公開から1か月半経った今も、『映画 えんとつ町のプペル』は、動員数を伸ばしている。
製作総指揮・原作・脚本を務める西野亮廣さんは、今回の映画で注目されることが増えていろんな顔を見せているし、何かとニュースにもなるが、本当の本当はどんな人物なのか?
そこで、2020年末に発売された雑誌・小説幻冬の巻頭「特集 西野亮廣」より、15年来の担当編集者が書いた“西野亮廣について”――。
* * *
「西野えほん」という人
『映画えんとつ町のプペル』の公開が近づき、華やかな場所に立つ西野さんを目にすることが増えている。見るたびに、ああ、眩しいなあ、と思う。
……あ、そうだ、これだ。
「まぶしい」――西野さんを説明するのに、こんなにピッタリくる言葉はない。
私は西野さんに会ってからの15年、ずっと西野さんが眩しい。
「絵本をつくりたいんです」と黒一色の細密な絵を何枚も袋から出してきた初対面の日も、楽屋や会議室で髪の毛をぐしゃぐしゃに搔きむしりながら極細のペンで絵を描き続けていた姿も、絵が仕上がるたびに幻冬舎まで走って届けてくれるジョギングスタイルも、細いペン先で描き込みすぎて、画用紙の一部が透けるほど薄くなっていたことも、物語を思いつくとかかってくる電話も、つくるお話の中に星空がよく出てくることも、次の新しい物語を待つ時間も、必ず泣かせてくれる期待感も、新しい試みが大好きなところも、いつも後輩に優しいところも、増刷のお知らせのたびに「ありがとうございます! 必ず売ります!」という15年間変わらない丁寧なテンションも。
いつだって眩しさとセットだ。
ただ、眩しさのあまり、たびたびブレーキをかけ、西野さんを落胆させた。
西野さんは“普通の売れ方”では満足しなかった。
といってこちらを責めることは一切なく、ひとりで黙って書店に足を運び、自分で場所を探しては原画を展示し、どこででもファンと向き合って、一年中売り続けた。
正月休みは、一万枚もの絵本のチラシを、ポスティングして回った。
“業界の慣例”とか“検討します”みたいなことを匂わせると、次に会うときには有無を言わさぬ代案や成果を持ってきた。
そして、オンラインサロンを立ち上げ、出版社に頼らないでも戦う基盤づくりを始めた。
(そのあたりは、KADOKAWAから出る『ゴミ人間』に詳しく書いてあるはずなのでそちらで。#なんで幻冬舎じゃないの #ぴえん)
西野さんほど、背中でものを言う人はいない。
十数年もの間、一日も休まず、ネットで大量の言葉を尽くしているのに、背中でも伝えるのだ。
西野さんの背中から送られてくるメッセージに、たくさん勇気も覚悟ももらったけど、時にはダメな自分が痛かった。
でも、背中から思いを拾ってしまうと、もう目を背けることができなくなる。なんてったって西野さんは、常に、あらゆることを、”絵本のために”しているのだから。
話題になった、というか大炎上した「絵本全文無料公開」という大事件があったが、すでに西野さんの背中を見すぎていた私に、NOという選択肢は浮かばなかったので、すぐ乗った(各方面からしっかり叱られました!)。
結果、あれから、無料公開によるマーケティングはメジャーになった。
占い師よりも未来を当ててる!? いや、未来を設計して、実験して、明確な形になるまでやるのが西野さんなのだ。
テレビより絵本を選んで、笑われた。
「分業制で絵本を作る」と言ったら、みんなが首を傾げた。
まだ誰もクラウドファンディングを知らなかったときに何千万円も支援を集めたら「宗教だ」「守銭奴だ」と揶揄された。
「ディズニーを超える」と言って、苦笑された。
それでも西野さんは信じることを曲げず、未来を思い描いて、ひたすらやり続けた。孤独な暗闇の中で。(テレビの中ではキラキラしたイケメンなのに!)
西野さんが、目を逸らしたくなるほど眩しい理由は、誰も見ていない暗闇の中でも前に進むことを止めなかったからだ。
気づけば、暗闇は消えていた。
西野さんの放つ光が、闇を追いやった。
そして、その光に人がわんさか集まってきた。
それは、ちょうど「光る絵とともに」、という感じがする。
西野さんは、『えんとつ町のプペル』が出たとき、全ページの絵をLEDライトで光らせる「光る絵」を作る(これもクラウドファンディングで)。
真っ暗な中で絵そのものを光らせた、初の「光る絵展」は大入りで、その後、兵庫県満願寺で、寺や背後の山までライトアップさせるという荘厳な展示も実現。話題が話題を呼び、大渋滞が起こった(もちろん、直ちに改善!)。
そしてついに、パリのエッフェル塔での個展。私はエッフェル塔の上で、光る絵を横に、パリの街を眼下に見て、「来たなあ。ここまで来たんだなあ」と思っていた。
しかし、これで満足する西野さんでないことは、よくわかっている。
暗闇から生まれた『えんとつ町のプペル』は、ものすごいアニメになった。
「上を(空を)見ろ!」というメッセージを抱えた本作は、全員が下を向いてしまった“今の時代の空気”をも味方につけた。
西野さんは総指揮に脚本、エンディング曲まで自分で作るというマルチぶりを発揮。宣伝活動は、“サロンメンバーとともに”という過去に例のない形で行っている。
ちなみに、コロナで世界中が不安と混乱に陥った2020年、西野さんの有料オンラインサロンの加入者は、コロナ前の3倍近くに(現在7万人超)。絶望の時代に、彼に希望を見る人が大勢いることの証だ。
みんなが彼の言葉に救いを求めている。
未来に燃える若者、起業家、クリエイター、主婦。いろんな人の心に、言葉のひとつひとつが、予言かつ預言のように、刺さる。
そして、この映画だ。
圧倒的な世界観で、公開前から多くの人を沸かせている。
ほんと、西野さんはまばゆい。
でも、忘れちゃいけない。
光り続けることは苦しい!
毎日「光る」ために、西野さんの日々は相変わらず、地味にコツコツの繰り返しだ。(華やかなイケメンなのに!)
そうそう。これも言っておかねば。
今や西野さんは「寄付が趣味」と言うほどで、絵本を海外の子供たちや、国内の学校、施設などに寄付している。
絵本を受け取る子供たちの笑顔は、本当に尊い。西野さんを見る目は、本当に美しい。
彼らにとっても、西野さんは、光なのだ。
今の西野さんは、“光の中で”さらに強く光っている。
私はもう、ただただ、眩しくて眩しくて、震える。
西野さんについて語るときに、もうひとつ欠かせない言葉がある。「やさしい」だ。
寄付もそうだが、西野さんは、笑顔の力を信じている。エンタメが世界を救うと、誰よりも強く信じている。
「ここにいる全員を救う」「誰一人として、見捨てない」と、たびたび言うが、本当に、本気だ。
西野さんを見ていると思うのだ。思っているだけでは、何にもならないと。
「やればよかった」「やってあげればよかった」は、優しくない。(「優しくない」は、西野さんが苦言を呈するときの決まり文句!)
思ったのなら、動くのだ。実現に向けて、足を踏み出すのだ。それ以外に「優しさ」を伝えることなんかできない。
実際、西野さんから、「ただの夢語り」を聞いたことがない。
夢は常に、実現とともにある。
「優しいかどうか」を軸に置くと、具体的な行動――個展会場の作り方も、文章の書き方も、返答に時間をかけないことも、LINEのやりとりも、ぜんぶ変わってくる。
甘い言葉を発する人が背負わなければならない責任を、西野さんは教えてくれた。
西野さんが戦っている姿を見たら、こう思って欲しい。「優しい」を実現するために、戦っているのだと。
実は、「優しい」は厳しい。
「優しい」は覚悟だ。
で、ようやくタイトルの話(遅っ!)。
そんな西野さんがある日、SNS(オンラインサロンやTwitter)で、自分の名前を「西野えほん」とした。
え、えほん……。
時代の何段階も先を行き、こんなにもシャープな存在となり、刺激的な活動をして、圧倒的な成果を出しておきながら、このネーミングセンス。
「名前を『西野えほん』にしました~」と言うのを聞いたとき、ふざけてるわ!って笑ったけど、笑っちゃいけなかったのかなと心配になるくらい、長いことそのまんまだ。
本心を言うと私は、この名前を見るたびに、西野さんが、自分の活動の軸に「絵本」を置いてくれていること、絵本を何より大事に思ってくれていることを勝手に感じて、泣きたくなる。
今や時代の寵児と崇められている西野さんだけど、初めて会った日に「絵本をつくりたいんです」と縮こまって話していたときから、私なんかよりずっと絵本の可能性を信じ続けているのだ。
西野さんは絶対に、一冊の絵本から、世界を獲る。
(この雑誌が出たときにSNSの名前が変わってたら、全力でずっこけます!)
担当編集 袖山 満一子
「小説幻冬」2021年1月号(2020年12月26日発売)より
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