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だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。

2023.02.04 公開 ポスト

「死にたい。死ねないなら死刑になりたい」→「あなたは間違いなく被害者だったんだよ、でもわざわざ加害者になる必要はないよ」幡野広志(写真家)

写真家・幡野広志さんの人生相談。webメディアcakesで”一番読まれた”人気連載だった「なんで僕に聞くんだろう」の書籍、完結版が発売になりました。タイトルは『だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。cakesのサービス終了で読めなくなった記事がたっぷり収録されています。
幡野さんの、愉快で、鋭くて、優しい言葉と一緒に、写真もたっぷり楽しめる一冊です。

さっそく、内容を一部公開。今回は、「死にたい」という相談者。

*   *   *

命の価値は不平等。自分が苦しいからといって、誰かを苦しめていい理由にはならない

とても死にたいです。死ねないなら死刑になりたいです。3人ぐらいでしょうか。いや、もちろん思うだけなのです。決して実行など出来ないのでしょう。だって死ねないのだから。あの時、親から首を絞められたとき抵抗しなかったらこんなに苦しまなかったのでしょうか。たとえば人から「お前なんか死ねば良いのに」と言われたときその言葉の効き目で死ねたら楽なのに。もう頑張れないし頑張りたくないです。解決法を模索したりするのも疲れました。どうにもならないのに助けを求めるために1から思い出して説明するなんてもう沢山です。じっと硬直して迷惑をかける度に謝って配慮をしてもらうために頭を下げて、つらいなぁと思いながら死ぬまで生きるのでしょうね。でもきっともっとたくさん辛い思いをしてる人がいるんですよね。いるでしょうね。ではどこかでお会いできるときを楽しみにしているとお伝えください。

(なたでここ)

3人ぐらい殺して死刑になりたいってこと? やばいっしょ。自分の命には価値がないとおもってるかもしれないけど、自分が苦しいからといって、誰かを苦しめていい理由にはならないよ。

だいたい死ぬことが目的なのであれば死刑狙いなんて効率が悪いでしょう。人の殺し方を知らない人が3人も殺すってのはけっこう……というかかなり大変なことだとおもう。狩猟を経験して知ったことだけど、鉄砲を使ったとしても致命傷を与えるのは実はけっこう難しい。刃物や鉄砲みたいな道具があっても知識と技術がないと難しいのよ。ドラマや映画や漫画とはやっぱり違うよ。

ぼくは経験を積んだことでどこの臓器をどこからどうやって狙えば絶命させられるか知っているけど、もしもぼくが死刑狙いの無差別通り魔になったとしても、せいぜい一人殺せるかどうかだとおもう。目の前で一人が刺されたらみんなすぐに逃げて、警察官に捕まるのがオチで死刑になれないでしょ。

そうなってくると逃げられない子どもづれの女性や、高齢者や弱者を狙うんだろうし、そういった事件は過去にたくさん起きているけど、ぜひ自分の命の価値と誰かの命の価値は別物だと知ってください。 さまざまな格差と差別と生きづらさが存在して、それを解消する具体的な術(すべ)もない世界で、ぼくは命の価値が人類みな平等だなんてことはまったく信じてないよ。だからこそ街を歩いている見知らぬ女性や子どもの命にも価値がないとはおもわないでくれ。

あなたが死にたいという気持ちを否定するつもりはないし、ぼくは病気になったときに死にたくなったんだけど、だから死にたいという気持ちはぼくにも理解ができる。死にたいという気持ちを誰かから否定されることの苦しさも理解できる。

健康で経済状況も人間関係も良好な順風満帆な人に「死んじゃダメだ」っていわれてもなにもピンとこないし、難病を抱えていたり生きにくさを抱えつつも生きている人から「死んじゃダメだ」っていわれても「あんたはがんばってくれ」としかぼくはおもえなかったんだよね。

「死んじゃダメだ」ってさ、あれって誰のためにいってるんだろうね。ぼくはそれぞれのポジショントークのように感じて余計に孤独を感じたし、死にたいって極限状態までいってるのに、それを否定しないでよっておもったよ。

でもそういうことをいえば「お前なんか死ねば良いのに」とか「一人で勝手に死ね」って言葉が返ってくるんだろうね。「死んじゃダメだ」っていう人にとってはこの言葉は善意なんだよね。善意を拒否されると怒りに変わる人ってけっこういるの。 ぼくも病気になってずっと鳴り止まないお見舞い電話とか、健康食品や宗教やインチキ医療の勧誘がたくさんあって、とてもご迷惑だったんだよね。でもそれは相手からすると善意だから、拒否をすると怒って「地獄に落ちるよ」とか「だから病気になったんだよ」みたいな攻撃に変わるんだ。

相手の迷惑を考えられないペラペラなうっすい善意で爆弾を包んでいて、爆発させたくなかったら感謝をするしかないから、やっかいなんだよね。役に立って感謝されたいんだろうけど、病人も死にたい人も置いてきぼりだよね。

感謝目的のポジショントークしてくる人って、どんだけ承認欲求が満たされてないんだよって病人ながらに心配しちゃうよ。

死ぬことが目的なのであれば、ぼくは自殺がいちばんいいとおもうけどね。日本には安楽死はないし、もしも安楽死ができたとしても自殺目的の安楽死はできないのが現実です。

これは安楽死が合法な海外でもおなじで、安楽死にもちゃんとルールがあって、自殺目的だと残念ながらできないのよ。

自殺でいちばん怖いのは自殺の失敗です。自殺を失敗して二度と自殺ができない状態の体になって後悔をしている人にも、自殺しようとした家族を救命して後悔をしている人にも会ったことがあるのだけど、自殺の失敗がいちばん怖い。自殺にも知識と技術が必要であって、ここはしっかりと考えておいたほうがいいよ。

最終的には自殺を止めることはできないの、いつどこで実行するかもわからないし、みんな死んじゃダメとか支援が必要だっていうけど、自殺を止めるのが仕事でもない限り、自分の手間とコストをかけてあなたの自殺を止める人ってのは稀(まれ)な存在です。

でも人は、手間とコストどころか自分の命をかけてでも、あなたの殺人を止めることはできるのよ。たぶんぼくはあなたの自殺は止めないけど、あなたがもしもぼくの目の前で見知らぬ子どもを襲っていたら助ける。ましてや自分の妻子だったら当然だよね。死にたい人を助けることと、生きたい人を助けることって性質が違うよね。

ぼくは写真家だからいつもカメラを持ってるんだけど、カメラってほぼ切れることのない耐久性の高い1メートルぐらいのストラップがついている金属の塊(かたまり)だから、ハンマー投げみたいに振り回すと人を殺傷できるような武器になるんだよね。カメラが壊れようが自分の命を危険に晒そうが、逆に警察に逮捕される可能性があろうが、見知らぬ子どもでも自分の子どもでも助けるとおもうんだよね。

だって、ぼくの命と子どもの命の価値は違うから。子どもの命の価値も期待値も、ぼくよりもはるかに高い。ぼくなんて生搾りレモンサワーの搾りきったレモンみたいなもんだから、これから成長する子どものほうが圧倒的に可能性も価値も高いよ。

でもそれは、あなたもおなじことだったんだよね。あなただって可能性と期待値と価値の高い子どもだったわけで、どこかの見知らぬ子どもだったんだよね。ぼくはあなたの首を絞めたあなたの親にも「お前なんか死ねば良いのに」って言葉をかけてきた人にも、ふざけんなっておもうんだよね。

首を絞められたときに、それがもしもぼくの目の前だったら絶対に助けていたよ。ぼくは虐待とかいじめがすごく嫌いなの。人の可能性を潰す行為であって、下手をすると社会不安を招く行為だから。

虐待やいじめの被害者は、周囲から克服や努力を求められて、生きづらさを抱えるんだよね。理不尽すぎるでしょ、がんばれるわけないじゃん。そりゃ逆境をバネにできるようなタイプの人はそれでもがんばれるんだろうけど、やっぱり「あんたはがんばってくれ」としかぼくはおもわない。

ぼくは命の価値は平等だともおもってないし、つらさの感じ方も平等だとはおもってないんだけど、あなたのつらさをわざわざどこかのもっとつらい経験をしている人と比べなくてもいいんじゃない? きっと「もっとつらい人がいるんだぞ」って言葉をかけられたんだろうけど、なんで自分のつらさをツラインピックのメダリストたちと比べないといけないのよ。

それでつらさが和らぐわけじゃないし、余計につらくなるだけでしょ。これって弱者側の人もいったりするんだよね。「私のほうがつらいんだ」って、すげーアホだとおもうよ。自分のつらさと誰かのつらさは無関係なのにね。

虐待する親も「私のほうがつらいんだ」って免罪符のようにいうよね、あなたの親もいうんじゃないかな。ツラインピックのメダリストを目指してる選手やコーチの言葉は聞かなくていいよ。弱者の下からマウンティングは本当にやめてほしいよね。

あなたは間違いなく被害者だったんだよ、でもわざわざ加害者になる必要はないよ。すくなくとも通り魔の加害者になることはないよ。見知らぬ人や社会への復讐ではなく、せめて直接の加害者へ復讐したほうがいいよ。ぼくはもっと多くの人が、人間関係における復讐のリスクを認知したほうがいいとおもってるよ。

殺人だとか大袈裟なものじゃなくて、ちいさな復讐って世の中にたくさん存在するからね。迷惑な善意を拒否しただけでも復讐って発生するんだから。復讐は意識していないだけで世に溢れているよ。

どんなにがんばりたくなくても、死にたいとおもっても、死なないかぎりつらいおもいをしながら生きていかないといけないんだよね。だからせめて死んだら楽になるっておもって、いつでも終わらせることができるって考えていたほうがいいよ。

ぼくは死んでしまう病気になった病人なんだけど、まぁ最終的には死んで楽になればいいやっておもってるから、案外生きやすいよ。徹底的に嫌いな人を排除したから、ぼくのことを不幸にする人はいまの人間関係の中にいないの。嫌いな人を自分の周りから排除すれば、そりゃ好きな人しか周りにいなくなるよね。

ぼくはピーマンが嫌いなんだけど、やっぱり食べないもん。焼肉とかで肉と一緒に皿にのってくるけど、焼くことすらないもん。好き嫌いしちゃダメって人は、自分がやってりゃいいんだよ。

死刑っていつ執行されるか本人はわかんないんだって。今日は生きたいっておもった朝に死刑執行になったら嫌じゃん。もしも次に3人ぐらい殺そうとおもったら、おもいだしてください。諸々を総合的に考えても、死刑目的で罪を犯すのにメリットは感じないけどね。

自分が苦しいからといって、誰かを苦しめていい理由にはならないよ。って最初に書いたけど、これはあなたの親やあなたの周囲にいる人たちに本当は伝えたいことだよ。人生って不平等だし理不尽だよね。これはもうどうしようもないことだけど、苦しめられているあなたを助けたいとは思ったよ。

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だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。

「自分がしあわせになることが、いちばんみんなをしあわせにするんですよ」
「他人から嫌われるよりずっとつらいのが、自分で自分を嫌うことです」
「敵意は敵意で返ってくるけど、好意は好意で返ってきます」…など、心に刺さる幡野さんの言葉が満載の一冊!

ガンになった写真家に、なぜかみんな、他ではできない相談をする。でも、幡野さんは、簡単に慰めない、安易に共感しない。でも真実を捉え、時に耳の痛い言葉を、時に誰よりも温かい言葉を、”心の的のど真ん中”に、放り込んでくる。
この鋭さは何?この痛みは何?この居心地の良さは何?この希望は何?……
甘いだけの人生相談なんて、もう要らない。
背中を”本当に”押してくれる、唯一無二の人生相談です。

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Q「信者の母のもとで育ち、宗教から離れたいが、怖い」
Q「自分の性について、パートナーにカミングアウトすべきか」
Q「風呂で亡くなった母は、事故死なのか自死なのか」
Q「57歳、無職、独身。お金が無くなったら死ぬしかない」
Q「おもしろい人になりたい」
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など、31の悩みに対して、あなたのためだけに、手加減ゼロで弾き出される言葉とは――?

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幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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