日本人の新型コロナウイルスの感染者数と死亡数は、欧米に比べてなぜ少なかったのか。今後、「夜の街」問題はどうするのか。ファクターXは何なのか。予防に手落ちはないか? 抗がん剤の世界的権威にして細菌学・ウイルス学のエキスパートが、私見を含め、最新の疑問に答える。
* * *
抗体価検査とは、その人がこのウイルスにかかったことがあるかどうかを調べるものです。もし抗体があれば二度目にそのウイルスが来ても、抗体がウイルスを中和し、二度かかることから免れる(だから免疫と命名された)ことになります。ただし、コロナウイルスは高変異性なので、抗体が必ずしも有効とは限らないという説もあることは知っておきましょう。
しかも、この抗体の活性(力価)がいつまで続くかまだ分かりません。1週間程度という話もあります。天然痘やポリオの抗体は、一生涯にわたり力価が持続します。
しかし、同じウイルスでなくても、そのウイルスに類似の顔を持つウイルスにかかっておれば、その別のウイルスに対する抗体が違うウイルスに対するものだけど守ってくれることが稀にあり、これを交差免疫といいます。この点、結核菌のワクチンBCGに対する抗体あるいは免疫力は、他の細菌やウイルスの感染を多少抑えると分かっています(自然免疫の活性化)。この交差免疫が日本での死亡者が少ない原因ではないかという説があります。
既に別の類似のウイルス、例えばインフルエンザウイルスのB型、あるいはSARS(サーズ)の弱毒化したウイルスなどで軽く感染した人が、これら低死亡率の地域(東アジア~南アジア)に多くあり、その抗体がコロナウイルスの感染に対し交差免疫として感染を抑えているのではないかとする考え方です。
またコロナウイルスでも少量の場合、一般的な非特異的な免疫力(自然免疫力)が充分あれば不顕性感染(感染すれども発症せず)となり、そのヒトの体内にはコロナウイルスに対する抗体ができます。そうすれば、今後このウイルスが来ても中和され感染しないか、重症化し死亡に至らずにすむという考え方もあります(ワクチンと同じ考え方)。賛否はあるものの、スウェーデンはこの方式(何もしない)をとっています。
現在進行中の日本人3万名に対する抗体価検査の結果が待たれます。健康人のうち何人くらいのヒトの抗体(血清)が陽性になっているか、多くの人が陽性化していればコロナウイルスの感染性が社会的には抑えられます。
いずれにしろコロナに対する抗体価の測定は極めて重要で、その抗体の保有者の割合が60%以上であれば、社会は楽観的になってよいことになります。
6月29日付の bioRxiv preprintにスウェーデンで詳しく調べた結果が記されています。『重症者ではほぼ100%に中和抗体がみられる。PCR陽性で無症状の人(不顕性感染)や軽症の人は中和抗体は微弱もしくは無いが、T細胞・メモリーT・Thが陽性になっており、軽症者では細胞性免疫が有効になる』という重要な記述でした(文献19)。
<引用文献>
19. Takuya Sekine et al, Robust T cell immunity in convalescent individuals with asymptomatic or mild COVID-19, bioRxiv preprint, doi: https://doi.org/10.1101/2020.06.29.174888, June 29 (2020)
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•奥野修司 2020年3月19日、3月26日号 週刊新潮 •『トマトとイタリア人』内田洋子 シルヴィオ・ピエールサンティ 文藝春秋
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