日本人の新型コロナウイルスの感染者数と死亡数は、欧米に比べてなぜ少なかったのか。今後、「夜の街」問題はどうするのか。ファクターXは何なのか。予防に手落ちはないか? 抗がん剤の世界的権威にして細菌学・ウイルス学のエキスパートが、私見を含め、最新の疑問に答える。
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活性酸素の爆発的生成
インフルエンザウイルス感染症の重症化からわかったことを念頭に新型コロナウイルスCOVID-19に罹患して亡くなったと聞くと、我々の31年前の実験データを思い出します。それは、ウイルスが人を攻撃して死に至らしめたと思いがちですが、ウイルスはきっかけに過ぎない可能性があります。実は、我々はマウスを使ったインフルエンザウイルスの感染実験で、ずいぶん前にこれを明らかにしています。
マウスにインフルエンザウイルスを感染させ、重症化するとそのマウスは死に至りますが、マウスの死骸からはウイルスが全く見つからなかったのです。これに疑問を持った我々はさらに研究を進め、ついに、マウスはウイルスによって殺されたのではなく、ウイルスに感染した後の急激な炎症反応によって死んだことがわかったのです。
つまり、ウイルスが体内に侵入してくると、それを排除しようとマウスの持つ防御反応として炎症を起こすのですが、それが過剰となるとマウス自身が傷つき、その結果死に至るということを発見したのです。我々はこれを「ウイルスなきウイルス病」と呼び、1989年に科学雑誌『サイエンス』に発表し、当時の科学界では大きな話題となりました(文献1)。また、より詳細は別のジャーナルに報じています(文献2)。
マウスがインフルエンザに感染すると、免疫を司る白血球からウイルスを殺すための「活性酸素」が猛烈に放出され(非感染時のマウスの200~600倍)、この活性酸素のお陰でウイルスは全滅します。ところが急激に増えた活性酸素が暴走して肺の細胞や組織まで傷つけてしまっていたのです。その結果、マウスは肺炎を引き起こし死に至ったのです。
つまり「活性酸素」が死亡の直接の原因分子であったわけで、「活性酸素」はまさに両刃の剣といえるのです。実はこのとき、活性酸素(スーパーオキサイド)に加え、一酸化窒素(NO)の爆発的生成も同時に誘発されていることも明らかにしました(後述)。
活性酸素がマウスのインフルエンザの死因であることの証明のために、我々はまず以下の3つの事実によってその根拠を明らかにしました。
(1) 活性酸素を中和・消去する薬物を合成し、病気のマウスに投与することにより、ほぼ全例が治癒し生存したこと。
(2) 活性酸素を合成する酵素を阻害するとマウスは治癒したこと。
(3) (2)の酵素の基質(活性酸素を作るための原料:アデノシン)の供給を止めることによって、何れも治癒に成功したこと。この3つの実験で活性酸素が真の病気の原因であることを世界で初めて明らかにしました(文献1,2)。これは30年以上も前のことです。
【引用文献】
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2. T. Akaike, M. Ando, T. Oda, T. Doi, S. Ijiri, S. Araki and H. Maeda: Dependence on O2- generation by xanthine oxidase of pathogenesis of influenza virus infection in mice. J. Clin. Invest., 85, 739-745 (1990)
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•奥野修司 2020年3月19日、3月26日号 週刊新潮 •『トマトとイタリア人』内田洋子 シルヴィオ・ピエールサンティ 文藝春秋
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