愛ツイート等で若い女性たちの共感を集める 夏生さえりさん、2年ぶり待望のエッセイ集! WEBマガジン「幻冬舎plus」大人気連載書籍化。

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夏生さえり

山口県生まれ。フリーライター。大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。Twitterの恋愛妄想ツイートが話題となり、フォロワー数は合計15万人を突破(月間閲覧数1500万回以上)。難しいことをやわらかくすること、人の心の動きを描きだすこと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『口説き文句は決めている』(クラーケン)、共著に『今年の春は、とびきり素敵な春にするってさっき決めた』(PHP研究所)がある。Twitter @N908Sa

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