ある調査によると、日本人の「年間セックス回数」は世界最下位だそう。しかし、それは真実なのでしょうか? こうした統計データ、アンケート調査、世論調査などにひそむ「嘘」をあばくのは、テレビでもおなじみのエコノミスト、門倉貴史さんの『本当は嘘つきな統計数字』。だまされないために、ぜひ読んでおきたい本書の一部をご紹介します。
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視聴率10%で「2.4%」の誤差が
テレビ関係者が数字を上げようと必死になる視聴率。しかし、この視聴率は、統計的に必ずしも精度の高いデータとは言えない。ここで、視聴率がどのように作り出されているかをみておこう。
視聴率とは、テレビを所有している世帯のうちどれだけの割合がテレビの番組やCMをみているかを調べたものだ。
現在、日本のテレビ番組、CMの視聴率の集計は、ビデオリサーチ社が一手に担っている。視聴率を計算するにあたって、テレビを保有している全ての世帯を調査することはできないので、サンプル調査が行われる。
ビデオリサーチ社は全国27の調査エリアでオンラインシステムを使った視聴率調査をしている。気になる調査対象世帯の数だが、関東地区・関西地区・名古屋地区がそれぞれ600世帯、それ以外の地区はそれぞれ200世帯で、合計6600世帯となっている。
関東地区だけでも1702.2万世帯が自家用テレビを保有しているので、関東地区のサンプル600世帯は全体のわずか0.004%にすぎない。たったこれだけの比率の世帯数をもとに、視聴率が集計されているのだ。
関東地区のサンプル数600世帯の場合、計算された視聴率にどれだけの誤差が生じるのだろうか。視聴率が10%と出た場合には、プラスマイナス2.4%の誤差を考える必要がある(95%の信頼度)。また視聴率が50%と出た場合には、誤差が最大でプラスマイナス4.1%まで広がってしまう(95%の信頼度)
どのテレビ番組、CMも小数点以下の細かい数字で、激しい視聴率の順位争いを繰り広げているが、視聴率のカラクリを調べると、実は、誤差の範囲で片付けることができる程度のケースが非常に多いということになる。
ラジオの聴取率はどうか?
一方、ラジオには聴取率というものがある。ラジオの聴取率調査も視聴率と同様、ビデオリサーチ社によって行われているが、調査方法は視聴率と聴取率では異なる。視聴率の場合は、テレビに専用の測定器(視聴率メーター)を取り付けて調べるのだが、ラジオではそのような調査方法をとることができない。
なぜかというと、ラジオは車の中や通勤途中など様々な場所で聴かれるので、特定のラジオに測定器を取り付けての調査では正確な数字をつかむことができないからだ。
このため、ラジオの聴取率調査では、サンプル対象に調査票を送付し、この調査票に記入してもらう方式をとる。調査票は持ち運びに便利なよう手帳サイズになっている。
サンプル対象は、首都圏、関西圏、中京圏に分けて、それぞれ12歳から69歳までの個人3000人が選ばれる(無作為系統抽出法による)。テレビの視聴率調査は世帯単位でサンプルを抽出するが、ラジオは個人で聴くケースが多いため、個人単位でサンプルを抽出している。
ラジオ聴取率の調査は毎月行われているわけではなく、首都圏では年6回(偶数月)、関西圏と中京圏では年4回(4月、6月、10月、12月)という頻度だ。1回の調査は1週間から2週間程度かけて行われる。このため、聴取率の調査期間になると、各ラジオ局は聴取率アップを目指してプレゼント企画やキャンペーンなどを増やすようになる。
では、ラジオの聴取率はどの程度信頼できるのだろうか。聴取率調査への協力者には「薄謝」が支払われるということだが、「薄謝」で、細かい調査票にどれだけ正確に記入してくれるか不透明な部分も多い。テレビのように測定器を使って計測するほうが正確なので、一部の国では外出先でもラジオの聴取率が取れる仕組みを導入している。
たとえばスイスでは、調査対象者に装置を取り付けた腕時計をしてもらい、流れてくる音をすべて記録するという方式で聴取率を集計している。記録した音声をラジオの全番組の音声データと照合することで聴取率を算出する。
※本文中のデータは、すべて、2010年の刊行時のものです。