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孤独は男の勲章だ

2018.11.09 公開 ポスト

黄金サバを食べ夜の帝王となった73歳の男志賀貢 / 医学博士

妻が逝き、友が逝き…それでも人生の旅路は終わらない。一度きりの人生、ここで弱ってどうする男たちよ。

臨床歴50年以上の医師が綴った『孤独は男の勲章だ』は、死ぬまで元気に生きるための食事や暮らし方に関する医学的アドバイスを、患者さんのエピソードとともに紹介しています。人生100年時代を生き抜くための必読書から、一部を抜粋してお送りします。

志賀先生が授けた食の知恵で元気になったEさんでしたがその真意は…

元気なのはいいことだが…(写真:iStock / sakai000)


 古い付き合いの患者でも、家庭の込み入った事情はなかなか聞き出せないものです。ある日、73歳になるEさんが、診察が終わった後に私に食べ物の話を振った理由は、実は奥さんの病気にあったようです。

 奥さんは、1年前に脳梗塞を患い、現在は特別養護老人ホームに入所しているようです。横浜に宝石店を開いてから40年間、店を繁盛させるために2人で頑張ってきたようですが、Eさんには、跡継ぎの子供がいないのです。

 もし、奥さんに万が一のことがあれば、彼は天涯孤独になる運命にあります。そして、独居生活をしていて孤独になっている友人たちのことを考えると、本当は精力のことなどどうでもよく、その孤独をどうやって乗り切っていけばよいのか医者の本音を聞きたいと思った、と打ち明けてきました。

 それならばと、彼の身上を察して、私は知っている限りの食事の知恵を教えることにしました。

 まず食を豊かにすること。その食が十分でなければ、頭も体も正常に働かないことをよく説明しました。そして、なにより肉が重要で、中でも牛肉をしっかりと食べること。それと、「畑の肉」といわれている大豆製品を忘れずに食べることを伝えました。

 そして、とっておきの情報として、毎日の食事にサバの料理を取り入れることを勧めました。中でも、三浦半島沖で獲れる、「黄金サバ」と呼ばれている松輪サバ、それに豊後水道で獲れる関サバ。もしこれらのサバを見つけたら、金に糸目をつけずに食べること。近ごろは、黄金サバの缶詰も出ているので、ぜひ食べた方がいいと教えました。

 サバには、オメガ3脂肪酸と呼ばれている「多価不飽和脂肪酸」がふんだんに含まれています。

 オメガ3脂肪酸とは、α-リノレン酸、EPA、それにDHAの三つの脂肪酸の総称です。その働きは、体の老化を防ぎ、また、脳梗塞や心筋梗塞を予防するために大変大きな力を持っているといわれています。

 北極圏に住むイヌイットは、アザラシなどの動物を生食する食習慣がありますが、そのためか血液はサラサラとしていて、動脈硬化症は少なく、血液中のコレステロールや中性脂肪なども、正常値に保たれている人が多いといわれています。

 これは、オメガ3脂肪酸の多い魚をアザラシなどが食べ、そのアザラシを人が食べる、という食物連鎖によって、体の若さを保つオメガ3脂肪酸を摂取できる、ということになるのです。

 このオメガ3脂肪酸を含む魚として、サバ以外では、ニシン、サケ、イワシ、タラなどに多いことがわかっています。その他、大豆やエゴマなどにも含まれています。

 しかし、なんと言っても食べて欲しいのは黄金サバです。これは、とにかくうまい。

 まず、肉を食べてスタミナをつけ、そして、肉に含まれるコレステロールをサバの脂で抑制する、両者を口にすることは、理想的な食事術と言えるのです。

 こうした最新の情報を伝えると、彼は感謝感激という顔で何度も頭を下げ、

「これで私も、孤独の生活にならないで済みます。これからも一生懸命商売に熱を入れて、妻の分まで頑張ります」

 と、頰を紅潮させて帰っていったのでした。

 

 ……ですがそれから半年ほどして、私はEさんに一杯食わされたことを知りました。

 それは、新宿にあるスナックのマスターからの情報でした。

 彼は、孤独から脱出するための食事術を教えて欲しいと懇願したはずなのに、その目的は実は、精力の増強にあったようなのです。

 マスターの情報によると、Eさんは、巷では夜の帝王として君臨しているという噂が流れているというのです。

 それによると彼は、常時手帳に10人は下らない、若い女性の名前と電話番号を書き記していたそうです。その手帳を毎朝見つめながら、今日はどの彼女とデートしようかと、目を輝かせているのです。

 彼の体内時計は、インシュリンなどではありません。若い女性のエネルギーだったのです。

 73歳の体のどこにそんな力が潜んでいるのかはわかりませんでしたが、その体力に拍車をかけたのは、私の医学的助言ではなかったかと思うと、悔やまれてなりません。

 まるで「男、食わずして女を誘うべからず」とばかりに、彼流のスタミナ食である肉料理と、大豆を使った料理が加わり、それに若さを保つ秘密兵器とも言える黄金サバを食べているのです。

 これでは彼のパワーは、ますますアップするばかりです。

 私は、どうやって、彼の行動を抑制してやろうかと思うと、悔しくてキリキリと胃が痛みました。しかし、後の祭りのようでした。

 彼は、夜な夜な渋谷や新宿に出没し、若い女性と再び青春の血を燃えたぎらせているというのですから処置なしです。私は、黄金サバの缶詰が早く市場から完売になって消えてしまい、彼の口に入らなくなることを、ただただ願うばかりでした。

 しかし、神様は彼の邪な行為を、決して許してはいませんでした。

 ある夜、新宿からの帰り道、深酒でヨロヨロしながら駅のホームを歩いている時に、彼はその大切な手帳をどうやら落としてしまったらしいのです。

 それ以来というもの、若い美女とのデートはゼロからのやり直しです。その大きな財産を失ったショックで、彼は家に閉じこもり、ため息ばかりをついているという噂を耳にして、私は快哉を叫びたい気持ちでした。

関連書籍

志賀貢『臨終医のないしょ話』

“幸せに死ねるのは「在宅」か?「病院」か?" 数千人を看取った医師がこっそり教える、 幸せな最期を迎えるためのとっておきの方法。

志賀貢『孤独は男の勲章だ』

老境こそが男の華だ。妻が逝き、友が逝き――それでも人生を楽しく生きた男たちのエピソードとともに、死ぬまで精力を保つ極意を医学博士が教える。男たちよ、本書片手に人生100年時代を生きぬけ!

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孤独は男の勲章だ

80歳すぎても毎朝元気! そのワケは?「スルメイカで精力を高めよ」「サケは体の錆止め」など、定年後から死ぬまでを元気に楽しく生きるための極意を、臨床歴50年以上の医師が患者さんの実例とともに紹介します。

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志賀貢 / 医学博士

北海道生まれ。医学博士、作家。昭和大学医学部大学院博士課程修了。長らく同大学評議員、理事、監事などを歴任し、大学経営、教育に精通している。内科医として約55年にわたり診療を続け、僻地の病院経営に15年従事。また介護施設の運営にも携わり、医療制度に関して造詣が深い。その傍ら執筆活動を行い、数百冊の作品を上梓している。近著には、『臨終医のないしょ話』『孤独は男の勲章だ』『臨終の七不思議』(いずれも幻冬舎)等がある。

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