厚生労働省の2018年の調査では「睡眠で休養が十分にとれていない」人の割合は21.7%。日本人の5人に1人が睡眠に悩みを抱えています。自身も不眠症に長く悩まされた経験を持つ精神科医の岡田尊司さんが、睡眠のメカニズムや不眠症克服の極意を解説する幻冬舎新書『人はなぜ眠れないのか』より、睡眠の質を上げるための基礎知識やTipsをご紹介します。
寝室、寝床の環境はOKか
良好な睡眠をとるためには、まず、静かで快適な寝室、寝具の状態が自分に適したものであることが重要である。寝具の硬さ、厚み、重さ(重すぎても寝苦しいが、軽すぎても包まれている安心感が得られない)、保温性、枕の高さ、硬さなど、わずかな違いも睡眠に影響し得る。
特に重要なのは、静かさ、明るさ、温度である。不眠症の傾向がある人では、音に過敏なことも多く、騒々しい環境は睡眠にとって脅威である。騒音は、不眠の原因になるだけでなく、慢性的なストレス要因になるので、引っ越しなどに際しては、よくチェックする必要がある。今住んでいる住居に騒音問題があって、不眠の原因となっているときは、ペアガラス、二重サッシにするなど防音措置を講ずるか、場合によっては転居も検討する。
明るさについては、寝つきのいい人では、いきなり真っ暗にしても、まったく問題ないが、寝つきの悪い人では、一気に真っ暗にしてしまうよりも、少し薄暗い中間段階を置いたほうが、入眠への移行がスムーズになる。
テーブルライトやダウンライトだけをつけて、少し薄暗くした部屋で音楽を聞いたり、読書をしたりして過ごし、少し眠気が来てから明かりを消すというのもよい方法である。
意外に睡眠に影響するのは、部屋の温度や寝具の温度である。寒すぎるのも眠気を妨げるが、暑すぎることも寝つきを妨げたり途中覚醒の原因になる。
寝室やベッドは眠るとき以外には使わない
スムーズに睡眠に移行するためには、入眠へのプロセスが条件反射的に進む必要がある。つまり、寝るときには、決まった手順や決まった刺激が与えられるようにして、ある条件が整うと、自動的に脳が眠りの態勢に向けて用意を始めるようにする。ある場所で、ある一連の行動をすると、眠りが来るという習慣をつくっていく。そのために守ったほうがよいことの一つは、寝室やベッドは、夜眠るとき以外はできるだけ使用しないことである。ベッドで仕事をしたり、テレビを見たりということは、避けたほうがよい。
逆に、他の場所、たとえばリビングのソファーの上やコタツの中で眠ることも避ける。夜眠るときは、必ず、決まった寝室やベッドで寝るようにする。
寝る前に音楽を聞いたり、読書をするという場合も、寝るときにだけ聞く音楽、寝るときにだけ読む本というのが決まっているほうがよい。
さまざまな睡眠儀式
睡眠に対して不安が強い人では、眠る前に決まった作法や儀式的な行動を行わないと眠れないという人が、しばしばいる。これは睡眠儀式と呼ばれる。これも、睡眠のときに決まった条件をつくり出そうという努力の一つだと考えられる。一定の条件下で、ようやく安心して眠りというプロセスが起きやすくなる。
たとえば、『デビッド・コパーフィールド』『クリスマス・キャロル』などの作品で知られるイギリスの小説家チャールズ・ディケンズも、不眠症に悩まされた一人だが、彼にも独特の睡眠儀式があった。ベッドは頭が真北を向いた方角でなければならず、ちょうどベッドの真ん中に眠らないとダメだった。ディケンズは両手を伸ばして、体がベッドのセンターライン上にくるように調節して、ピタッと体の位置が決まると、ようやく安心して眠ることができた。
人はなぜ眠れないのか
厚生労働省の2018年の調査では「睡眠で休養が十分にとれていない」人の割合は21.7%。日本人の5人に1人が睡眠に悩みを抱えています。自身も不眠症に長く悩まされた経験を持つ精神科医の岡田尊司さんが、睡眠のメカニズムや不眠症克服の極意を解説する幻冬舎新書『人はなぜ眠れないのか』より、睡眠の質を上げるための基礎知識やTipsをご紹介します。