通勤電車でお腹が痛くなる、逆流性食道炎がなかなか治らない、若い頃より便秘がちになってきた……。口から肛門まで、体を貫く消化管トラブルに悩む人への最新バイブル『胃腸を最速で強くする 体内の管から考える日本人の健康』(奥田昌子氏著・幻冬舎新書)が発売2週間で3刷となる大反響です。
今回は本書の内容から、健康診断シーズンに知っておきたい「内視鏡検査と造影検査」についてご紹介します。
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早期胃がんに自覚症状はほとんどない
国立がん研究センターの「2018年のがん統計予測」によると、この年あらたに胃がんと診断される人は12万8700人にのぼり、男女合わせて4万5900人が胃がんで亡くなるとされています。
発症率も死亡率も近年低下を続けているとはいえ、胃がんはこんにちも多くの人を苦しめています。
がんが小さいうちに発見できればよいのですが、初期には自覚症状がほとんどありません。あるとしたら、みぞおちの痛みや、空腹時ないし食後のにぶい痛みがあげられます。
食欲低下や吐き気、吐血、そして、がんができた場所によっては胸焼けをはじめ、逆流性食道炎に似た症状が起きることもあります。
ただし、これらは胃がんそのものの症状ではなく、一緒に発生している胃炎や胃潰瘍の症状であることが多いようです。そのため、胃薬を飲むと症状がおさまるので、「治ったってことは胃がんじゃなかったんだ」と勘違いしがちです。
胃がんを早期に発見するには、やはり、定期的に胃の検査を受けるしかないわけです。
会社や地域で行われる胃がん検診では、バリウムを飲んで撮影する造影検査が大部分で、人間ドックでは希望に応じて内視鏡検査が受けられることがあります。
ときどき、「やっぱり内視鏡検査のほうがいいんですか?」とか、「造影検査なんて意味がないのよね」と聞かれることがありますが、さて、本当はどうなのでしょうか。
管の強みは内視鏡検査ができること
内視鏡検査では、内視鏡という細長いチューブの先にカメラをつけて、管の内部や内臓の様子を観察します。
口または鼻から内視鏡を入れれば食道、胃、小腸の一部である十二指腸まで見られますし、肛門からたどれば大腸全体を検査できます。
最近は、通常より長い特別な内視鏡を使って、十二指腸の先の小腸も観察できるようになっています。
さらに、膵臓(すいぞう)からやってくる膵管(すいかん)と、胆囊(たんのう)から流れ出す胆管(たんかん)は十二指腸に出口があるため、口からずっと内視鏡を入れて膵管、胆管を調べることもあります。
生きている人の胃に管を入れて、中を初めて観察したのはドイツ人の医師で、1868年のことでした。長さ47センチメートルの金属の管を使い、剣を飲み込む大道芸人で実験したそうです。
医学検査に使える本格的な内視鏡の開発はおもに日本で進められ、1950年に一号機が誕生しています。
その後も改良を重ねた結果、現在ではハイビジョン技術をもちいて、高画質の画像が得られる内視鏡や、直径がうどん一本くらいで、鼻から入れる内視鏡が作られています。
ただ、細い内視鏡は検査を受けるのは楽でも、性能の点では、口から入れる一回り太い内視鏡におとるようです。難しいところですね。
消化管の他に、気道に内視鏡を入れる気管支鏡検査もあります。消化管用の内視鏡より細いチューブを口か鼻から入れて、気管が細かく枝分かれした先まで進め、肺の様子を調べます。
尿の出口から膀胱(ぼうこう)までたどる膀胱内視鏡検査もあり、男性の前立腺を観察できます。
いずれの内視鏡検査でも、観察するだけでなく、あやしい組織があれば小さく切り取って顕微鏡で詳しく調べたり、入り込んだ異物や、体内でできた石を取り除いたりできます。
さらに、最近はカプセル型の内視鏡も登場しています。チューブを入れるかわりに、大きめのカプセルを口から飲み込むだけの手軽さです。
カプセルは消化管の蠕動(ぜんどう)運動によって進んでゆき、内蔵されたカメラが画像を撮影して、8時間にわたって体の外に送信します。
小腸は消化管の入口からも出口からも離れているため内部の様子が知られておらず、消化管における暗黒大陸と呼ばれてきました。しかし、カプセル内視鏡の進歩により小腸の病気に関する情報が集まったことで、診断と治療法の研究がおおいに進みました。
検査の負担が軽いのは長所ですが、気になる場所があっても止まって観察するのが難しく、組織を切り取ることもできないので、いまのところカプセル内視鏡の検査能力は、通常の内視鏡には遠くおよびません。
また、とくに胃は中が広いため、通過するだけのカプセルで壁全体を観察するのは不可能です。どの検査にも強みと弱みがあるわけです。
内視鏡にも死角あり
胃がん検診についていうと、技術と経験を持つ医師が内視鏡検査を行えば、胃がんを早期発見できる可能性が高いと考えられます。
定評のある消化器系の専門医が近くにいるなら内視鏡検査を受けるのがよいでしょう。
日本で行われた調査では、前回から3年以内に内視鏡検査による胃がん検診を受けた人は、そうでない人とくらべて、胃がんによる死亡率が約30パーセント低いことが示されています。
その一方で、一部には、専門医であっても早期胃がんの20~40パーセントを発見できなかったという調査報告も存在します。
人の体は複雑で個人差があり、そこに胃炎や胃潰瘍による変化も重なるとなれば、小さな胃がんの発見は簡単ではないということです。
これに対して造影検査は、一定の正確さでがんを発見できるうえに、機械をバスに積んで、海辺の町でも農山村でも出かけて行って、検査を実施できる強みがあります。
胃の壁全体を見渡せることから、現在でも、お腹を切る胃がん手術の前には必ず造影検査を行います。「受けても意味がない」は言い過ぎです。
国立がん研究センターの「社会と健康研究センター検診研究部」は、がんによる死亡率を下げるのに役立つことが科学的に証明されているかどうかで検査法を評価しています。
これによると、内視鏡検査と造影検査のどちらにも死亡率を下げる効果があり、いずれも胃がん検診として推奨できるとのことでした。
ただし、注意点として、造影検査ではバリウムを飲む際の誤嚥(ごえん)に注意すること、そして内視鏡検査では、心配ない変化まで病気ととらえて過剰な治療を行わないこと、喉の麻酔薬による副作用と、食道と胃の粘膜を傷つけるおそれがゼロではないことをあげながら、事前に十分な説明をするよう求めています。
地域の事情で近くに専門医がいない人や、どうも内視鏡検査は苦手だという人は、造影検査でかまわないので、とにかく検診を受けましょう。
そのうえで、50歳以上の人は、可能であれば3年に一度、内視鏡検査を受けておくと安心です。
胃腸を最速で強くする
奥田昌子氏著『胃腸を最速で強くする 体内の管から考える日本人の健康』の最新情報をお知らせします。
『胃腸を最速で強くする 体内の管から考える日本人の健康』とは……
口、喉、食道、胃、小腸、大腸、肛門。私たちの体は巨大な一本の管=消化管でできている。食べたものを運び、消化し、吸収する消化管は生命活動に欠かせない高度な機能を担うが、繊細で不調をきたすことも多く、消化管の病気を抱える日本人は1010万人にのぼる。最も多いがんも消化管のがんだ。ところが軽い胃もたれや下痢は「そのうちよくなるだろう」と見過ごされ、その陰でがんをはじめ重大な病気が進行する。最新の研究をもとに、強い消化管をつくるために欠かせない食事や生活習慣、ストレス対処法を解説。「管」のすべてが腑に落ちる。