ある調査によると、日本人の「年間セックス回数」は世界最下位だそう。しかし、それは真実なのでしょうか? こうした統計データ、アンケート調査、世論調査などにひそむ「嘘」をあばくのは、テレビでもおなじみのエコノミスト、門倉貴史さんの『本当は嘘つきな統計数字』。だまされないために、ぜひ読んでおきたい本書の一部をご紹介します。
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統計調査のウソを見抜け
具体的にどのような統計調査に虚偽申告によるバイアスがかかりやすいかと言えば、「下半身」に関する調査が圧倒的に多い。
たとえば、男性を対象とした童貞率の調査には下方バイアスがかかりやすいと指摘されている。多くの男性は自分が実際には童貞であっても、恥ずかしいという理由からそれを隠そうとする傾向があり、その結果、童貞率の数字が下振れしやすいのだ。
国立社会保障・人口問題研究所の『結婚と出産に関する全国調査』の結果によると、30歳から34歳までの独身男性で異性との性交渉を持ったことのない人(中年童貞)の割合は05年で24.3%となっているが、回答の中に虚偽申告が紛れ込んでいることを踏まえると、実際には30%を超えている可能性が高い。
また、夫婦のセックスレスに関するアンケート調査にしても同様で、セックスレスの夫婦は、セックスレスの事実を隠そうとするので、セックスレス夫婦の割合の数字には下方バイアスがかかりやすい。
さらに、年間のセックス回数に関する国際調査の結果にも、文化的・民族的な差異を背景としたバイアスがかかりやすい。
たとえば、英国のコンドームメーカー「デュレックス」が発表したアンケート調査『Sexual Wellbeing Global Survey 2007/2008』(調査は06年7月から8月にかけて実施、調査対象は全世界で2万6000人)によると、日本人の年間のセックス回数は48回であった。
この数字は比較可能な26カ国中で最下位。日本が最下位になるのは3年連続である。ちなみに、第1位は南欧のギリシャで、年間のセックス回数は164回となっている。
ただし、このアンケート調査の結果をもって、「日本人はセックスに対してきわめて消極的である」とただちに結論づけることはできない。
数字に下方バイアスがかかっている
まず、そもそもの話として、この調査はインターネットによるアンケート形式となっているので、それによってサンプルが各国の母集団の特性を十分に反映していない可能性がある。
また、この調査はセックスの回数やセックスの満足度など「性」に関する意識を様々な角度から聞いているので、調査の結果には「性」に対してオープンかクローズかという文化的・民族的な違いも強く影響してくるだろう。
世界的にみて、日本人は「性」に関する個人情報をクローズする傾向が強い(セックスの話をおおっぴらにしない)ので、日本人の回答者が質問に対して、実際よりも控えめの数字を回答している可能性は高い。
日本では周りの人がどれぐらいセックスしているかという情報があまり出てこないので、「もしかしたら、自分のセックスの回数は他の人に比べて多すぎるのではないかしら?」と不安になり、「性」に関して慎ましいという日本人のイメージを崩さないように、アンケートに控えめの数字を記入してしまうのだ。
逆に、「性」に対してオープンな国の場合には、回答者が現実よりも誇張した数字を記入する可能性が高いと言える。
日本のようにセックスに関してクローズな国はセックス回数に下方バイアスがかかりやすく、逆にオープンな国はセックス回数に上方バイアスがかかりやすくなるので、両者の数字は大きく乖離することになってしまう。
さらに、性風俗産業が発達しているかどうかも、アンケートの回答結果を左右する要因となる。質問は、「恋人や夫婦間でのセックスの回数」を聞いているので、性風俗産業で遊んでいる男性の場合、実際にはセックスの回数が多いのに、それがアンケート調査の結果には反映されないということになる。
その点、日本は国際的にみて性風俗産業が発達しているほうなので、その分だけ、セックス回数の数字に下方バイアスがかかっている可能性は高いと言えよう。
もちろん、日本では働きすぎなどの問題が深刻化しているので、現実に日本人のセックス回数は他国に比べて少ないかもしれないが、アンケートの結果に現れた数字は少し誇張されている可能性が高いということだ。
このような事情から「下半身」に関する調査の結果をみる場合には、ある程度の幅を持って解釈をする必要がある。
※本文中のデータは、すべて、2010年の刊行時のものです。