◎今回取り上げる古典:『戦争論』(クラウゼヴィッツ)
成功の説明はすべて後付けにすぎない
1990年代、シスコシテムズは驚異の成長をとげた。もともと地下室をオフィスにしたスタートアップだった。彼らは積極的なM&Aを重ね、市場を席巻することに成功した。社員は楽しみながら働き、そして、顧客の声に耳を傾ける。関連企業も支配することによりシナジー効果を生み出す。
自社でなんでもやるのではなく、必要な機能は企業を買収すればいい。そのような潮流もシスコへの称賛を増やしていた。しかし、2000年代に入ると、株価は大きく下落し、そして従業員のリストラクチャリングを実施するにいたった。
2019年の現在、シスコの株価は、絶頂期のそれにまでは至らないものの、復活している。批判はあれども、立派な経営状態にある。
私が興味深いのは、2000年代はじめの不調は、それまでシスコシテムズの強みと思われていた観点から語られていたことだ。つまり、顧客とのコミュニケーションがさほどうまくいっていなかった。取引先との情報共有も不十分だった。企業文化にも問題があった。買収企業の選定に、さほど合理性がなかった――などだ(なお、これらの過程はフィル・ローゼンツワイグ『なぜビジネス書は間違うのか』に詳しい)。
考えてみるに、好調企業を説明するに、「社員が楽しそうに働いている」「顧客中心」「関連企業とのシナジー」とさえいっておけば、ほぼすべてにあてはまるだろう。固有名詞は出さないものの、日本の某社も好調時にはそう説明されていた。
しかし、おなじく不調企業も説明できるだろう。「社内は不穏な空気」「顧客の真のニーズをつかめていない」「自社の強みを活かせていない」、など、裏返すだけだ。不調企業なのに、社員は楽しそうに働いていることはありうる。顧客中心でも、利益があがらないことはありうる。
私は常々「日本では大衆の手のひら返しがもっとも恐い」といっている。しかし、それは日本だけではない。成功したら、その戦略はすべて正しいとされ、さらに、失敗したら、その戦略はすべて間違っているとされる。その意味で、日本マクドナルド創出者の藤田田さんがいう「勝てば官軍」は正しい。
おなじ企業であっても、感想が好意的にも、悪意的にもなる。
ここから先は会員限定のコンテンツです
- 無料!
- 今すぐ会員登録して続きを読む
- 会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン
古典にすべてが書かれている。
古典の魅力とは何か? どんな古典を読むべきか? 古典初心者のための入門コラム
- バックナンバー
-
- Uber Eatsでチップを払わないと自...
- 読み飛ばす勇気を #古典読書入門の秋 4...
- 人生が短いのではない。人生を短くする時間...
- コロナ禍で「自由」と「幸福」への不安が湧...
- リア充にうざく絡む引きこもり男のエネルギ...
- 研究機関のウィルスが巻き起こす異常事態と...
- 蔓延する新型コロナへの対策を感染症の日本...
- 【考える時間】とにかく生きよ。人生の教訓...
- 新型コロナの予言に満ちた小説『ペスト』が...
- 日本人の給料が上がらないのは牛丼が安いま...
- 付け焼きの意見を垂れ流す〈知的賤民〉の愚...
- 愛と道徳は私たちをなぜ制約するのか?ニー...
- 闘いながらも弱さを隠せないニーチェ「この...
- 人気古典『エセー』で人生の救いとビジネス...
- 考え続けた人だけが勝利する『戦争論』の真...
- 『戦争論』(クラウゼヴィッツ)はビジネス...
- 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の...
- 「ビジネスの合理性」を獲得するには「不合...
- 教養あるライバルを短時間で追い抜く方法
- 「中国古典名言事典」があれば、プレゼン、...
- もっと見る