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しない生活

2021.01.06 公開 ポスト

ブッダもくり返し説いている「食事は腹七分目にとどめなさい」小池龍之介

メールの返信が遅いだけで、「嫌われているのでは」と不安になる。友達がほめられただけで、「自分が低く評価されたのでは」と不愉快になる。つい私たちは、ちょっとしたことでモヤモヤ、イライラしがちです。小池龍之介さんの『しない生活』は、そんな乱れた心をスーッと静めてくれる一冊。本書が説く108のメッセージの中から、いくつかご紹介しましょう。

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生存欲求を暴走させるな

「心を保つ」には、まず「体を保つ」ことからと前項で記しました。体を保つにあたり釈迦がいろいろな経典の中で何度も述べているのが、実は小食にとどめることです。

(写真:iStock.com/byryo)

たとえば『法句経』の中で仏教のエッセンスを簡潔に何点かにまとめた項目の中でも、「食事の量を自制すること」と説かれています。修行をするとき、おなかがいっぱいですと精神集中ができずにすぐ眠くなるものでありまして、それは筆者も満腹になった後に坐禅をし、てきめんに心が散乱するときなどに「あいやー」と痛感する次第です。直接的にはそれを防止し、鋭い精神性を保つための指示なのでしょう。

食事は腹六、七分目くらいが望ましい。満腹になるとボンヤリするのみならず、さらに過食をするなら、胃や腸が苦痛を発するのに心が影響され、イライラしやすくなったり気分が沈んだりします。このように私たちの心は、ずいぶんおなかという身体パーツに左右されている

過食をする人が、苦しくてもなかなかやめられない理由は、暴走した生存欲求にあります。人体の仕組みが形成された原始時代、生き延びるための栄養は乏しく、人々は飢餓状態が普通でした。ですから生存確率を上げるべく、高カロリー源を摂取すると大いに快楽を感じるようプログラムが組み込まれたのでしょう。

糖質、脂質、たんぱく質が舌に触れると脳内に快感物質ドーパミンが分泌される仕組みになっています。不幸にも現代は甘くて脂っこいものがいくらでも手に入るので、快感物質の分泌が止まらなくなるのです。その罠にはまり心が鈍らないよう、腹七分目のお稽古はいかがでしょう。

砂糖は気分を乱高下させる

甘みや脂質やたんぱく質を多く含んだ食品が舌に触れると、脳内に快感物質が分泌されると、前項で記しました。

(写真:iStock.com/OcusFocus)

その仕組みは人類が飢えていた太古の時代には、栄養価の高い高エネルギー食を優先して食べたくなるように人々を駆り立てるために、有用だったことでしょう。ところが、食物が豊富に得られすぎる現代日本では、甘いものや脂っこいものがいくらでも手に入ってしまうがゆえにこそ、その快楽への渇望に歯止めがきかなくなりがちです。

生き延びるための仕組みゆえに、甘いものや脂っこいものへの快楽に支配され食べすぎてしまうと……、肥満や糖尿病をはじめとして、皮肉なことにかえって健康を損ない、生存が脅かされているのです。

とりわけ人間は、食材から糖質のみを純粋化して取り出し砂糖を開発してしまいました。それゆえ、舌にある感覚の受容器をダイレクトに甘みで刺激して、強烈な脳内快楽を生み出すことに成功したのです。

ただし、純化された糖質は消化・分解のプロセスを何段階も省略して早々に吸収されるため急に血糖値が上がり一時的に気力が出ても、インスリンが分泌されて、血糖値が急に下がり、それが空腹感をもたらす。

本当は飢えていないのに、空腹感から脱するため、また食べ物がほしくなり、血糖値の乱高下にあわせて気分は上がったり下がったり。その悪循環に陥らぬよう、砂糖のドギツイ快感は少し減らして、お米や芋、栗、南瓜なんていう天然素材そのものの甘みを、よくかんでじんわり楽しみたいものです。

ま、私も最近はちょっとイイカゲンになって、苺大福やらあんみつやら、好きな和菓子をときどきたしなむのですけどね。ともあれ、何を食するにせよ、修行僧なみにじっくりよくかむことに専念すると、心の安定に関わるセロトニンが脳内で分泌され、心もゆったりしてくるのです。

関連書籍

小池龍之介『しない生活 煩悩を静める108のお稽古』

メールの返信が遅いだけで「嫌われているのでは」と不安になる。友達が誉められただけで「自分が低く評価されたのでは」と不愉快になる。人はこのように目の前の現実に勝手に「妄想」をつけくわえ、自分で自分を苦しめるもの。この妄想こそが、仏道の説く「煩悩」です。煩悩に苛まれるとき役に立つのは、立ち止まって自分の内面を丁寧に見つめること。辛さから逃れようとして何か「する」のでなく、ただ内省により心を静める「しない」生活を、ブッダの言葉をひもときながらお稽古しましょう。

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メールの返信が遅いだけで、「嫌われているのでは」と不安になる。友達がほめられただけで、「自分が低く評価されたのでは」と不愉快になる。つい私たちは、ちょっとしたことでモヤモヤ、イライラしがちです。小池龍之介さんの『しない生活』は、そんな乱れた心をスーッと静めてくれる一冊。本書が説く108のメッセージの中から、いくつかご紹介しましょう。

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小池龍之介

1978年生まれ。山口県出身。東京大学教養学部卒業。元僧侶。ウェブサイト「家出空間」主宰。2019年に還俗し、現在は「月読お稽古場」道場主。著書に『しない生活』(幻冬舎新書)、『沈黙入門』『もう、怒らない』(ともに幻冬舎文庫)、『考えない練習』『苦しまない練習』(ともに小学館文庫)、『超訳 ブッダの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『平常心のレッスン』(朝日新書)、『“ありのまま" の自分に気づく』(角川SSC新書)などがある。

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