すっかり定着したテレワーク。それとともに増えているのが、オンライン独特のコミュニケーションに関するお悩みです。対面で会うのと違って、うまく相手に伝わらない、相手の話に集中できない……。そんなあなたに読んでほしいのが、パフォーマンス心理学の第一人者、佐藤綾子さんの『オンラインでズバリ伝える力』。アフターコロナの時代になっても、オンラインの活用は続くと見られる今、ぜひ身につけておきたい本書のメソッドをいくつかご紹介します。
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人は言葉を聞く前に顔を見ている
明日プレゼンがあるとなると、何を言うかをしげしげ考え、原稿を書いて、必要なところにはマーカーをして、ここを忘れないようにと誰もが努力します。
ところが、それをどんな顔で言うかまで想定している人は少ないでしょう。
当日になり「こんにちは。ご紹介された山田です」と仏頂面で始めてしまうと、そのときにすでに聞き手はその人の顔を見ています。対面の場合、壇に上がる途中から見られている場合もあります。
Zoomなどは画面に映ったところからです。
声が出るよりも前に視覚情報が参加者の目に入っているということになります。そして、話が始まり、表情に変化をつけず「御社にこんなに素晴らしい提案があります」と仏頂面で提案しても説得力がないでしょう。
数年前、民放の女性アナウンサーが、不幸な出来事で何人かが亡くなったというニュースの中でにっこりしてしまったので、視聴者からさんざんクレームが入りました。どんな顔でどんな言葉を言うかは、セットで考えるべきです。
オンラインの場合、いい匂いや、周りに飾った花束で印象をごまかすというわけにいかないので、どんな言葉をどんな表情で言うのか意識してメモして、それを実行しましょう。表情を伝えやすくするため顔のトレーニングも必要です。
表情訓練は第5章で詳しく解説します。
メイクはくっきりはっきりと
歌舞伎役者はなんであんな大仰なメイクアップをするのでしょうか。
目には隈取をし、ときには目をきらりと光らせるために特別な目薬を入れたり、眉は太く描いて吊り上げたり、髭も大きく描いて、口の左右から始まったのが耳のあたりまで伸ばしています。オーバーメイクもいいところです。
なぜそうするのか。
舞台で動いている役者の顔を見ていると、見物人はなかなか顔の表情が読み取れません。そこで、オーバーメイクにします。例えば、「見得を切る」というような場面では、目をカッと開いて口自体も大きく描いて見せるほうが、見得を切っているということがよくわかります。
これに対して能の面は控えめです。役者の顔のほうが能面よりも大きくて、能面は顔の中にこぢんまりとつけられています。そこで、能の見物人と役者のあいだに一つの決まり事が必要になるのです。
「目利きの客」「目利かずの客」といわれるように、能の場合はストーリーをあらかじめ知っていて、あの長々しい謡の文句を聞いただけで、さてはこれは嫉妬に狂っているのだとか、ストーリーを理解した上で顔を見ています。
そうすると、ここで泣くはずだと予期しているので、顔よりも小さなマスクで袖を顔に当てて、「シホル」という小さな動作をすれば、しくしく泣いているのだということになります。約束事があるから、顔があまり見えなくてもイマジネーションが働くのです。
さて、一方、オンラインでは何の約束事もありません。
顔が見えなかったり、表情が読めないと当然イライラします。
私自身は、Zoomセミナーをやるときは多少メイクアップを濃いめにして、眉を太めに描いています。メイクで補うのと同時に、表情筋を極端に大きく動かします。面白い発言を聞いたら、口角を大きく上げて大きなスマイルマークを作り「面白いですね」と参加者に画面の中から声をかけます。
男性はメイクをしない人が多いでしょうから、普段の2倍は表情を動かしましょう。
表情を大きく動かすこと、メイクをくっきりはっきりすること。
オンラインでは、聞き手に顔が見えないと、相手がイライラしたり、気が抜けてしまうため、防止策として不可欠なことです。
オンラインでズバリ伝える力
すっかり定着したテレワーク。それとともに増えているのが、オンライン独特のコミュニケーションに関するお悩みです。対面で会うのと違って、うまく相手に伝わらない、相手の話に集中できない……。そんなあなたに読んでほしいのが、パフォーマンス心理学の第一人者、佐藤綾子さんの『オンラインでズバリ伝える力』。アフターコロナの時代になっても、オンラインの活用は続くと見られる今、ぜひ身につけておきたい本書のメソッドをいくつかご紹介します。