6月に『京大中年』を上梓したお笑いコンビ・ロザンの菅広文さんと、4月に『夢と金』を刊行したばかりのキングコングの西野亮廣さん。
長年にわたって親密な関係を築いているお二人による対談、第2回!
* * *
これまで朧(おぼろ)げだった部分が言語化できたのは大きい(菅)
菅 (『京大中年』では)自分だけの教科書を作るべきだ、みたいなことを書いてるんですけど、その教科書でいう「はじめに」の部分のことですね。いったい何のために学ぶのか、どうしてやるのか。芸人としての「はじめに」は何だろうって考えた時に、ロザンの場合は、二人でずっと喋っていたい、ということがかなり明確になって、なおかつそれを言葉に出して恥ずかしくないという境地まで来たんですね。
多くの人は、人から見てどう思われるかっていうことを「はじめに」にしてるところがある。全国で売れたいとか、かっこいい「はじめに」を作ろうとするんですが、「俺らは二人でずっとしゃべっときたいだけやねん」って、あんまり人に言うことやないでしょう。
西野 あー、確かに。
菅 でも、「はじめに」は人それぞれやし、他人にわかってもらえなくても、自分の中で解けばいいものだってことが、言語化できるようになった。だから悩んでたこととか、いろんな部分もさらけ出せるようになったのかもね。それで言うと西野は変わってないよね、「はじめに」の部分が。「一番面白くなりたいんです」みたいなことをずっと言ってる。
西野 めちゃくちゃ頭悪そうじゃないですか、僕の「はじめに」……。
菅 いやいや、すごいと思うよ。最初に西野から「一番面白くなりたいんですよ」って聞いた時も、何言ってんのとは思わなかったしね。そもそも「はじめに」の部分は、誰かが規定することじゃない。西野の言葉も素直に受け止められたし。今回の『夢と金』も全然変わってないよね。一番面白くなりたい。そのためにするべきことは、こうだってことを書いてるのかなと思いました。でも、お金の勉強することを最初に菅さんから教わったってことは書いとくべきやね。
西野 ごめんね。ごめん!
菅 たまに西野ってそういうところが……。
西野 だから、ごめんって言ってるし!
菅 ほんまに忘れているのか。
西野 止まらへんのか!
菅 いやでもね。ほんとに面白かったですよ。僕、だから発売当日に買ってるんですよ。
西野 そうだ。発売当日に飲みに行ったんですよね。マメですよね、菅さんって。僕が言うのもなんですけど、ほんと。
ずっと一緒に進むロザンさん。色々あるのがコンビなのに……凄い(西野)
――西野さんからツッコんでおきたいことなどは。
西野 ないです。別にビビってるわけじゃなくて、本当に。
(本の構成が)手紙っていうスタイルも新鮮でしたね。菅さんのそういうところって見たことがなかったので、めちゃくちゃ面白かったし、それでいて変わってないなとも思いました。「二人で喋るのがええねん」っていうのは、昔からおっしゃってて。お笑いコンビじゃなかったとしても、起業して二人で会社とかやってたかもしれないって、本当にそうなんだろうなと思う。
コンビって色々あるんですよ。僕もコンビだからわかるんですけど。ちょっと離れる時期とか、なんかいがみ合う時期とか。けど、ロザンさんは本当にずっと一緒に進んでる感じですよね。すげえなと思いました。
菅 僕らは「志は高く、目標は低く」やからね。二人でずっと一緒におるっていうのは、志の高いことやと思うんです。でもその志を貫くための目標設定も高いと、仲悪くなるんですよね。何かしらハードルを上げてしまうと、一人は飛び越えたけども、一人は飛び越えられなかったりする。なんでお前飛び越えられへんねんとかね。
西野 あります、あります。心当たりある。
菅 俺は行けたのに、お前そのための助走はしたんか、準備運動はしてんのか、ってなったりする。それが僕らはなかったんですよね。二人とも越えられるハードルやったら仲が悪くなる要素がない。
西野 でも珍しいですよ。そういうコンビは知らないですね。他には。
――お二人の本は、楽しく生きるために学び続けるという姿勢が似ています。
菅「学校の勉強なんか社会に出ても役に立たない」って言われますよね。「いや全然そんなことないよ、バリクソ役立つよ」っていうことを裏テーマとして書きたかったんです。学生時代すごく勉強したけど会社で通用しないとか、つまずいてる人も結構おられると思ってて。学歴そのものに重きは置いていなくて、学歴を得るためにした行動ですね、それが大事。受験というシステムの中でどういうふうに勉強をしたかって、すごく意味があることなのに、どっかでそれを置いてきてる。それを書きたかった。
よく言うじゃないですか。三角関数なんていつ使うんだよ! とか。全然使わないですよ、数学的思考を学んでるだけなんで。国語では言葉や思考を学ぶわけだし、日本史だって別に年号を暗記する科目じゃなくて、あれは過去を振り返って未来に繋げるための学びじゃないですか。
西野 なるほど。
菅 みんな普通にやってることでしょう。この前失敗したから今度こうしようとか、歴史的な思考ってそういうことで。学校はそれを学べる場で、何も間違ってない。でもそう理解するためには、学校でもちゃんと「はじめに」を教えるべきかもなぁ、と個人的には思います。その点、西野は独学だと思うんですけど、数学的思考とかはしっかりしてるんですよ。
西野 僕、証明がめっちゃ得意やったんですよ。
菅 だよね。すごく長けてるんです。でも、この前なんか「偏差値70点」て言ってたんですよね。偏差値のことわかってないなぁ、偏差値は点数じゃないのになぁ、と思って。僕そういうとこは流すんですけどね。
西野 言ってくれよ。だったら今も流せよ。なんでそこで流して今ここでとどめ刺すねん。
菅 数学的思考はちゃんとしてるからそれでいいじゃないですか(笑)。
――菅さんが書かれていた吉本のギャラのエピソードが面白かったです。「1ステージ500円」って給料の安さが芸人さんの間でネタになっていたのが、実は安いなりにちゃんと払われてたっていう、目からウロコの話で。
菅 ほんまはゼロ円もしくはマイナスのはずなのに、500円をもらってる時期が僕らにもあったんです。自分で人を呼べるわけでもなく、みんな先輩が集めてくれてたお客さんで、劇場のことやスタッフさんのこと考えたら、500円ももらえるはずがない。そういう話を闇営業問題の時に二人で喋ってた記憶もありますね。西野はいろいろ自分でイベントやったりとかしてたから、実感してたとこもあるんじゃないかな。
西野 あの頃、みんながワッと言いだして、僕も気になってたんですよね。吉本芸人が吉本を叩くみたいな変なノリが。ギャラについてツイートされてる方とかが結構いらっしゃって。でも、自分はイベントをゼロから作るんですけど、スタッフさんにギャランティをお支払いして、劇場の使用料とか、照明がいくらとか計算していくと、芸人に支払える額はほとんど残らない。単独ライブでお客さん満員でグッズも売れたのにギャラがこれだけだったっていうのも、ちゃんと一個一個計算していったらそうなるんですよ。
自分である程度のキャパの劇場を借りたりする経験をしないとわからないのかもしれないですけど、セット組むなら昼から借りなきゃいけないからプラス50万円とか、そういうことがわかっていくと、妥当な額だとわかる。吉本辞めてからも思ってたんですけど、いい会社ですよ。タレントを守るっていうことに関しては、すごくちゃんとしてる会社なんです。
菅 単独ライブやった時と、トークライブやった時で、単独ライブのギャラの方が高かったんですよ。これって実はおかしなことで、コントをやる単独ライブは、舞台衣装もかかるし、小道具のお金もかかるし、スタッフさんも多いし、経費がかかる分ギャラも安くなるはずですよね。トークライブは喋ってるだけなんで。一回僕、会社に言ったことがあって。おかしくないですかって。でも会社からしたらおかしくない。それは頑張ったからっていうギャラなんですよね。
西野 あーそれ、すごい話ですね。面白い。
菅 そういうファジーな部分がよかったんですよ。振り返ってみると、僕らがあんだけのギャラを単独ライブでもらえるわけはなかったんです。頑張り代でもらってた。
西野 正しいと思いますよ。ネタって、要するに芸人の資本じゃないですか。いいネタをたくさん作って、それを使ってテレビとかに出て行くわけだから、単体の売上げではなくて、いずれそのネタが売上げに繋がるんだったら、投資としては、正しい。
菅 確かにね。ただ今後、若い子は多分トークライブをやると思いますよ。イベント単体の計算になって、ファジーでなくきっちりしましょうっていうことになると、そっちのほうが実入りが良くなるはずだから。それがいいか悪いかっていうと、難しいところではあるよね。
VIP戦略を理解しなければ、バカバカしい話に流される(菅)
――イベントの採算ということでは、西野さんのVIP席の話も面白かったです。VIP席があるおかげで他の席が安くなっていることに気づいてほしいと。
西野 VIP席を作ったら、一般席の値段が下げられて、子供も椅子に座れたりするじゃないですか。そういうのは一応みんな知識として入れとこうよって思いますね。
菅 こないだ西野と飲んでる時にも言ったんですけど、大阪のカジノの話ね。反対するのは別にいいんですよ。ギャンブル依存症の問題やったりとか、そういうことはすごくわかる。ただ、毎年カジノでどれぐらい使ってもらわないと採算が取れないかという話があって、大阪府民で割ったら一人なんぼなんぼ使わないといけない、そんなに皆さん使えますかって言ってる人がいる。これ何の意味もない議論ですよね。カジノって大金持ちがドカンってお金を使う場所ですよ。それを庶民で割るって。
西野 あははは。
菅 庶民で割ってる時点でバカバカしいんですけど、そんな話に流されてしまう人もいる。確かに使わないよね、だったらカジノは儲からないって思ってしまう。でも西野が本に書いてるように、VIP戦略を理解してると、こいつ何を言ってんねやろってなりますよ。
西野 本はいいですよね。ツイッターでも、インスタグラムでも、フェイスブックでも、ユーチューブでも届かない層に届くっていう、また全然違うメディアなんですよね。書いてみるといつも思うんですけど、本だから読むっていう人がいてくれますもんね。
菅 確かにそうやね。
西野 新聞とかもそうかもしれないですけど、本だからっていう選び方をする人がいて、だから全然違うところに届く。それがいいんですよ。
(つづく)
取材・構成/篠原知存 撮影/吉成大輔
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お笑いコンビ・ロザンの菅広文さんが『京大中年』を2023年6月に上梓。同じく2023年4月にはキングコング西野亮廣さんが、『夢と金』を刊行したばかり。長年にわたって親密な間柄のお二人が、ほぼ同時期に幻冬舎から出版されるのも何かの縁。対談が実現しました。