欧米や他のアジア諸国と比較して、日本のデジタル分野での遅れは深刻です。さらにコロナ禍でその差は広がり、もはや日本は技術後進国だという声まで聞こえるようになりました。『シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養』(山本康正著、幻冬舎)ではこの現状に警鐘を鳴らしつつも、そんな未曽有の危機が日本企業にとってチャンスにも転じることを説いています。このデジタル時代を生き抜く人材になるための方策を収録した、本作の一部を紹介します。
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日本の技術進歩は四年遅れている
アメリカで最近目に見えて変わってきたことといえば、無人コンビニのアマゾンGOです。彼らも顧客の行動履歴を取っています。「あのお客さん、バナナを持っていった。一〇〇グラムだから価格が八十セントだ」と計算できる精度でずっと撮影しているわけですから、意味のあるデータが膨大に蓄積されています。日本のベンチャーも同様の実験をしていますが、あまりにも精度が違いすぎる。ですから、現時点でアマゾンGOが日本に進出してきたらおそらく負けてしまいます。
変わったところでは、二〇二〇年八月に日本で営業を開始したb8ta(ベータ)でしょうか。物理的な店舗を区画で区切って、メーカーから月額固定で出店料金を貰って商品を売るサービスです。RaaS(Retail as a Service)という、サブスクリプションモデルで販売をサービスとして提供しているわけです。販売だけでなく、在庫管理や物流サポートもしてくれて、マーケティングに必要なデータも提供してくれます。
メーカー側は、売れなくてもマーケティングデータが取れるだけでもいいのです。そこでb8ta側も、天井にカメラをつけてどのお客さんがどの商品の目の前に立つか測定し、五秒以上そこにいたら十円、手に取ったら二十円といったショールームの課金モデルも始めました。
これが成功するかはまだわかりませんが、こうした新しい発想を試すことにかけては、アメリカは日本の何十倍も速いのです。b8taのRaaSというビジネスモデルはアメリカでは五年前からあったのですが、日本にはようやく入ってきました。オリンピック一回分ぐらい常に日本は遅れているという意識を、日本人は持つべきなのです。
CIOやCDOがいない日本の会社
UberやZoomもコロナ前は日本でなかなか普及しませんでした。
既存の業界を守ろうという意識がいまだに強いのです。Uberは日本では、一般のドライバーによるシェアライドではありません。タクシー会社と連携しているわけで、Uberの本来のビジネスモデルとは大違いです。このようなこと一つを取ってみても、東京にいれば何でもわかるというのは間違いだと感じます。
Zoomも二〇一六年ぐらいからアメリカではスタンダードになっていました。スマホでビデオ会議ができるわけですから便利というしかありません。特にIT企業の人たちの間では大人気でした。スマホからもPCからも入れるし、アカウントの登録も必要ありません。画期的な使いやすさです。
それが日本では、ビデオ会議システムはきっと料金が高いものの方が安全だからいいという発想でやっていたわけです。それでは良いサービスの芽が出ません。Zoomの時価総額は二〇二〇年九月に約十三兆七千億円となり、IBMを抜きました。
日本で新しいデジタル・ビジネスモデルが出てこない、出てきても根づかない原因としては、日本にはテクノロジーがわかる役員が少ないことが挙げられます。CIO(Chief Information Officer)やCDO(Chief Digital Officer)がいない会社がいくらでもあります。そしてCIOがいてもデジタルがわからないということも多い。
アメリカのデジタル企業では、CEOの多くがデジタル技術者やIT技術者であるのとは好対照です。やはり会社の中枢にデジタルや最先端のテクノロジーに精通している人がいて、その人たちが会社の方向性を決めるところでもっと口を出さないといけません。
世界がミサイルで戦っている時代に日本だけ竹槍で戦っているようなものです。若い世代にデジタルに精通している人がいても、社長が六十代、七十代なので話が通じません。「へえ、そうなんだ」でおしまいです。それでどれだけ損をしているのかにまったく気づかない――そのような構造に日本企業がなってしまっているのが、日本のデジタル化がなかなか進展しない原因だと思います。
シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養
2021年を逃せば、日本企業は百年に一度のチャンスを失う。ハーバード大学院理学修士、元米グーグル、元米金融機関勤務、現ベンチャー投資家の著者が、世界で活躍する8人の知見を紹介し、日本の執るべきビジネス戦略を探る。