一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第21回 井上真偽『アリアドネの声』
こんにちは。いい物語に出合うとアリガトネの声を出すアルパカ内田です。
未来への幕開けを予感させる夢の地下都市誕生。希望に満ちた式典の日にまさかの大地震発生。漆黒の闇に閉ざされた世界に取り残されたのは「見えない・聞こえない・話せない」という三重障がいを抱えた1人の女性。よくぞこのような究極のシチュエーションを見つけ出したものだ。この設定だけでも背筋が凍りついてしまう。
死と隣合わせの現場から、尊い命をシェルターへと誘導するミッションがスタート。この極めて困難な救出にドローンを駆使するのが物語のポイントとなる。最先端の機材をコントロールしてのスリリングな救助は、トラブルも発生し一筋縄ではいかない。だからこそ格別な臨場感があり、握りしめた手から汗が滴り落ちるように感じられるのだ。
容赦なく刻まれる水没までのカウントダウン。深い絶望の淵から、五感を研ぎ澄まして運命の糸をたぐりよせる。ストーリーの中で繰り返されるのは、「無理だと思ったら、そこが限界だ」という言葉である。諦めない執念が折れそうな心を奮い立たせるのだが、本書が教えてくれるのは限界を感じた人間が、その壁を乗り越えるためにとるべき行動指針だ。上質なミステリーにして、己に勇気を与えてくれる人生哲学までもが伝わってくる。
光と闇、生と死、嘘と真実、希望と絶望、理と情。あらゆる対比の要素が鮮やかに表現され、眩暈がするほどだ。さらに鳥肌が立ち、胸の鼓動も高鳴る。これぞ白眉の出来。ラストに見えた絶景は一生もの。出合ったことのない規格外の感動がここにある。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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