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片想い探偵

2018.08.26 公開 ポスト

プロローグ公開

【須藤凜々花さん激推し本】
ミステリ史上最高にエキセントリックな女子高生ストーカー、爆誕。辻堂ゆめ(作家)


「この本を知らない人は、損をしています!」と須藤さん

タレント・須藤凜々花さんが激推ししてくださっている『片想い探偵 追掛日菜子』
一度好きになったら相手をとことん調べつくす主人公・日菜子のストーキング能力に、驚愕する読者が続出しています。その日菜子のエキセントリックな行動&発言は、「さわり」だけでも十分伝わるのでは…!ということで、今回冒頭部分の無料公開に踏み切りました。
プロローグと、1~5話それぞれの冒頭部分を、1日おきに公開していきます。

〈あらすじ〉
追掛日菜子は、舞台俳優・力士・総理大臣などを好きになっては、相手の情報を調べ上げ追っかけるストーキング体質。しかしなぜか好きになった相手は、殺人容疑をかけられたり、脅迫されたりと毎回事件に巻き込まれてしまう。今こそ、日菜子の本領発揮! 次々と事件の糸口を見つけ出すがーー。前代未聞、法律ギリギリアウト(?)の女子高生探偵、降臨。


***
 

「推し(おし)」とは──

自分が支持、愛好している対象。

アイドルグループのファンが自分の好きなメンバーを表すのに使用する「推しメン

(イチ推しメンバー)」をさらに短縮した言葉。
 

***
 

共有部屋の中では、今日もまた、由々しき事態が発生していた。

「うっわ」

 自室に足を踏み入れた瞬間、異常を感知した翔平は思い切り顔をしかめた。

「まぁた変わったよ……」

 いつまで経っても慣れない。いや、慣れてはいけないと、辛うじて保たれている翔平の理性が命令していた。

 鞄かばんを床に置き、腰に両手を当てて四方の壁を見回す。平均して二、三週間にいっぺんは起こる事象だ。残念ながら、いつ起こるか前もって知ることはできないし、予測する手立てもない。

 自分の意思とは無関係に部屋の〝模様替え〟が行われるのは、もはや日常茶飯事だった。

 犯人は分かりきっている。アコーディオンカーテンで仕切られた部屋を十年以上ものあいだ共有している、あのエキセントリック・モンスターだ。

「……で、誰だこれ」

 壁を眺めながらそう呟つぶやいたところで、階段を上ってくるスリッパの音に気がついた。一歩後退し、振り返ると、掃除機を床に下ろして電源コードを引っ張っているエプロン姿の母と鉢合わせした。

「ねえお母さん」

「はい?」

「俺とあいつって、どうしてこの歳としになっても同じ部屋なんだっけ」

「しょうがないでしょ。あなたたちに一部屋ずつあげたら、お父さんとお母さんはどこで寝ればいいのよ」

「じゃなくてさ。この子ども部屋、もっと強固な壁で分割することはできなかったんだっけ」

「リフォームにお金がかかるんだもの。あなたたちが巣立った後に部屋を広く使えないのは困るし」

「じゃあ、せっかく間仕切り用のアコーディオンカーテンをつけてもらったのに、どうして基本的に開きっぱなしなんだっけ」

「日菜がすぐに開けるからよね。着替えのときと寝るときくらいしか閉めないものね、あの子」

 母はのんびりとした動作で屈かがみ込み、壁のコンセントに掃除機の電源プラグを差した。

「女の子だし、思春期になったらプライベートの空間が欲しくなるかと思ったんだけど、案外そうならなかったわねえ。日菜ったら、よっぽどお兄ちゃんのことが好きなのね。なんだかんだ話したいのよ」

「いや、あいつはただ──」

 否定の言葉は、母がスイッチを入れた掃除機の音に吞のみ込まれた

 掃除の邪魔をしないように、翔平は部屋へと戻った。改めて、十畳ほどの共有部屋の中をぐるりと見回す。向かって右が翔平、左が日菜子のスペースだ。両側にシングルベッドと勉強机が一つずつ置かれ、奥の壁に沿ってそれぞれの所有物が詰まった引き出しや棚が並べられている光景は、小学生の頃から変わらない。しかし、この部屋のインテリアにおける不本意な〝統一感〟は、年々程度が増しているようだった。

 妹の日菜子が、高校生という多感な時期であるにもかかわらず、兄と部屋を分けようとしないのは何故か。それは、兄と話したいわけでも、閉所恐怖症だからでもない。

 ──壁の面積を、減らしたくないだけだ。

 壁一面にびっしりと貼はられた、イケメン男子の写真。ふと見上げれば、天井からも視線が降り注ぐ。

 髪を搔き上げてみたり、水を滴したたらせてみたり。

 身体からだを反そらせてみたり、自由自在に悩殺ポーズを決めてみたり。

 無邪気にピースサインを出してみたり、真剣な顔で唇を結んでみたり。

 右からも、左からも。

 前からも、後ろからも。

 上からも、下からも。

 顔、顔、顔、顔──何百もの同じ顔が、ありとあらゆる角度から、熱っぽい視線をこちらに注いでいる。

 今回は、俳優だろうか。

 それとも、アイドルだろうか。

 昔は、日菜子の勉強机の周りだけだった。それがベッドの脇、本棚の側面、壁や天井へと広がっていき、いつの間にか翔平側のスペースまで侵食するようになった。アコーディオンカーテンの隙間からはみ出すくらいなら可愛いものだが、翔平が壁にかけていたはずのカレンダーを外してまで趣味の写真で埋め尽くすのだからたちが悪い。

 これでは、プライバシー権どころか、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利さえ侵害されつつある。

「俺が寛容だからって、いつまでも甘えるなよ」

 一ひと際きわ大きくプリントアウトされた上半身裸はだかのイケメンを日菜子に見立て、まっすぐに人差し指を突き立てた。直後、自らが発した言葉の虚むなしさに、翔平はがっくりと肩を落とした。


****

ヤバそうな主人公登場の予感!?
明日は1話冒頭の公開です。お楽しみに!(編集部)

 

関連書籍

辻堂ゆめ『片想い探偵 追掛日菜子』

追掛日菜子は舞台俳優・力士・総理大臣などを好きになっては、相手の情報を調べ上げ追っかけるストーキング体質。しかしなぜか好きになった相手は、殺人容疑をかけられたり脅迫されたりと、毎回事件に巻き込まれてしまう。今こそ、日菜子の本領発揮! 次々と事件解決の糸口を見つけ出すが――。前代未聞、法律ギリギリアウト(?)の女子高生探偵、降臨。

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辻堂ゆめ 作家

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『あなたのいない記憶』(宝島社)、『悪女の品格』(東京創元社)、『僕と彼女の左手』(中央公論新社)がある。

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