現役の大学病院教授が書いた、教授選奮闘物語『白い巨塔が真っ黒だった件』。”ほぼほぼ実話”のリアリティに、興奮の声は大きくなる一方…!
第3章「燃えさかる悪意」も公開!第3章 全6回でお届けします。
* * *
それはまだぼくが医者一年目だった頃、結婚する前の妻が初めてアパートに泊まりに来た次の日の朝のことだ。ぼくは初めて医者として死亡確認をした。
同じ病棟で看護師として働く佳代とは、一年目の夏頃からなんとなく一緒にご飯を食べるようになり、その日は近くの牛丼屋で夕食を済ませた後、手をつないで鴨川沿いを歩いて帰った。
「じゃあ、また病院でね」
朝七時過ぎに、佳代は玄関を開けて先に出ていった。看護師の朝は研修医のぼくよりも少し早かった。
八時過ぎにぼくも部屋を出て、鍵をかける。十二月の京都は寒い。
凍える手を揉みながら病棟横の研修医室に着くと、珍しくその日は一番乗りだった。いつもは朝一番に来ているはずの宇山の姿はそこにはなかった。
宇山は名古屋出身の二十四歳。現役でH大学医学部に入学したため、ぼくよりも二歳若い。高身長イケメン、カラオケではいつもTOKIOの「AMBITIOUS JAPAN!」を歌っていた。
谷口を囲んで将来を語り合ったあの日、宇山は、「オレは手術ができる皮膚科医になりたい」と語っていた。
そんな宇山はいつも、誰よりも早く病院に出勤し、入院患者を診てまわっていた。
「あいつが遅い日なんてあるんだな」 そう思ってぼくは外来へと向かう。今日は先輩医師から依頼された患者たちの処置を朝から担当する日だった。
水虫患者の爪を切り、紫外線治療装置のボタンを押して、皮膚がんが疑われる患者の皮膚に麻酔をした後に、四ミリほど切除した。そうこうするうちに、あっという間に時計は一一時を回っていた。
「ねぇ、大塚くん、宇山くん知らない?」
基底細胞がんの疑いがある患者の生検内容をカルテに入力している横で、同期の横山が声をかけてきた。
「PHSに電話しても出ないし、研修医室に見に行ったらまだ病院に来てないみたいなんだけども」
「携帯は?」
「電話したけどつながらない」
「電源が入ってない?」
「ううん、出ない」
ぼくは嫌な予感がし、カルテを入力する手を止めた。
「電話の呼び出しはできるけど本人が出ないってこと?」
「そうなの。寝坊なら起きるはずだよね」
「心配だな。オレ、ちょっと家見てくる。外来処置お願いしていい?」
「うん。なにか分かったらすぐ連絡して」
ぼくは白衣を脱ぎ捨て、大慌てで自転車置き場へと向かった。
(つづく)
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白い巨塔が真っ黒だった件
実績よりも派閥が重要? SNSをやる医師は嫌われる?
教授選に参戦して初めて知った、大学病院のカオスな裏側。
悪意の炎の中で確かに感じる、顔の見えない古参の教授陣の思惑。
最先端であるべき場所で繰り返される、時代遅れの計謀、嫉妬、脚の引っ張り合い……。
「医局というチームで大きな仕事がしたい。そして患者さんに希望を」――その一心で、教授になろうと決めた皮膚科医が、“白い巨塔”の悪意に翻弄されながらも、純粋な医療への情熱を捨てず、教授選に立ち向かう!
ーー現役大学病院教授が、医局の裏側を赤裸々に書いた、“ほぼほぼ実話!? ”の教授選奮闘物語。
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