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大人バレエの世界

2022.11.23 公開 ポスト

#117

おかえりモチベーション!丸山裕子(イラストレーター)

正直なところ、やる気を失っていた。
モチベーションゼロだった。
バレエを観ることにもすることにも。

バレエ公演が再開されたとはいえ大方が首都圏での上演で、観たいものが関西で上演されることはまだまだ少ない。

この2年半はコロナでレッスンに行くのもままならず、15年かけてミリ単位で変化してきた身体は15年前の原型を遥かに飛び越えて、今やワタクシ史上最大の体重、最高の体脂肪率を誇っている。(誇るな!)

あ、念のため言っておきますが、ミリ単位の精巧さでの変化という意味ではなく、リアルにミリ単位でしか変化していないということですから、そこんとこ、よろしくね。

傍から見れば15年前の私も今の私も同じかもしれません。だってミリ単位の変化だもの、他人に見えるわけがない。が、しかし、確かに、間違いなく、変わっていたんです。
動かなかったところが動くようになり、できなかったことができるようになり、身体の形も筋肉のつき方も確かに変わっていたのです。他の誰にもわからなかったとしても、私にはわかっていたし、先生もわかってくださっていました。

だってだって、コロナまえにいただいた先生からの年賀状には「バレリーナらしい身体つきになってきましたね」って書いてあったもの。

それなのにそれなのに。

できていたことができなくなり、レオタードの縁に脂肪が鎮座し、それでもスタジオの15周年だからと頑張って出た発表会での私の出来は、非常に非情に残念なものでした。これが2年半のブランクの賜物かよ。

万年初心者の大人バレリーナですから下手は承知の上です。「己に何を期待してたんか?」と問われれば返す言葉もございません。けれど、ああ全然できてない、まだ何もできてない、あれもこれもできてなーい、練習が全然足りてなーい、と自覚したまま出演して、やっぱり何もできなかったというのは、何故かとっても心に堪えたのです。

散々練習してそれでもこれだけしかできなかったという方が、一見残念そうに思えるのに、「そうだよね、こんなもんだよね、よく頑張ったよね私」と、清々しく受け入れることができていました。挑戦したことを誇らしくさえ思いました。

そんなこんなで「もーいいもん、バレエなんて、バレエなんて、もう知らないっ!」とグレた(拗ねた)大人バレリーナは、イタリアへと旅立ったのです。

っていうのは冗談で、そんな理由ではないけれど、イタリアに行ったのは本当です。

約1ヶ月半を北イタリアの葡萄畑で過ごし(この話はまた別の場所で)帰ってからも何やかやで忙しく、結局レッスンから遠ざかること4~5ヶ月。
10月に入って身の危険を感じ(体脂肪的に)ようやく出向いたスタジオで、すっかり動かなくなった身体でバーレッスンをしながら思ったことは

楽しーーーーーーーーーーーーい!!!!!!

でした。
動かない身体なのに、体脂肪やばいのに、ひたすら楽しい。楽しいでしかない。
そして、

気持ちいーーーーーい!!!!!

久々のレッスンはただただ気持ちがよかった。身体を動かすことそのものが、音楽に合わせて踊ることが心地よく、身体と心の真ん中に風が通り抜けるようでした。

そして、再認識しました。私はバレエの動きが大好きです。極太字で書きたいくらい好きです。足指を筆のように使い差し出す様子、綺麗にアンデオールした足の側面にお茶を乗せて出せそうなフォンデュ。先生の美しい見本を見ているだけでキュンキュンします。そう、キュンキュン。この感情はいわゆる萌えってやつのような気がします。あるいはフェチというのかもしれません。

そうでした。あれができるようになりたい、あの美しい動きを自分の身体でも再現できたらどんなに素敵だろう、そう思ってバレエを始めたのでした。発表会に出なくてもいい、なんならセンターもなくてもいい。バーレッスンだけでも、バレエの動きをバレエらしくできるようになれたなら……

 

ああ、楽しい。
たとえできていなくたって、美しい動きをイメージして、それに近づこうとしているだけで楽しい。
いつか、誰かが私のバーレッスンを目にしたときに「ああ、バレエのレッスン中なのね」って、認識してくれたら最高やん。
ああ、バレエ楽しい。
それがバレエであるだけで楽しい。

 

大人バレリーナ、完全に初心を取り戻しました。

 

15年間、時には週に3回、睡眠も仕事も置き去りにして(置き去るな)熱心にレッスンに通い、上達への階段をやっと1段、いやちょっと大目にみて2段ほどは上ったでしょうか。なのに、たった2年半で20段くらい転げ落ちて深く地中に潜った。いや、そもそも地上には出ていなくて、地底の階段だったのかもしれません。(第1回参照)

常に加速するカレイと共に走る大人バレリーナ、これから同じ15年をかけたところで取り戻せはしないだろうと思うと、すっかり絶望してヤケになってしまっていたけれど、時間と空間をあけたことでバレエとの新しい関わり方を見つけられたみたいです。そして、それを受け入れることができました。

おかえりモチベーション。
久しぶり。会いたかったよ。

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大人バレエの世界

いくつになっても憧れる華やかなバレエの世界。アラフォーからバレエを始めた著者による、楽しく、たくましく、哀しくもおかしい“大人バレリーナ”の日常。

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丸山裕子 イラストレーター

京都市出身。踊るイラストレーター。健康のために始めたバレエにはまり、寝る間を惜しんでレッスンに通う。『バレエ語辞典』の全イラストを担当。書籍や雑誌、広告にイラストを描いている。女性、育児、健康、犬と花に関するものが多い。イラストエッセイは『しあわせな犬生活を』(ドッグワールド)、『極楽いぬ生活』(ペピイ)。布花作家でもあり、『まんまるさん®︎』という古布を使ったオリジナルのアクセサリーを作っている。

Instagram  @yuco.illustrations

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