わたくし山田と友人カッパ、40すぎの独身女ふたり、はじめての山形旅。
米沢駅におりたち、小野川温泉で米沢ラーメンを食べ、薄い板に囲われた無人の露天風呂につかり、すでに山形が大好きになった我々。
そもそも山形に来たのは、カッパが会いたい人がいて、いきたい宿があったから。
猫好きの集まる猫アプリのなかだけで長年付き合いのある猫友達が、猫の従業員がいることで猫好き達に知られる、白布(しらぶ)温泉の旅館におつとめなのです。
その猫友達さんが、ご親切に小野川温泉まで車で迎えにきてくださいました。私たちよりもちょっとお姉さんのTさんとは、カッパも初対面。会って5秒でマジで「いい人」と確信できる優しいお顔。
旅館にいく前に、カッパの要望で、とある名所に立ち寄ってくださるとのことです。
なんでも遠くから見ると、トトロにそっくりな森があるそうで。ときは11月。向かいながら「この季節はどうなってるんだろう~」「紅葉で赤トトロになってたりして!」と盛り上がっています。
しばらく走ると、ひろーい畑のなかに、ぽつんと展望台らしきものが見えました。そこで車をおりるなり、3人、爆笑。
「スッカスカなんですけど!」
紅葉もおわって葉が落ちて、木々はスッカスカ。雲ひとつない秋空の下、トトロの亡霊みたいなのが佇んでいました。
笑うだけ笑い、再び車に乗り込んで、トトロの足元を通りかかりました。そこは「李山丹南山神」の鎮守の森。何十本もの木が組み合わさり奇跡的にトトロのような形をしていて、あんまり観光客が来るので、集落のみなさんが展望台を整備したのだそう。春か夏にぜひ。
さて、宿へ。
白布温泉への山道を進むと、ハザードをたいて停まる数台の車が。すわ事故かと思ったら、Tさんが冷静に「猿ね」。
猿は1匹や2匹ではなく、群れで道路やその周辺にいました。おじさんたちが車からおりて、ニコニコと写真を撮っています。猿たちはそんな人間にかまうことなく、ただそこいらじゅうに「いる」状態。
私たちは猿とおじさんの群れをすりぬけ、旅館「西屋」に到着しました。
700余年前の開湯ほどなくして開いた宿は、茅葺き屋根の重厚な建物。玄関、囲炉裏、廊下、窓のサンにいたるまで、趣やら情緒やらがあふれまくっています。近代になり変わったことといえば、大部屋から個室になったくらいだそう。
部屋に案内していただき、さっそく温泉へ。
ここのお風呂は、江戸時代中期に巨大な御影石を組みあげて建立した、白布温泉最古の湯。脱衣所は洗面台やドライヤーもあり近代的なのですが、お風呂のほうは、昔のまま。カランもなければ縁さえもなく、黒い床に黒くて四角い穴があいているような状態。天窓のような部分から、まさに滝のように、温泉がドバドバ流れ込んでいます。
洗い場の床に微妙な傾斜があるようで、桶で湯をすくって流しても湯船にけっして戻らないという、不思議なつくり。
濃い温泉と歴史につかり、ほっかほかになったので、散歩にでました。
宿のすぐ近くに酒屋が1軒。モダンな内装で、山形の地酒がずらり。「4種飲み比べ500円」というのがあったので試してみることに。ガラスのおちょこに、冷やの日本酒が注がれます。比べたところで「うまいっ!」としかわかりませんが、ワンコインでなかなかの量をいただき、湯あがりもあいまって、まなこがとろり。
部屋に戻り、座布団を枕にグーグー寝ました。
18時、夕食の会場へ。
緊張の時間がやってきましたよ。私はぽっちゃりのくせに少食で、旅館のコースを食べきれるか不安なのです。お肉は無理とわかっているので和食にしましたが、それでもテーブルいっぱいにごちそうが。
菊のおひたしなど趣向を凝らした色とりどりの小皿、米沢牛陶板焼き、米沢郷土料理の冷汁、山形名物芋煮鍋。あぁ、このおいしそうなものたちをおいしいままに平らげたい。
近くのテーブルではマダム3人がおしゃべりに花を咲かせています。子育ても落ち着き、旦那を家に置いて、万事繰り合わせて久しぶりに会ったのでしょうか。
私は頭のなかで段取りを決め、黙々と箸を動かし、真剣に味わいます。たらたらしゃべっていてはお腹がふくれてしまうので、食事に集中。一緒に来たのが、気を遣わない、つもる話もない相手でよかったです。
果たして私は、デザートのエッグタルトまで、すべて食べきることに成功しました。やったー! おいしかったー!
ふかふかの布団が敷かれた部屋で、地ワインや地酒を飲んで、就寝。
朝6時起床。
温泉に入り、内臓をゆすり起こします。だって朝ごはんも全部食べたいもの。
会場にいくと案の定。テーブルには、焼き魚や煮物や茶碗蒸しや漬物各種とりそろい、さらに温泉卵まで。ごはんは、たきたての山形産「つや姫」ときましたよ。
絶対に全部食べたい。またも無口のまま真剣にとりくみ、全品制覇、おいしくいただきました。
カッパは欲望にまかせるまま白米をおかわりしつづけていたら、3杯半。おかずとの対比としては正解です。
チェックアウトまでの間、カッパは、宿の従業員である猫たちの出勤をめざとく見つけ、そそくさとロビーへ。猫に興味のない私はもう1度温泉につかり、消化をたすけてもらいました。
「西屋」は昔のままの姿とはいえ、すみずみまで手入れされ、従業員のみなさんの心配りを随所に感じました。
カッパによると、猫たちも「プロ」。言われてみれば、カッパ家の2匹の猫は、隠れるし、さわらせてくれないし、飼い主の抱っこでさえも拒絶しますが、ここの猫たちはだまってお客さんに身を委ねていました。あれがプロというものか。
眼鏡美人若女将の行き届いた従業員教育のおかげで、白布温泉で素晴らしいひとときを過ごすことができました。
山田マチの山だの街だの
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