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世にも美しき数学者たちの日常

2019.06.06 公開 ポスト

「数学者同士の飲み会で、誰も割り勘できない」というのは、数学者あるあるだった!?二宮敦人(小説家・ノンフィクション作家)

7人の数学者と4人の数学マニアたちの頭の中を取材した『世にも美しき数学者たちの日常』を出版した作家の二宮敦人さんと、本書に登場する東北大学材料科学高等研究所教授の千葉逸人先生によるトークショー&サイン会は、参加者からの質疑応答でさらにヒートアップ。先生方のプライベートにまで切り込んでいきます! 
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数学には「何を証明したらいいのかわからない」という問題もある

質問者7(男性) 数学をやってきて「わからない」「楽しくない」と思った経験や挫折はありますか? 

千葉 「楽しくない」思ったことはないです。挫折もないんだけど……。「この問題は僕には敷居が高いな」っていうのは、最初の直感でわかる。それには手を出さない。たぶん、自分で言うのもなんだけど、センスのひとつだと思うんだけど。「ギリギリ頑張ったらいけるな」という問題に取っ掛かるわけですよね。ひょっとして10年かけても解けないんじゃないか、という問題を研究してみたい気持ちもあるけど、一方で仕事でもあるわけで、給料ももらってるし、結果を出さないといけないというのもある。小説はどうですか? 

二宮 本を一冊書く時、3回くらい「この仕事をやらなければよかった」という瞬間が訪れますね(笑)。この本もたぶん、あったと思います。

千葉 「これは売れる」とか「これだと売れない」っていう感覚はあります? 

二宮 僕は書けば書くほど自信がなくなっていくタイプで、だいたい本を出す直前に、鬱がピークになるんです。「これはたぶん1冊も売れない!」という妄想に支配されまして。これは僕の性格なので、そういうときは新しい仕事のことを考えるようにしています。だから、千葉先生が最初に「解ける」と思えるのはいいな、すごいなと思いますね。ただ、僕は一回も仕事を投げ出したことはないんです。だから「ギリギリ通過できるラインを千葉先生のように見抜いている」と言えなくもない(笑)。千葉先生、選んだ問題で壁にぶつかって途方に暮れたことは? 

千葉 ……1回だけあるかな。何を証明したらいいのかわからない、ということが。僕の場合は「こういう定理を証明したい」というターゲットがはっきり決まっていて、「これ、いけるんじゃないか?」と思ったときは行くんだけど、そもそも何を証明したらいいのかわからない、という問題も、数学にはあるんです。

二宮 何から手を付けていいのかわからないんですね。

千葉 僕はよく山登りにたとえるんですけど、「何を証明したらいいかわかってる」っていうのは、「山の頂上がある」ということ。で、そこにどうやって登ろうかと試行錯誤するわけ。ところが「何を証明したらいいのかわからない」というのは、「山の頂上がどこにあるかも、いくつあるかもわからない」ということ。そういうのは苦手かな。

二宮 それは解けたんですか? 

千葉 それはしばらく距離を置こうと思って。その山から離れて、違う山に登って、気分転換しよう、また10年後に戻ってきたらいいや……みたいな感じで。

二宮 じゃあまだ解いてないってことですか? 

千葉 解いてないですね。解いてないというか、自分が満足してないという感じです。

二宮 満足いく登り方ができてない、ってことですか? 

千葉 うん。僕らは何かの問題を解くというよりも、自分が満足する研究、自分の仕事に満足することが一番の目標なんで、何かが解けたからといって、満足するかどうかは別問題。僕が諦めた問題については満足してないから、まあ10年後くらいにまた考えるかもしれないけど。

二宮 もっといい解き方があるかもしれない、と。

千葉 うん。そうですね。

アイデアは天から降ってくるものでも、パッとひらめくものでもない

質問者8(男性) 千葉先生に質問です。問題を解くことを山登りにたとえていましたが、別のアプローチや異なる手法を試すときに、発想の共通項はあるんですか? どんな嗅覚で発想を見つけているのでしょう? 

千葉 嗅覚というと難しいんですけど、やっぱり「解きたい問題」が山の頂上にあるから、てっぺんに登りたいわけですね。で、「すでにそこまでのルートがある問題」も、もちろんある。でもそれは、他人の理論を使ってるんですね。やっぱり数学者としては、これまでに誰も考案していないルートを発見したいので、山の周りをぐるーっと周って、これはダメだ、これもダメだ、って、既存の理論では山の頂上に登れない、ということを確認する。これは「先行研究の論文を読む作業」に相当します。それで無理だと思ったら、自分で新しい道を開拓していくわけです。

質問者8 開拓する中で、道筋が見える瞬間とは? 

千葉 それはちょっと言葉で表すのが難しくて、突然パッとひらめくとかではないんですよね。例えば、僕が「蔵本予想」という問題を解くのに4年くらいかかったんですけど、4年間ずっと同じ問題を考えていたから、ちょっとずつ切り開いて行ったという感じでした。ある瞬間に天からアイデアが降ってきて、急に思いついたとかじゃなくて、何年もかけて、その問題にどっぷり浸かっていることで、じわじわ登っていく感じかな。よく似たような質問受けるんですよ。でもパッと思いつくことはないです。

質問者8 二宮先生への質問です。『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』も読んだのですが、藝大生と数学者の共通しているところ、明らかに違うところは? 


二宮 とても似ていたと思います。そして、僕自身のやっている仕事、文芸にも似ているなと。やっぱり美意識がすごい大事だという点ですね。千葉先生も「センス」とか「美意識」という表現使っていますけど、何かしら最初に「こういうの、いいんじゃないか?」というのがあるんですよね。それを表現の形に落とし込むときに、数学になったり、あるいは彫刻になったり、音楽になったり、本になるという感じですね。その美意識をどこまで信じられるか、だなと。その人の考える美しさが人とは全然違う可能性があるわけじゃないですか。
「そんなの全然きれいじゃないよ」という批判にさらされても、「いや、きれいでしょ?」と言い切れる人が、藝大に入ったり、数学者になってもやっていける人じゃないかと。その美意識を落とし込むため、他の人に見える形にするために、現実に創出させる技術が要るんですよね。数学であれば基礎的な理論であり、彫刻であれば素材の性質を知っているとか加工のやり方、手先の器用さであり……そういった基本的な技術と美意識を持ち得た人たちが数学者であったり、藝大生なのかなという印象があります。一方で、全然違うことっていうのは、数学とアートという違い以外、言いづらいというか……

千葉 いや、でも数学はアートですよ。

二宮 数学もアートですよね! そうなっちゃいますよね。藝大に数学科があってもいいんじゃないですかね。千葉先生も、アートとの垣根、感じないですか? 

千葉 僕らは基本的に美的感覚で、この定理は美しいとか、そうじゃないとか判断してるんで、そういう意味ではアートですね。

二宮 ちなみに千葉先生は彫刻とか音楽とか、やりたいと思ったことはないんですか? 

千葉 ……苦手(笑)。

二宮 そこで、なんで分かれるのか不思議ですよね。僕も、違いがよくわからないんですよね、これだけ取材して来ても。そんな答えで大丈夫でしょうか? 

質問者8 ありがとうございます。

数学者が求めているのは「普遍性」

質問者9(男性) 千葉先生は、思いもしない困難に遭ったり、既存の理論では解けないことがあったりした場合、どんな感じで研究を進めているのでしょう? 

千葉 ケース・バイ・ケースで、これという回答は思いつかないんですが。単に問題を解くというためではなくて、「問題を解くために新しい理論を作った」というのが我々数学者の「いい仕事」なんです。どうやって思いついたかは、さっきの方の回答と同じなっちゃうんだけど、何年もその世界にどっぷり浸かってじわじわやっていたらそこに辿り着いた、と。

質問者9 京都の望月さん(※)が、ABC予想ですごい理論を作られて、自分の言語で理論を組み立てたそうですけど、そういう方は稀なのでしょうか? 
(※望月新一……京都大学数理解析研究所教授。1985年に提起されて以来30年近く誰も解けなかった難問「ABC予想(等式「a+b=c」を満たす3つの自然数a,b,cに関して、3つの数の関係を説明する)」を2012年に証明した)

千葉 新しい理論を作るっていうのは、おそらくすべての数学者がやりたいことだと思います。もちろんそんなに簡単じゃないですし、全員がそれをできるわけじゃないけど、そのつもりで僕は研究しています。単発の問題を解くというより、何かターゲットがあって、それを解くために新しい理論を作って、その新しい理論がその問題だけじゃなくて、いろんな問題に使えて、数学全体の発展に寄与するような理論を作りたいとおそらく全員が思ってるでしょう。望月さんの最初の目標が何だったかはわからないけど、「ABC予想」を解くために、新しい「宇宙際タイヒミュラー理論」を作ったっていう経緯があって。たぶん初めからその理論を作ろうと思ったんじゃなくて、「ABC予想」を解くためにいろいろ考えていたら、もっとスゲーのができちゃったんだと僕は勝手に思っているんですけどね。本人から直接聞いたわけではないので、想像ですけど。

二宮 すごいクリエイティブですよね。例えば、絵描きが「色」という絵の具を使って何かを表現するように、数学者って「数」という前提のもとに何か作ろうとしてるんじゃないかなという印象を受けたんですけど。「新しい理論を作る」というのは、既存の理論の掛け合わせじゃなくて、「全然違う発想を作ってから、それを数式に落としていく」ということなんですか? 

千葉 既存の理論の掛け合わせでも、それが新しければ、新しい理論です。どっちが偉いとかはないです。手法ないし理論が新しいということはもちろん大事なんですけど、僕らが求めているのは「普遍性」で、どの問題、どの現象にも成り立つような理論を作りたいんです。単発の問題を解くために作ったものが、既存の理論の組み合わせでも、ゼロから自分で作った新しいやつでもいいんだけど、それが解けただけではなくて、他の問題にも普遍的に使える、というのが大事ですね。

二宮 じゃあ「発見」に近いんですかね? 見つけ出すみたいな。普遍的に使えるってことは、世界の法則を一個見つけたみたいなものですもんね。

千葉 そうですね。

千葉先生と二宮先生、妻はどこで出会った? 

質問者10(男性) この本に「奥さんが美しい」と書いてあったところが好きです。奥さんとは大学院生のときに知り合ったそうですけど、どうやって出会ったのですが? 将来を考える上で、話し合ったりしたことは? 

二宮 それは聞いてみたいですね。

千葉 要するに……何が理由でケンカするかとかそういうことですね? (笑) ケンカはよくします。大体の理由は、僕が研究に没頭してて、日中は大学にいるし、家に帰っても、晩ご飯食べた後は自分の書斎にこもってずっと研究しているので、会話が少ないとか、あんまりデートに行かないとか……です。別に面白くないですね(笑)。

質問者10 奥さんは数学の関係の方ですか? 

千葉 違います。奥さんと出会ったエピソードはよく聞かれるんだけど、それ、飲んでるときじゃないと話さないので……

二宮 飲んでますよ(笑)

千葉 二宮先生は『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』の冒頭に出てくるのが奥さんですよね。作中では奥さん、変態的な扱いになってましたけど? 

二宮 あれは変態的ではなくて、事実をありのままに書いてるだけで! 奇行が多いんですよ。まあでもちょっと変わってますね。

千葉 家庭生活でこれは困る、みたいなことはありますか。

二宮 まあでもシンプルに「家の中で彫刻を作るな!」と思いますね(笑)。木を削るわけですよね、ノミで。そうすると木くずだらけで、足の踏み場もないみたいな感じで。あとは自分の型を紙で取ってたことがあって。腕とか顔とか尻とかの型を取った紙が部屋にたくさん置いてあった時期があったんですが、そういうときに限って宅配便が来るんですよね。で、「これはなんですか?」って聞かれて、すごい説明しづらくて……。そういうのは勘弁してほしいなと思いますけど……ま、その程度ですかね? 

千葉 それは「その程度」ではないですよね(笑)。

二宮 慣れちゃいました。

千葉 ケンカはしないんですか? 

二宮 しますよ、千葉先生と似た理由かもしれません。僕は仕事が煮詰まってくると、不機嫌になってるわけではないんですけど、外から見るとそう見えるらしいんですよ。話しかけても返事もしないし……それは頭の中でいろいろ考えてるからなんですけど、態度が悪いらしいんですよね。そうすると彼女が傷つくので……まあだから、だいたい自分が悪いんですね、はい(笑)。

数学者は誰も割り勘計算ができない? 

質問者11(男性) 日常生活で数学を使って役に立つことはありますか? 数学でエロいことを考えたりするんですか? 

千葉 エロいことは考えないんですが、数学を使って何か役に立つこと……は、ちょっと思いつかないですね。本当に典型的なパターンなんですけど、数学者同士で飲み会に行って、誰も割り勘の計算ができないとかありますけど(笑)。

二宮 計算できない人が多いっておっしゃってましたよね? 

千葉 できないですね。実用では発揮できてない(笑)。

質問者11 美しいから数学をやるとおっしゃってましたが、美しさはビジュアルとして存在するもの? 

千葉 目に見える形で例示できると皆さんの役に立てると思うんだけど、残念ながらちょっと、僕はビジュアルで持っていなくて、なんとなくの感覚……「これは直感で美しい」「これは美しくない」と感じているので、なかなかビジュアルでは難しいかなと。

質問者11 ビジュアルでないと、プログラミングみたいな形で脳の中に出てくる? 

千葉 いや、そうではないです。例えば、あなたが美術館へ行って、この絵は美しい、この絵は興味ない、って感じるのは言葉にできないですよね? それと同じことだと思います。

受験数学と研究は全然違うもの

質問者12(男性) 僕は高校2年生で来年受験なんですけど、千葉先生は高校生の時に難しい問題も余裕で解けたんですか? 

千葉 僕は浪人しているし、高校生の時は、受験数学はそんなに得意なつもりはなかったですよ。受験数学のような「解くために人工的に作られた問題」と、「研究レベルの数学」は全然違うもので、「自分で新しい問題を発見して、自分で新しい理論を作って解く」のは違う才能だと思います。国際数学オリンピックとかありますけど、そういうところで賞を獲ってる方で、大学の数学の教授になってる人はあんまりいないし、そこはたぶん逆なんだと思う。どっちも出来たら一番いいんだけどね。それで、志望大学はどこですか? 

質問者12 えーと……

(小さな声で、そこは東北大学! と言う千葉先生)

質問者12 先生が授業されないって言ってたんで……

(会場爆笑)

工学や物理の難問を「数学」で解き、フィードバックする

質問者13(男性) 今後、物理に興味を持って、数学と結びつけるようなことは考えていたりしますか? 

千葉 ある意味で僕は、常にそういう姿勢でやっています。もともと工学部出身で、物理現象とかリアルな自然現象に興味があるんですが、僕がやってる数学のテーマも、論文は純粋数学の書き方をしているんだけど、元ネタは物理の方から取ってきてるんですよ。僕は同期現象などに興味分野があるんですが、工学や物理の現象で数学的にわかっていないものを元ネタにして、そこを抽象化して、数学まで昇華させる。それをちゃんとフィードバックするところまで持っていくんですよ。単に数学だけに満足してなくて、フィードバックして、同期現象はこういう理屈で起こっている、というところまで持っていくつもりで研究しています。僕はそれが正しい方向だと思っていて、工学とか物理で難しいと思われている現象、ないし問題って、数学的にも難しいんです。つまりいい元ネタが潜んでいる。そこをターゲットにして研究するというのが、僕がずっとやっているスタイルです。

質問者13 ブラックホールが撮影されたりなどしましたが、相対性理論の証明のようなことはどうでしょう? 

千葉 僕はそっちの専門ではないんですけど、ブラックホールの現象だったら、アインシュタインの相対性理論の「アインシュタイン方程式」という基本的な方程式とかは僕の専門分野に近いんです。「数学は何に役に立つんですか?」ってみんな思ってるかもしれないけど、一番強力なのは「普遍性」なんです。ほとんどの物理現象の基礎方程式っていうのは、微分方程式というタイプの方程式で説明できる。僕はそれの専門家なんですけど、それの解き方を調べることでどこにでも使える可能性があって、いろんな現象にフィードバックできるわけなんですよ。

質問者13 ありがとうございます。後でビールお持ちします。

千葉 いや、今でもいいんだけど(笑)。

血行を良くすると“ひらめき”が生まれる

質問者14(女性) 以前千葉先生の「同期現象について一緒に解いてみよう」という講座に参加して、面白かったんですけど、後半が難しくて……もう一度受けられるなら受けたいなと。そういうイベントをやる予定はありますか? 

千葉 一般向けの講演とかは、僕は新鮮で、やってても楽しいし、数学とか自然科学はこんなに楽しいんだよと発信する義務があると思いますが、頼まれないとやれないので(笑)。ただ、どんなお客さんの層が来るかわからないから、どうしても数学を知らない前提でしゃべるために、数学の知識がある人には緩すぎちゃうんですよね。それで、最後は飛ばします。50人くらいお客さんがいたら、何人かはどこかの数学科の学生がいるので、その人たちも楽しんでくれるように、最後は数学の話をするという感じでやってるかな。

質問者14 二宮先生は、小説で煮詰まった状態から脱するとき、急にひらめくものですか? 

二宮 時間が解決するという言葉に集約されてしまうんですけど……僕もそれはどうやったらいいのか知りたいですけど。ご存知の方いらしたら、教えてほしいんですけど。

千葉 それはきっとみんなが知りたい(笑)。

二宮 そうですよね。いろいろ考え抜いた結果、わかることもあるんですけど、「もう知るか!」となって、ゲームとかしていると思いつくこともあるので……謎ですね。でも、なんとなくありそうなのは、血行を良くすると思いつくんじゃないかというのがありまして。それに適しているのが「お風呂」「睡眠」「ウォーキング」。違うところから脳細胞に血が行って、思いつくんじゃないかと。僕、最近趣味が漢詩なんですけど、学者・詩人で、文章を書くのが仕事だった欧陽脩(おうようしゅう)という人が書いた「三上」というのがありまして。「三上」というのは、「馬上」「枕上」「厠上」のことで、この3つの場所でいい文章が生まれるということなんですが、それは僕も大きく頷けるところがありましたね。東工大の加藤文元先生にも同じ様な質問をしたら、「バス」「ベッド」「ブレックファスト」の「3B」は思いつきやすいという話になりました。加藤先生は「私はもう2つBがある。ひとつはバイシクル」と。自転車が趣味で、漕いでいると思いつくそうです。あとは「ブリッジ」。橋を渡ると思いつくらしいんですよ。1ヶ所から次の点に行くという心理的な効果があるのかも、みたいなことをおっしゃってましたね。こうして考えると、人によって違うとも言えるし、みんな似てるとも言えるし。

千葉 僕はね、バイシクル漕いでるときに電車に轢かれそうになってですね。

二宮 ダメじゃないですか! 危ないですよ! 

千葉 それから移動中に数学を考えるのはやめました(笑)。

二宮 それだけ夢中になって漕いでたってわけですね? 

千葉 うん、畦道で踏切がないところだったので……でもベッドは絶対正しい。

二宮 お風呂は? 

千葉 僕はお風呂入らないから。シャワーは浴びるけど。

二宮 他に千葉先生が思いつくタイミングとかありますか? 

千葉 電車に乗ってるときとか。普段研究室にこもっているときは、目の前にデスクと紙とペンがあるんですけど、電車に乗っているときは、紙とペンは出そうと思えば出せるけど、ちょっと恥ずかしい。だからメモしたり計算したりするものがない「考える時間」が、逆に別の発想が出てくる。なので電車は結構いいです。

大学で学ぶ環境が大事

質問者15(女性) 高校までの数学と大学からの数学は資質が違うというお話がありましたが、大学受験で、数学の資質を持っている人材がきちっと取り切れてないんじゃないかとは考えられませんか? また数学が得意だと思って、数学科に入ってからのミスマッチもあるのでしょうか? 

千葉 それは否定出来ないですね。でも日本の受験のシステムは、少なくともトップレベルの大学では上手く行ってると思います。我々プロの数学者が、適切な学生を拾うための問題を作って、ちゃんと真面目に採点しますので。そういった意味では、ちゃんと資質のある学生を拾ってるんだけど、学生自身が自分の適性が何かわかってないんだったら、それは本人の問題。僕自身は宇宙飛行士になりたくて工学部へ行ったけど、その後に数学科に移れた。だから、大学へ入った後にどの学部にでも進めるような環境を作る方が大事だと思います。

二宮 ということで……そろそろお時間です。

千葉 来てくれてありがとうございました。

二宮 そうですね、今日はありがとうございました! 


取材・文=成田全(ナリタタモツ)
2019年4月16日、代官山 蔦屋書店にて開催されました。(詳細は蔦屋書店のウェブサイトで

「数学が気になる皆さん」へ朗報♬

6月11日の夜に、
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ぜひお越しください!

(写真:iStock.com/bhofack2)

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百年以上解かれていない難問に人生を捧げる。「写経」のかわりに「写数式」。エレガントな解答が好き。――それはあまりに甘美な世界! 類まれなる頭脳を持った“知の探究者”たちは、数学に対して、芸術家のごとく「美」を求め、時に哲学的、時にヘンテコな名言を繰り出す。深遠かつ未知なる領域に踏み入った、知的ロマン溢れるノンフィクション。

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世にも美しき数学者たちの日常

「リーマン予想」「P≠NP予想」……。前世紀から長年解かれていない問題を解くことに、人生を賭ける人たちがいる。そして、何年も解けない問題を”作る”ことに夢中になる人たちがいる。数学者だ。
「紙とペンさえあれば、何時間でも数式を書いて過ごせる」
「楽しみは、“写経”のかわりに『写数式』」
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「数学は芸術に近いかもしれない」
「数学には情緒がある」
など、類まれなる優秀な頭脳を持ちながら、時にへんてこ、時に哲学的、時に甘美な名言を次々に繰り出す数学の探究者たち――。
黒川信重先生、加藤文元先生、千葉逸人先生、津田一郎先生、渕野昌先生、阿原一志先生、高瀬正仁先生など日本を代表する数学者のほか、数学教室の先生、お笑い芸人、天才中学生まで。7人の数学者と、4人の数学マニアを通して、その未知なる世界を、愛に溢れた目線で、描き尽くす!

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二宮敦人 小説家・ノンフィクション作家

1985年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。2009年に『!』(アルファポリス)でデビュー。『正三角形は存在しない 霊能数学者・鳴神佐久のノート』『一番線に謎が到着します』(幻冬舎文庫)、『文藝モンスター』(河出文庫)、『裏世界旅行』(小学館)など著書多数。『最後の医者は桜を見上げて君を想う』ほか「最後の医者」シリーズが大ヒット。初めてのノンフィクション作品『最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―』がベストセラーになってから、『世にも美しき数学者たちの日常』『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』など、ノンフィクションでも話題作を続出。

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