落語家・桂竹千代さんプレゼンツの連載も好評のうちに第四回!
冒頭から、神様の名前が「寿限無」のようにずらずらと連なって登場する古事記。さすが日本最古の歴史書は、スケールも常識も違います。
さてみなさん、「黄泉(よみ)の国」って聞いたことありますよね?!
今回は、死んでしまった愛する妻が黄泉の国に行っちゃったのを追いかけるという、あの有名なお話。
* * *
第3話「こわっ! イザナミハザード」
さあ、イザナギは、妻を訪ねて3千里です。
ついに黄泉の国へ到着(出雲国。現在の島根県辺りにあったと言われてます)。
「イザナギは死んでないのに、何で行けるんだよ!」というヤジは受け付けません。これが古事記クオリティです。
イザナギ「あのーこんばんは。ウチの妻って来てます?」
警備員「奥さんの名前は?」
イザナギ「イザナミっていいます」
警備員「イザナミさんね、あー昨日来たばっかりの新人さんね。今呼びます。イザナミさーん面会希望の方来てるよ」
イザナミ「はーい。……あっ、あなた!」
イザナギ「迎えに来たよ! ミッちゃん!」
イザナミ「でもあなた……私はもうこの国の住人なの。こっちの方が居心地いいの。だからもうほっといて。絶対に開けないでよ」
ピシャッ! 洞窟の部屋に入って戸を閉めてしまいます。
門前払いをくったイザナギ。
「開けるな!」と言われると……開けたくなるよねー!
(脱線)むかしむかしある所におじいさんが住んでいました。おじいさんが薪を取りに行くと1羽の罠にかかった鶴(つる)がいました。おじいさんは助けてあげます。その晩。外は猛吹雪。トントンと戸を叩く音が聞こえる。おじいさんが開けてみるとそこには肌の白い美しい女性の姿。
女「今晩ここに泊めて頂けませんか?」
おじいさん「お困りですか。どうぞ」
泊めてあげたものの、布団に入っても目がギンギンのおじいさん。
おじいさん「……もしかしてあれは昼間助けた鶴! 鶴がワシに恩返しをしに来てくれたんじゃ!」
そう思い「絶対開けないでください」と言われた戸をガラッと開けて中を見てみたら……
中の家財道具がいっさいがっさいなくなっていた。
おじいさん「ああしまった! あれはツルじゃなくて……サギだった!」
ちゃかちゃんちゃんちゃん♪
(脱線終わり。物語に一切の関係はございません)
ガラッ! イザナギは戸を開けます。
中が暗いので、髪に刺していた櫛の歯を一本折って、それに火を灯すと……目の前に現れたのは蛆(うじ)のたかったイザナミの姿でした。
「見いたぁ~なぁ~!!」
イザナミゾンビが追っかけてきます。
「いやー! 来ないでー!」(イザナギのセリフです)
子分ゾンビも従えて追いかけてくる、イザナミハザード!
イザナギは、逃げながら自分の身に着けている黒御蔓(くろみかずら。蔓(つる)でできてる)という髪飾りを投げつけました。するとそれがブドウに変わり(種無しかな)、魔物が食らいついてきます。その間にまた逃げる(やっぱ種無しかな)。
またまた逃げながら髪に刺してあった櫛を投げつけると、今度はそれがタケノコに変わります(ボクの前座の時の名前は「竹のこ」でした)。これまた魔物が食らいついてる間に逃げる。
ちなみに、ここは「あの世」なので、現実と逆転して、髪飾りや櫛が原材料に戻るってわけです(偽造表示してたらわかっちゃうよね)。
黄泉比良坂(よもつひらさか。あの世とこの世の境。島根県に伝承地があるよ! サカは坂であり境なんだね)までやってくると、桃の木を見つけます。イザナギは、すかさず桃の実を採ってゾンビに投げつける!
するとゾンビは……ことごとく逃げる!
古来中国の思想で、桃は邪気を払うと言われているんです(だから鬼退治に行くのは「桃」太郎ですよね)。
しかし、大ボスのイザナミは、まだまだ元気ピチピチ(桃だけにね! どうだ!)!
イザナミ「まぁ~てぇ~!!」
イザナギは洞窟から出ると同時に、千引の岩(ちびきのいわ。千人の力でようやく動かせるでっけー岩)で、洞窟に蓋(ふた)!
イザナギ「これでどや! もう追ってこれないだろ!」
イザナミ「ルパ~ン!」
しかしイザナミはこれでも諦めません。よーしこうなったら呪いをかけてやる!
イザナミ「オマエノクニノニンゲンヲイチニチセンニンコロシテヤル!」(ゾンビっぽい喋り方)
イザナギ「ナニー! キミガソウイウツモリナラ(いや、こっちはゾンビじゃないだろ! )、ボクは1日に1500人生んでやるぞ! (いや、お前1人で生めんのかい! )」
これがその後、世界の人口が増えていく由来となっております。
また、人間に寿命ができたのも、このイザナミの呪いによるものだと日本神話では説明されています。
島根県の黄泉比良坂伝承地に行くと、「黄泉の国への手紙ポスト」があります。亡くなった人へ向けて手紙を書いてそこに投函するとお焚き上げしてくれます。
竹千代も亡くなった知人に書きました。返事はまだ来ません。
ちょっとここで、ほんの少し専門的な話させてください。難しかったら読み飛ばして大丈夫です。
神々の時代より少し後、3~7世紀頃に、古墳時代という、全国各地に盛り土のデッカイお墓ができた時代があります。古墳には、「前方後円墳」と呼ばれる有力豪族の墓もあれば(あの鍵穴の形したやつね!)、円墳というお椀型の形もあります。この円墳は追葬が可能なんです。つまり、フタ(入口)を開ければ、後から複数体、遺体を追加で埋葬できるということ。このタイプのお墓を、「横穴式石室」と言って、遺体を置く場所を「玄室(げんしつ)」というんですが、この玄室が黄泉の国を表しているという説があるんです。このイザナギの話の場合、千引の岩がフタというわけです。
また、古代は殯(もがり)という葬送儀礼がありました。人が死んだ時に、すぐには埋葬せずに、蘇生を願ったり、鎮魂したりする儀式で、それを行う場所を殯宮(もがりのみや)といいます。これを黄泉の国だという見解もあります。……すみません。大学院で「古代人の死生観」が専門だったので調子に乗りました~!
さあ、黄泉国より帰還したイザナギ。全身が穢(けが)れてます。
そこで禊(みそぎ)をすると、そこから誕生したのが……。
次回、いよいよ日本神話の主演の登場です。
落語DE古事記
神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね!
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