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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2024.05.30 公開 ポスト

第225回 ともだち<後編>いとうあさこ

そんなわけで駅前劇場に大久保さんは、いませんでした。うん、いるわけないのよ。絶対にそこじゃないもん、大久保さんの“がっかり”。わかっちゃいるけど本当に心当たりがなくて。日曜という事もあって、劇場は舞台のバラシ中。大変お邪魔いたしましたです。

 

さあ、困ったぞ。もう何もない。ゼロ。そんな何も出てこない私を見かねて、特例。二度目のテレフォン。お相手は私と大久保さんの共通の友人“ひみちゃん”。3人誰かのお誕生日とかになると、ひみちゃんちに集まって飲んだりする仲。私は恐る恐る聞いてみた。「大久保さんが実は私にがっかりした事があるとか聞いた事ない?」答えは「大久保さんがあさこさんにがっかりする事はない。」思わずにやける私。嬉しい。いやいやいや。それじゃあダメなのよ。とにかく“どこか”には行かなくては。

スタッフさんと協議の結果、2人の思い出の場所→旅行先は遠いから行きつけのお店?→“がっかり”はわからないけどお店行って大久保さんがいたらラッキー→本人に聞く、作戦に変更。日曜にやっている“行きつけ”は1軒。直行です。お店に入った途端マスターが「何名様?」大久保さんがいない事&お店のいい匂いでかなり空腹な事に気づく。ああもう頭が回らない。そんな時にスタッフさんが一言。「それは大久保さんと絆がないからじゃないですか?」ちゃんと私、カチン。「絆はある。記憶がないの。」

そんな時、大久保さんからLINEが。私が絶対にわからないだろうと、追加の3文字を送ってくれた。“誕プレ”。え? 何か変なものを差し上げた? しばらくすると更に3文字。“履けよ”。もしや昨年の誕生日に大久保さんから頂戴したサンダル、私が履いていない事? 実は昨年いただいたサンダルが厚底だった為、その前年に膝の手術をした私はバランス的に怖くて履けず。そうこうしているうちに冬になってしまったので、今年履こうと思っていたのです。絶対それだ! となるとそのサンダルを頂戴したのは、ひみちゃんち! やだ、ひみちゃん、お芝居上手。さっき電話した時、大久保さんいらしたのね。再度ひみちゃんに電話。「実はそこに大久保さんいるでしょう?」「いないですよ」……え?

スタッフさんから「電話してください」と、まさかの直電要請。もう“一筆啓上”コーナーのルール無視の無法地帯です。数時間ぶりに聞く大久保さんの声。思い出の答え合わせをすると、正解。だとしたら大久保さん、場所、違います。それを伝えると、「え? でも大将に聞いたら、あ、今お寿司屋さんなんだけど。」ん? 2人で行くお寿司屋さんは日曜休み。となると……あ! 1回行った事があるお寿司屋さんを思い出す。そこは昨年、“大久保さんの”お誕生日祝いで、仕事帰り2人で行って“私から”靴を差し上げた場所。思い出、逆。急いでそのお寿司屋さんに向かう私。大久保さん、いた。会えたぁ。そして私が履いてない理由を話すと「膝の為にクッションでいいかな、と思って厚底選んだ」と大久保さん。ああ、『賢者の贈り物』みたいな話。やっと会えた&答え合わせ出来た嬉しさで即、乾杯。何時間もこの“茶番”に付き合わされたスタッフさんたちはどういうお気持ちだったでしょう。失礼いたしました。

もう一つは『ともだちの日』という番組。大久保さんが考えた“私が喜ぶ20のサプライズ”を、何も知らない私に一日かけてしかけてゆく、という“どっきり”と言うより“ほっこり”。その様子を大久保さんはモニターで見守ってくれるのです。それが本当に凝っていまして。私が聞いていたのは『TravisJapanの趣密っちゃく』という、ゲストが趣味に没頭する姿をTravisJapanのメンバーが激写していく新番組のロケ。めっちゃありそうじゃないですか? メンバーは松倉さん、松田さんにバイきんぐ西村氏。この4人で商店街で買い物してキャンプへ、という流れ。疑う、なんて微塵も出てくるわけがない。

さて、大久保さんの考えてくださった“喜ぶ事”は本当にさまざま。まず“楽屋のお弁当が私の大好物ばかり”からスタート。でもね、カキフライ、マッシュポテト、芽キャベツのマリネなどはいいけれど、鯛の昆布締め、入ってるんですよ。昆布で締めているとは言え、生ものですからね。なんで「おや?」って思わなかったんだろう。ただただ喜んじゃいまして。しかもこれ、完全に“ツマミ”たち。だから私、楽屋ではなく「キャンプ場で食べる」と。そう言えばスタッフさんにだいぶ「ADが今回力入れて探したお弁当なんですよ!」とか「是非ここで!」と説得(?)された。お手数おかけしました。他にも葉加瀬太郎さんの曲がかかったり、「幼少期、母がホワイトソースを作ってる時の匂いが好きだった」と言ったのを覚えていてくださって、どこからともなくホワイトソースの香りが、とか。そんな“喜び案件”が随所にちりばめられているのです。

そんな中、すごかったのがマッチ。近藤真彦さんです。私が1979年「金八先生」でお見かけしてから、とにかくお慕い申し上げ倒した方。“立ち寄った八百屋さんのBGMがマッチの曲”から始まって、その商店街で買い物中の“プライベートマッチ”に会う、という。そんなわけがない。ただそもそもで言えば私のドッキリなんかでマッチさんが出るわけないから「あれ? これドッキリ?」とも思わず。結局「そう言えば昔『ニッポン親不孝物語』ってドラマ出てたし、下町好きなのかも」という謎の理論で“遭遇”を納得。むしろ「住んでいる地域がバレちゃうからこの話は誰にも出来ないな」と思った程。最後大久保さんも出てきてネタバラシ。その後もう一度、マッチさん登場。そんなプログラムある? オンエア観たら何故か私、ずっと謝ってました。それだけパニックだったんだろうなぁ。

とにもかくにも大久保さんが私の事をよく見ていて、よく知ってくださっていて。忙しい中、パコ美を絵付けしてくださったお皿も作ってくださり。もうホント感激。心からありがたいと思うし、改めてこの“ともだち”の存在を大切にしていかねば、と再確認。さて、今日も大久保さんにいただいたサンダル履いてお仕事、行ってまいります。

 

【本日の乾杯】わかめのおでん。異国行く前に立ち寄ったおでん屋さん。わかめ、美味い。おでんに合う。以前沖縄でもずくのおでんも最高だった。私、海藻のおでん、大好物だ。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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