「オタク同士、分かり合える人が身近にいるって最高!」「適度な距離感を保てる仲間との暮らしっていい」など、ネットで話題の藤谷千明さんの著書『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』。
ライターとして、演劇、テレビドラマ、映画など、エンタメ分野を幅広く取材されている横川良明さんに、書評をお寄せいただきました。
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20代半ばの頃、仲の良い女友達とある日突然結婚することになった。自分はこのまま誰からも愛されないんじゃないかという寂しさ。独身に対する世間の視線。あの頃の僕たちはいつもそういう見えない何かに怯えていて。慣れ親しんだ友情を手近なセーフティーネットに変換することで、それらの不安を解消しようと試みたのだ。
が、そんなほとんど現実逃避のような結婚への暴走劇は親族の反対によりあえなく頓挫。結局そこから気まずくなって、その女友達との友情も断ち切れた。あれから10年。この本を読んで、どうしてあのとき不安解消の手立ては結婚だけだと決め込んでいたのか不思議な気持ちになった。
4人のアラフォー女子が一軒家を借りてルームシェアをする。4人の関係は、いわゆる長年の親友ではない。趣味を入り口にSNS上で知り合ったオタク仲間。だからか、一緒に住んでいてもいい意味でベタベタはしない。誰かが風邪をひいても熱心に看病をするわけではないし、お互いのプライベートも詮索はしない。だけど、たまに推し舞台の上映会を行い、推しバンドの解散が発表された日にはビールとお寿司を持ち寄り共に悲しむ。その距離感が心地良くも心強い。
国立社会保障・人口問題研究所の計測によると、日本の生涯未婚率は男性が23.4%、女性が14.1%らしい。結婚自体はするのもしないのも個人の自由だ。だけど、ひとりで生きて死んでいくことへの覚悟は確かに必要で。その予備軍である37歳の僕も孤独死の恐怖に正気を失いそうな夜がしょっちゅうある。
だから、血縁や恋愛感情を拠り所としない4人の関係は、救いだった。人と人が暮らす選択は結婚だけじゃない。こういう事例もある、というだけで気持ちが楽になった。
と同時に、男同士でこれが成立するのかと言うと、かなり難しい気もした。衛生観念や経済観念の合う合わないは性差ではなく個人差といっても、家事能力の差は男性間の方が大きく、自分にマッチする人を見つけるだけで骨が折れそうだ。しかも、今日の男性社会において男同士で共同体を形成するという発想自体まだまだ奇異で、そこに抵抗なく飛び込んでくれる人がどれくらいいるか。少なくとも自分のアドレス帳やSNSを見ても該当する人は見当たらない。
感覚的にはまだ女性の方が合いそうだけど、生活を共にするとなると異性では共有し合えないものも多く、恋愛や性欲の面でも現役の世代。ややこしい事態に発展する確率もぐっと上がる。できればこの年でテラスハウスのようなゴタゴタは勘弁願いたい。
そう考えると、男の僕にとっては遠いファンタジーのようにも思えたけれど、逆にこの本が踏み絵となる気もした。この本を読んで共感する男性がいれば、ベースとなる価値観は近そうだ。ということで、ぜひ男性こそ本書を手にとってほしい。そして、こういう生活ありかもという方はガンガン声をあげていただきたい。
何せ生涯未婚率は男性の方が高い。ひとりの人生をどう生きるかは、統計だけ見れば男性の方がより切実な問題だ。男性だってこういう生活は実現可能。そう可視化されるだけで、ほんの少し未来に希望が持てる人間が、ここ東京にひとりはいるのだ。