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神になりたかった男 回想の父・大川隆法

2023.10.02 公開 ポスト

「幸福の科学」創始者の青年時代…『太陽の法』旧版と新版では内容がずいぶん違う?宏洋

今年3月2日に逝去した新興宗教団体「幸福の科学創始者大川隆法氏。その長男であり、また、次期総裁候補として育てられながら今は教団と袂をわかっている宏洋(ひろし)氏による手記神になりたかった男 回想の父・大川隆法が発売されました。大川隆法氏の素顔教団内部のシステム、新興宗教とは何だったのか。あますことなく綴られた本書の「第1章」をお届けします。(書籍ご購入はこちら

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2つの『太陽の法』

ちょっと話は逸れる。

幸福の科学でもっとも重要とされている隆法の著書、いわば聖典が『太陽の法』『黄金の法』『永遠の法』の3部作で、特に大切なのが『太陽の法』だということになっている。

この『太陽の法』は幸福の科学の奇想天外な教えを説いた本だが、後半に少しだけ、隆法の自伝的なくだりがある。プロローグで引用した隆法の文章は、この本からとっ たものだ。

ところが隆法は、少なくとも1回、この本の内容を大幅に書き換えている。

『太陽の法』には文庫版や外国語版も含めてたくさんのバージョンがあるけれど、大きくは2つに分かれる。改訂前のものと、改訂したものだ。

『太陽の法』はまず1987年に土屋書店という出版社から発売され、後に改訂版が幸福の科学出版から出されたというわけだ。

今、手に入るのは改訂版のほうだが、僕は改訂前の土屋書店版を手に入れ、読んでみた。

そしてびっくりした。内容がえらく違っているからだ。改訂に伴い、隆法は過去を大幅に美化したらしい(以下、改訂前を『旧版』、改訂後を『新版』と書く)。

たとえば旧版では子供時代の自分のことを「生来、田舎育ちで、愚鈍であった私」などと謙虚に書いているけれど、新版では神童だったことになっていて、中学校では「抜群のトップを続け」「職員室中を驚かせた」上、担任の先生に「みんなが黙ってついてくる」とまで言わせ、「宗教的魅力を秘めた懐の深さがあったようです」と自賛までしている。

新版は万事こんな調子で、読んでいて恥ずかしくなるくらいだ。とにかく、全体のトーンが旧版とはまったく違う。

もっとも、僕にとってなじみ深いのは新版の隆法のほうではある。

僕が知っている隆法には謙虚さのカケラもないし、だいたい僕は隆法の自伝映画で隆法役を演じたりと、彼の過去の美化にはずいぶん付き合ってきた。

ただ、旧版を読むとわかるのは、昔の隆法には、謙虚さというか、自分を客観的に見る力が残っていたということだ。旧版の自伝的内容はかなり真実に近いと思う。

しかし隆法は自分と向き合うことをやめ、過去を美化するようになってしまった。その変化は『太陽の法』の新版と旧版を見比べるとよくわかる。

そこで、これからは新版と旧版、2つの『太陽の法』を参照しながら隆法の若いころを振り返ろうと思う。新版で美化したり削除した部分には、隆法にとって重要だったことが潜んでいる気がするからだ。

華やかな高校生活?

高校時代の隆法は、先ほどの同級生の証言にもあった通り、パッとしなかったんだろうと思う。隆法は旧版で「十代の自分をふりかえると、まったく亀のようであったと思います」と書いている。

しかし新版では、剣道部の練習と2時間半もの通学というハンディがありつつもクラス1番の成績を誇り、理系クラスに進んだときは校内に「私が東大の理科三類(医学部)に進学するのではないか、といううわさが流れた」ことになっている。東大の中でも一番合格が難しいことで知られているあの理科三類だ。

そればかりか、文化祭では隆法が2年連続で劇の主役を務めたそうで、しかもその演技の評判が良かったと言いたいのか、演劇部の女子生徒から勧誘され続けたとまで書いている(単に勧誘されたんじゃなく、勧誘され「続けた」と書いている)。先ほど引用した同級生の証言とはエライ違いだ。

こういう美化(だろうと思う)に、本当は暗かった隆法の高校時代を読み取るのは深読みだろうか?

証言によればモテなかったという隆法が、「女子」生徒に勧誘されるような高校生活を送りたかったという願望の表れじゃないのか?

東大受験の失敗

前に書いたように、隆法は東大受験に失敗して1浪しているが、旧版にはその描写がしっかりとある。

「田舎育ちの少年は、十八歳の春、三十キロを超す本をバッグにつめ込んで、東京駅に降り立ちました。まだ凍えるほどの寒さだったというのに、顔を上気させ、汗を流しながら、どうやって渋谷駅に行ったらよいかがわからず、途方にくれていたのです」。この後、2次試験に不合格になったことも書いている。

しかし新版では、「もう一つ成績が伸び切らず不本意でしたが」とすべてが順調ではなかったことを示唆してはいるけれど、1度落ちていることは見事にスルーして、代わりに受験生時代の成績の良さを誇っている。浪人した過去を隠したい意識の表れだろうと思う。

浪人時代の隆法は、すでに現役で京大に入っていた伯父のところから京都の駿台予備校に通ったらしい。兄への劣等感は、浪人中にさらに膨らんだんじゃないだろうか。

東大での挫折

1976年春、隆法は東大に入る。

念願の東京大学への進学は、同時に、東京に住むことをも意味していた。だから、なんどか書いたように「田舎者」であることに劣等感を持っていた隆法にとっては、とても大きな出来事だったはずだ。ただし、田舎者を自覚していた記述は新版からはほぼ削除されている。

期待にあふれて東大に進んだ隆法だけれど、学生生活は挫折の連続だったらしい。

旧版によると、「東大法学部の学生は、全国から集まった秀才ばかりで、たちまちにして私は、劣等感の虜となってしまったのです」。その裏返しなのか、他人につい大言壮語ばかりしてしまう自分が嫌になり、「やがて対人恐怖となり、下宿にこもって、本ばかり読むようになりました」。

隆法は僕に、大学時代は友達がおらず、ひたすらに本を読んでは大学に行っての繰り返しだったと話していたけれど、旧版にはその通りのことが書いてある。ちなみに隆法はこのころ、世田谷区の羽根木公園のそばに住んでいたという。東大の駒場キャンパスに近いからだろうか。

大学2年生の冬、隆法はたぶん大学内で見かけた例の彼女に惚れ、半年以上にわたって手紙を送りまくる。僕が隆法から聞いた話では、彼女はその後司法試験に受かったらしいので、隆法が司法試験を受けたのも彼女と無関係ではなかったかもしれない。

しかし隆法は(当然ではあるが)彼女にフラれ、司法試験にも落ち、上級国家公務員試験にも失敗する。研究者を目指した時期もあるらしいけれど、成績が悪かったので大学に残ることもできなかった。本人は「ゼミの教授と喧嘩した」と言っていたけれど、本当かどうかはわからない。

そして1年の留年の後、(株)トーメンに就職。東大生の就職先としては微妙であることは先に書いたけれど、旧版には「やっとひろわれた感じで」と書いてあるので、就職活動にもかなり苦しんだんだろうと思う。

そういえば隆法は、僕に就活の話をしたこともあった。いわく、友達がいなかったので企業の情報が入ってこず、苦労したということだった。就活では地味なリクルートスーツを着なければいけないことを知らなかったので、派手なスーツで行ってしまい怒られたとも言っていた。

ありそうな話ではある。隆法は就活でも孤独だった。

これが隆法の東大時代のまとめだ。どう見てもいいところなしと言わざるをえない。しかし『太陽の法』の新版では、トーンががらりと変わる。

(つづく)

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宏洋

1989年、秋田県生まれ、東京都練馬区出身。元・幸福の科学総裁、大川隆法の長男。YouTuber、イベントバー経営者。青山学院大学法学部卒業。東京都赤坂でイベントバー「三代目」を経営する傍ら、映画監督、脚本家、俳優としても活動している。著書に、『幸福の科学との訣別 私の父は大川隆法だった』(2020年、文藝春秋BOOKS)等がある。Twitter https://twitter.com/hiroshi2ndsub YouTube https://www.youtube.com/@user-qi2cj8nu7y

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