メール、チャット、SNSなどの普及で、以前より「書く力」が求められるようになりました。何をどのように書けば、相手にきちんと伝わるのか。そして、相手の心を動かすことができるのか。そんなお悩みに優しく寄り添ってくれるのが、「魔法の授業」と呼ばれた90分を完全収録した『つらいことから書いてみようか』です。名コラムニストが、小学校5年生に語った文章の心得とは? 大人が読んでもためになる本書を一部、ご紹介します。
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「感動体験」は文章の題材になる
みんなは野球とサッカー、どっちが好きなんだろう。
真っ二つに分かれるのかな。僕は野球が大好きで、阪神タイガースのファンです。きのうは鳥谷選手がホームランを打ちました。打った瞬間「あっ」って声を上げていました。
あっ、ホームランだ──。
野球でもサッカーでも、スポーツを見ていたら、「あっ」「あっ」の連続です。ときには「あ~あ」と声を落とすこともありますが、なぜ「あっ」って声を上げるんだろう。
それはどんなときなんだろう。「あっ」と思ったところに何があるんだろう。
きっと君たちの心が揺り動かされているんだね。感動しているんですね。
僕は心が動かされて「あっ」と声を上げたものこそが、文章の大もとだと思っています。その感動は二つに分けられるんだけど、何と何かわかるかな。
一つは外から得られるものです。本を読んだり、映画を見て感動することもあれば、スポーツの試合やコンサートを見て感動することもある。あるいは人の話を聞いて感動する場合もあるよね。
もう一つは、自分自身が何かをやって得る感動です。懸命に何かに取り組んで、それができるとうれしいよね。達成感は感動につながるんですね。
感動すると脳内にはドーパミンという物質があふれてくるそうで、脳が活性化します。人間が生き生きとしてくるんだね。
これまで体験したことを書くようにと何度も言ってきましたが、感動体験って、心を強く動かしているから脳の中にずっと残っているんだそうですよ。だから体験したことの中でも、感動体験は作文の題材にもってこいなんです。
村上春樹もこう言っている
そしてこのことも覚えておいてほしいのですが、感動するって、そこに自分自身がいるということでもあるんです。A君が「あっ」と言った。そこにA君自身がいる。B君も「あっ」と声を上げた。やっぱりそこにB君がいるんだということです。
これは案外大切なことなんです。「自分のこと」とか「自分とは」といった作文を書きなさいと言われても、そんなに簡単には書けないよね。つい心の中をのぞいてみたりする。
すると、ますますわけがわからなくなる。自分って何? 何? 書けって言われても……。
でも、そうだ、感動したところに自分がいると思えばいいんだ。そう思うと、すっと書けるかもしれないぞ。
ああ、おいしかったというのも感動だよね。みんなの好きな食べ物は何だろう。僕は玉子どんぶりが大好きなんです。玉子と玉ネギの混ざりぐあいが好きなんですね。
玉子どんぶりって、どこの食堂でも食べられるし、店によってそんなに味が変わるものでもない。角のそば屋さんでも、バス停近くの大衆食堂でも似たり寄ったりの味です。それに出てくるまでそんなに時間もかからないので、安心して注文できます。
ですから、「自分のこと」とか「自分とは」といった作文を書きなさいって言われて、とくに思い浮かぶことがなかったら、僕は玉子どんぶりのことを書くような気がします。
たしか村上春樹さんは牡蠣フライのことを書けば自動的に自分自身が表現される、といった趣旨のことを書いていました。
みんなだったら何だろう。カレーライスとか、いろいろあるだろうね。自分とカレーライス、自分とハンバーガー、自分と焼肉なんていうのも面白い作文になりそうだよね。
つらいことから書いてみようか
メール、チャット、SNSなどの普及で、以前より「書く力」が求められるようになりました。何をどのように書けば、相手にきちんと伝わるのか。そして、相手の心を動かすことができるのか。そんなお悩みに優しく寄り添ってくれるのが、「魔法の授業」と呼ばれた90分を完全収録した『つらいことから書いてみようか』です。名コラムニストが、小学校5年生に語った文章の心得とは? 大人が読んでもためになる本書を一部、ご紹介します。