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がんばらない練習

2024.06.04 公開 ポスト

パニックになったらまず歩く 元「日本一有名なニート」が実践する神経が疲れたときの対処法4選pha

定職に就かず、家族を持たず、シェアハウス暮らし。社会的評価よりも自由に生きることを大事にしてきたphaさん。6月5日には新刊『パーティーが終わって、中年が始まる』が発売になります。かつて「日本一有名なニート」ともいわれたphaさんは、どんな生き方を実践してきたのか? 著書『がんばらない練習』よりご紹介します。

*   *   *

頭が疲れたときの対処法

飲み会などで人と長く喋ったあとは、しばらく外を一人で歩くことにしている。ひと駅分かふた駅分くらい、意味もなく歩いてから電車に乗る。そうしないと、ざわついた頭の中が静かにならないからだ。

居酒屋の店内、壁一面に貼られたメニュー、店員が注文を取る声、いろんな人たちが話すさまざまな話を聞きながら初対面で名前もあやふやな人たちの顔と名前をなんとか覚えようとしていると、隣のテーブルから聞こえてくるジョッキとジョッキがぶつかる音、ネクタイをゆるめるワイシャツの男たち。

そうした場は楽しいといえば楽しいのだけど、受け取る情報が過剰すぎて、しばらくいると神経が疲れてしまって、頭の中がごちゃごちゃして落ち着かなくなってきてしまう。そんなときに神経をなだめるのには、歩くのがいい

(写真:iStock.com/fizkes)

昔はそんな風になったときどうしたらいいかわからなくてすぐにパニックになってしまっていたけど、今は対処法をいろいろ覚えた。

まず歩く。何も考えず15分ほど手足を動かしていると少しずつ頭の中が落ち着いてくる。

水を飲むのも有効だ。外に出るときはいつもお守りのようにペットボトルの水を持っている。時間があれば風呂に入ると一番いい。都心部で用事が2つあるとき、2時間くらい時間が空いていると僕はすぐスパやサウナに行ってしまうのだけど、それはそうやって精神を回復させないと連続で人に会うのは疲れるからだ。

お気に入りの布で顔をこすったり覆ったりするのもいい。いつも鞄の中には折りたたんだ手ぬぐいを入れている。家にいるときなら、毛布やタオルにくるまってひたすら静かに丸くなっている。

あとは歌だ。好きな曲を聴くのもいいし、自分で小さく歌ってみるのもいい。中島みゆきの歌詞で、どんなに強い雨の中でも自分の歌だけは聞こえるから、誰にも歌ってもらえないのなら自分で歌えばいいのだ、というのがあるのだけど、それを見習ってその通りにしている。

それでも都会で生きていく

若い頃は、なぜ自分は人に会っているとすぐに疲れてしまうのか、どうして他の人がやっているようにうまく人とコミュニケーションし続けることができないのか、ということでずいぶん悩んでいた。

そのうち、世の中には自分のように、人と話したり騒々しい場所にいるとすぐに頭の中がワーッとなってパニックになってしまう人間と、ずっと人といても全然ワーッとならない人間がいるということに気づいた。

(写真:iStock.com/bee32)

ワーッとならない人間は、一日中人と喋り続けていても疲れない。むしろ喋っていると回復したりする。一人でいる時間を特に必要としない。毎日飲み会に行ったりしても平気だ。休日のときくらい一人で過ごそうという発想がない。

別にどちらが優れているというわけじゃない。それぞれの向き不向きに過ぎない。だけど、ワーッとなってしまう側の人間の自分が、ワーッとならない人間の基準に合わせて生きるのはやめよう、と思った。それが会社員を辞めた理由の一つだった。

 

都会はどこに行っても情報が多く、音と光が溢れている。

絶えず通り過ぎていく自動車、常にどこかで行われている工事の音、点滅する信号機、24時間光り続けるコンビニと自動販売機、飲み屋やスーパーだって24時間開いていたりする。電車の中のアナウンスはいつも半分くらいしか聞き取れない。

駅に飲み込まれては吐き出されてくる大量の人、活気のある商店街、どこか遠くから観光に来たキャリーバッグを引きずる人たち、新しくできたばかりのレストランの従業員がまたチラシを配っている。こんなところにいつの間にかホテルができたのか。

本当に静けさを求めるならもっと田舎に住んだほうがいいのかもしれない。だけどそれはそれで寂しいしうまくいかないんだよな。しばらくはまだ、この都会で生きていくしかないなと思う。こまめに水を飲み、ときどき布をかぶり、一人で歌を歌ったりしながら、なんとか。

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pha『できないことは、がんばらない』

他の人はできるのに、どうして自分だけできないことが多いのだろう? 「会話がわからない」「服がわからない」「居酒屋が怖い」「つい人に合わせてしまう」「何も決められない」「今についていけない」――。でも、この「できなさ」が、自分らしさを作っている。小さな傷の集大成こそ人生だ。不器用な自分を愛し、できないままで生きていこう。

pha『パーティーが終わって、中年が始まる』

定職に就かず、家族を持たず、 不完全なまま逃げ切りたい―― 元「日本一有名なニート」がまさかの中年クライシス!? 赤裸々に綴る衰退のスケッチ 「全てのものが移り変わっていってほしいと思っていた二十代や三十代の頃、怖いものは何もなかった。 何も大切なものはなくて、とにかく変化だけがほしかった。 この現状をぐちゃぐちゃにかき回してくれる何かをいつも求めていた。 喪失感さえ、娯楽のひとつとしか思っていなかった。」――本文より 若さの魔法がとけて、一回きりの人生の本番と向き合う日々を綴る。

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がんばらない練習

やる気がわかない、社交が苦手、決めるのが怖い……。仕事や人間関係で疲れたあなたに、そっと寄り添ってくれるのは、京大卒というエリートながら「日本一有名なニート」として幅広い共感を集めるphaさんだ。著書『がんばらない練習』は、そんなphaさんが実践する「自分らしく生きる方法」をつづった一冊。読めば心がふっと軽くなる本書より、一部をご紹介します。

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pha

1978年生まれ。大阪府出身。京都大学卒業後、就職したものの働きたくなくて社内ニートになる。2007年に退職して上京。定職につかず「ニート」を名乗りつつ、ネットの仲間を集めてシェアハウスを作る。2019年にシェアハウスを解散して、一人暮らしに。著書は『持たない幸福論』『がんばらない練習』『どこでもいいからどこかへ行きたい』(いずれも幻冬舎)、『しないことリスト』(大和書房)、『人生の土台となる読書 』(ダイヤモンド社)など多数。現在は、文筆活動を行いながら、東京・高円寺の書店、蟹ブックスでスタッフとして勤務している。Xアカウント:@pha

 

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