1年で貯金が300万円減った話。
フリーの書籍企画者になって3年半が過ぎました。貯金が約500万円の状態でエイヤと出版社を飛び出したのですが、最初の1年間で貯金が300万円減りました(つまり残りが200万円になりました)。理由はとっても明確で、本を3冊しか作ってないのに、生活レベルを変えなかったから。さらに2ヶ月経つと、残りの貯金が150万円になりました。「なんとかなるだろう」と楽観的に考えていたぼくは、着実に減っていく貯金通帳を見て、
「あれ? ヤバいのかな?」
と思い、何人かに
「1年で500万あった貯金が200万になっちゃった!」
とおどけて言って回ったら、ほぼ全員が言葉を失いました。
(1人だけ「まだ200万あって良かったね」という金言をくれましたが)
まわりの反応を見て、ようやく「ヤバいのかな?」ではなく「ヤバいのだ」と気づいたのを覚えています。
それでも「なんとかなるだろう」を貫きながらここまでやってきましたが、突発的な不安に襲われることもあるし、卑屈な態度をとったこともあったと思います。でも、それって仕方がなくないですか。ずっとポジティブでいるのは気疲れするし、失敗したときは気落ちしてしまう……だって、にんげんだもの。
ということで今回取り上げるのは、書家・詩人として知られる相田みつをさんです。
60歳になる年に『にんげんだもの』を出版
相田さんの人生年表がこちらです。
1924年 0歳
栃木県足利市家富町で生まれる。本名は相田光男。
1942年 17歳の頃
歌会で禅僧・武井哲応老師と出会う。相田さんは武井老師の講義ノートをたくさん遺していて、武井老師を「生涯の師」だと人に語っていたそう。
1954年 30歳の頃
第1回の個展を足利市で開催。以後、「自分の書、自分の言葉」を探求しながら67歳で亡くなるまでに20回近くの個展を開く。この年、足利市借宿町へ移り住む。
1959年 34〜35歳の頃
アトリエを作る。それまでは、間借りしていた自宅の八畳間で書いていた。
1966年 41〜42歳の頃
足利市八幡町に移り住む。
お菓子屋さんの包装紙などをデザインして生計を立てていた時期もあった相田さん。個展を定期的に開いていたのも、「作品発表の場」としてはもちろん、「作品を売って収入を得る場」でもあったからでした。
しかし、「納得のいく作品は一点もない」とよく口にしていた彼は、作品を売ったあとでも、同じ言葉でより良い作品ができると、購入者のところへ行って交換してもらうこともあったとか。また、息子の一人(かずひと)さんには、こんなことを語っていたそうです。
「もしおまえにお金ができたら、お父さんが若い頃に生活のために売った作品を買い戻して全部燃やしてほしい」
「時間が経ってみると、非常に恥ずかしい作品だ」
「作品へのこだわり」と「生活のための作品」との間で、いろいろ葛藤があったのかもしれないですね。
60歳になる年(1984年)に、相田さんは『にんげんだもの』を出版します。初の著書でミリオンセラーとなったこの本がきっかけで、相田さんの名は世の中に知れ渡り、ファンも一気に増えることとなりました。その後も精力的に作品を作り続けた相田さんでしたが、『にんげんだもの』の出版後に個展を開いたのは2回だけ。どちらも作品を売らなかったそうです。
運気は「姿勢」に現れる
もっと胸を張れ。姿勢に気をつけろ。
これは相田さんが、息子の一人さんに向けてよく言っていた言葉です。常に姿勢が良かった相田さんは、一人さんが小学生の頃だけでなく、30歳を過ぎてからもたびたびこの言葉を口にしたそう。確かに猫背だとダメな雰囲気あるなぁ……と思っていたら、一人さんが著書『父 相田みつを』でこう書いていました。
「もしかしたら、それは見た目の姿勢が悪いという意味ではなかったのではないか。(中略)苦しいと、誰だってうつむきかげんになりがちだ」
なるほど。「体の姿勢」ではなく「心の姿勢」の話だったのか。心が下を向いていると背筋も自然と曲がってくるし、背筋が曲がっていると心もうつむいてくる。相田さんは、「心の姿勢」を常に意識していたからこそ、人の心に響く作品を残せたのかもしれませんね。
そう考えてあらためて相田さんの作品を見てみると、「心の姿勢をただすと、いい運気がやってくる」というメッセージにも見えてきます。
いいことはおかげさま わるいことは身から出たさび
むりをしないでなまけない わたしは弱い人間だから
やれなかった やらなかった どっちかな
ともかく具体的に動いてごらん 具体的に動けば具体的な答が出るから
つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの
過度に落ち込まず、過信せず、姿勢だけはピンとしてよっと。
それでは今週も行ってらっしゃい!
60歳を過ぎてから結果を出した人の言葉の記事をもっと読む
60歳を過ぎてから結果を出した人の言葉
華々しく、充実したように見える同年代、自分の予想を超える成果をさらっとたたき出す年下世代。
それに比べて自分って……
もしかしてこのまま「自分って何もせずに死ぬのだろうか」というモヤっとした思い。
不器用でなかなか結果も出ないけれど、がんばることをまったくやめる勇気もない、そんなあなたへ。
60歳を過ぎてから結果を出した人たちの言葉を贈ります。