数々のプロアスリートを顧客に持つパーソナルトレーナー清水忍氏の書籍『ロジカル筋トレ』(幻冬舎新書)が発売即重版となり、話題を呼んでいる。
ここでは本書の一部を抜粋して紹介する。フィットネスクラブや自宅筋トレで、賢く体を鍛えるにはどうすればよいのか?
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フィットネスクラブでも「なぜやるのか」を考えるべき
最近はフィットネスクラブやスポーツセンターなどで筋トレに取り組む人がとても増えた。きっとみなさんの中にも日々忙しい中がんばって通っている人が多いのではないだろうか。
「マッチョ体型に変身したくて通っている人」「たるんだ体に少しでも筋肉をつけたくて通っている人」「健康と体力の維持のために通っている人」……フィットネスクラブに通う理由は人それぞれだろう。
ただ、じつはこうしたフィットネスクラブに通っている人々も、知らず知らずのうちに「ざんねん筋トレ」にハマってしまっていることが少なくないのだ。
どうして「ざんねん筋トレ」に陥ってしまうのか。そのいちばんの理由は、フィットネスクラブ側が用意した「既成のトレーニングメニュー」に、「なぜ」を考えることなく無条件に従ってしまっているせいである。
たとえば、フィットネスクラブに入会すると、「まずはこれをやってください」というマシンが決まっているものだ。たいていは、「クランチ」「ラットプルダウン」「チェストプレス」「レッグプレス」の4つ。
たぶん「初心者向けパッケージコース」にでもなっているのだろうが、最初は問答無用でこの4つをやれと言われることが多い。
でも、いったいなぜ、この4つなのか。
どんな初心者でもその人の目的によって鍛えるべき筋肉も、使うべきマシンも違ってくるはずだ。その人の目的によっては、これら4つのマシンを使わなくていい場合もあるだろうし、まったく別のトレーニングのほうが有効な場合もあるだろう。
(業界的に)炎上するのを承知で種明かしをしてしまうと、じつはこの4つのマシントレーニングは「インストラクターの指導テクニックがあまり必要ないメニュー」なのだ。
いちいちていねいな個別対応をしなくても「だいたいこんな感じでやっておいて」と簡単な指導で済ませることができる。
その証拠に、研修を終えたばかりの新人インストラクターが最初に任されるのが初心者に対するこれらのマシンの指導である。本来は、初心者ほどていねいな個別指導が必要なのだが……。
4つのマシントレーニングにはもちろんそれぞれ利点がある。ただ、私の経験からは、指導する側の都合でやらせているようにしか見えないのだ。
「初心者向け負荷シール」の罠
それと、もうひとつ指摘しておくと、筋トレ初心者に使わせるマシンには、負荷重量を設定する部分に「男性初心者用」「女性初心者用」などのシールが貼られていることが少なくない。
そして、インストラクターから「最初はこのシールのところからスタートしてください」と言われることが多い。
だが、そこそこの重量を上げられる人が「シールが貼られた軽い負荷」のところからスタートしたら、物足りないと感じるレベルのトレーニングを延々やらされることになる。
現に、「初心者用」の負荷を表情ひとつ変えずに黙々とやり続けている人の姿をよく見かける。負荷の軽すぎるトレーニングを多くの回数行なうのは、時間を無駄に消費しているだけだ。
このように、フィットネスクラブでは、インストラクターに言われるまま何も考えずにトレーニングをしていると、無駄に遠回りをさせられたりなかなか効果が上がらなかったりという「ざんねん筋トレ」にハマっていきかねないのだ。
毎日忙しい中、せっかく時間とお金をかけて通うのだから、トレーニングはできるだけ効率よく目的に近づけるものでなくてはならない。
そのためにもインストラクターとしっかりコミュニケーションをとり、「なぜ、このトレーニングをするのか」をはっきりさせて取り組んでいく姿勢が必要だろう。
もっともっとインストラクターに質問していいのだ、「なぜですか」と。
自宅トレはどうして間違った方向へ行きやすいのか
みなさんの中には「自宅で筋トレをしている」という人も多いことだろう。
「筋トレはしっかりやりたい、でも、フィットネスクラブに通うような時間はなかなかとれない」という人は、当然、「じゃあ、自宅でがんばって鍛えよう」という選択をすることとなる。
最近はSNSやユーチューブなどにたくさんの筋トレ動画がアップされているので、そうした動画を参考にしながら自宅トレに取り組んでいる人も多いかもしれない。
ただ、やはりトレーナーやインストラクターが不在での自己流のトレーニングは間違った方向へ向かいやすい。
いちばん大きな問題は、「このフォームで合っているのか」「この力の入れ方で合っているのか」といった疑問が湧いても「正解」が分からない点だ。
じつは力を入れるベクトルが違っていたような場合、「この力の入れ方は違うよ」と教えてくれる人がいないと、そのまま間違ったフォームが身についてしまうことになる。
そういう小さな間違いがいくつか重なったりすると、自分ではちゃんと正しくトレーニングをやっているつもりでも、「じつはまったく見当違いのトレーニングをしていた」なんていうことにもなりかねない。
実際、見様見まねの自己流で身につけた「効果の低いやり方」や「なかなか成果の上がらないやり方」を何十年も続けている人は少なくないのだ。
人はいったん“これでいい”と思ってしまうと、なかなか自分のやり方を改めない。
長年自分がやってきたトレーニングが「じつは間違ったやり方だった」「じつは無駄な努力だった」と知らされたら、きっとその人はかなりの徒労感に襲われるのではないか。
だから、ひとりで行なう自宅トレはけっこうむずかしいのだ。
ちゃんとしたフォームややり方が分かっている人が自宅で行なうのならいいが、基礎が固まっていない人が自宅で行なうと、たいていは「ざんねんな方向」に行ってしまいがちになる。
心当たりがある人は、やはり一度ちゃんとした知識のあるトレーナーなどに教えを請い、フォームや力の入れ方の基本をしっかり学んだうえで自宅トレに励むほうがいいだろう。
回数の多さはなんの自慢にもならない
それともうひとつ、自宅トレの難点は、行なうことのできるトレーニング種目やレベル強度が限られてしまう点だ。
自宅でトレーニングをする場合、ジムとは違ってマシンや器具はなかなか使えない。どうしても中心となるのは、腕立て伏せ・スクワット・腹筋などの「自重トレーニング」になるだろう。
だが、自分の体だけで行なう自重トレは、負荷をかけるレベル強度に限界がある。ある程度の強度をクリアしてしまうと、それ以上強度を上げたくても上げられなくなってしまうようになる。
そういうとき、「もっと上のトレーニングをしたい」「もっとレベルアップしていきたい」という人たちがどういう手段に訴えるようになっていくか、みなさんはお分かりだろうか。
そう。そこで登場するのが「回数」なのである。
「腹筋1000回やってます」「腕立て200回やってます」といった「回数の多さ」を自慢するような人は、だいたい自己流でやってきた自宅トレ派が多い。
しかし、先にも述べた通り、軽々とクリアできるような負荷の運動をたくさんの回数積み重ねるのは、意味のないトレーニングであり時間の無駄だ。
私は「回数を増やしさえすればいい」「たくさんの回数をこなすほうがエライ」と思っていることを“回数主義”と呼んでいるのだが、“回数主義”に陥った自宅筋トレ派は、「ざんねん筋トレ」の代表選手のようなものだろう。
とにかく、もし1000回も腹筋をする時間があるのなら、その時間を使ってジムに行き、しっかり負荷をかけた筋トレを行なうほうがいい。
そうすれば、腹筋1000回以上の筋トレ効果をものの1、2分で上げることができるはずだし、知識のあるトレーナーであれば自宅でできる、相当な負荷がかかるフォームを教えてくれることだろう。
自宅トレ派の人々は、こういう「ざんねん筋トレ」に陥らないためにも、日々「なぜ、これをするのか」をしっかり意識しつつ体を動かしていくべきだろう。
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