男は多様性に耐えられない!?
ジェーン 日本で年間3万人にも及ぶ自殺者の7割が男性だと聞くと、“男の美学”みたいなもので男性が自らの首を絞めているような気がします。産業が発展して技術革新が進めば、どうしたって仕事の数は減っていく。そこへ女性が対等に社会進出を果たしたら、当然仕事が不得手な男性が落ちこぼれていくわけですよね。その時に自分をどう容認していくか。仕事と稼ぎだけが人生の価値を決めると思っていたら、自己否定せざるを得ない男性がかなりの数出てくることになります。男女雇用機会均等法から30年経って、選択肢は増えたけど“多様性の容認”が追いついてない、という状況に女性は苦しめられてきました。女性の場合は「結婚して子供を産み育てる」がたったひとつの正解と長い間されてきたんです。正解がひとつしかない生き方はつらいぞ、というのを女性は身をもって経験してきたので、これからは男性も考え方を変えないと、最終的には首を吊るしかなくなるんじゃないかって心配しています。
東 ただ、多様な選択肢と多様な成功モデルに人は耐えられるのか、とも思うんですよ。「多様な人生が開かれているから、あなたが選択して決めなさい」と言われても、そもそも人生には個人が決断するには難しい問題が多すぎて、しかし時間は有限なわけです。選択できないまま迷っているうちに、気が付いたら自分が望まないほうを選択していた、という事態が起きうる。たとえば大学に進学するかしないかの選択を迷ったまま4年経ったら、それは大学に「進学しなかった」ことを選択したことになってしまう。いくら知識や情報を与えても、10代の子に正しい選択ができるかといったら、僕はできないと思います。結婚や出産も同じ。そこが難しいところですよね。
ジェーン 私も、自分が好きなことを好きなようにしていたら、うっかりこの歳まで結婚していなかった、という感覚ですね。ただ、今になって人生のターニングポイントを振り返ってみても、やっぱり「私はあのとき、あっちの道は選べなかったな」と思うことのほうが多くて、「じゃ、しょうがないか」とも開き直ってるんですけど。人生はそういう“うっかり”と“諦め”の連続ですね。
東 うん、人生ってそういうものですよ。だから、あんまり計算してもしょうがない、というのが僕の考えなんです。
(第2回に続く)
ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』×東浩紀『弱いつながり』刊行記念対談
7月24日に『弱いつながり』と『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』を刊行したばかりの東浩紀さんとジェーン・スーさんが「男と女の生き方」について語り合いました。意外な初顔合わせの対話は、お互いを探り合いつつ、始まりました。(構成:福田フクスケ 撮影:牧野智晃)