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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

2024.06.20 公開 ポスト

藤岡みなみが何度も読んだ本は、タイムトラベル書店の原点にもなったK・グリムウッド『リプレイ』菊池良(作家)/藤岡みなみ(エッセイスト/タイムトラベラー)

元々、芥川賞候補作を読んでお話する読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。

毎月テーマを決めて、1冊ずつ本を持ち寄りお話する、「マッドブックパーティ」。第一回の「何度も読んだ本」、後編をお届けします。

あなたもご参加してみませんか? 読書会の様子を、音で聞く方はこちらから

 

*   *   *

藤岡みなみさんの「何度も読んだ本」:K・グリムウッドの『リプレイ』(新潮文庫)

藤岡:では私の本の方も行ってみましょうか。私、藤岡が人生で何度も読んだ本はK・グリムウッドの『リプレイという、ループもの、タイムトラベル系の本なんですけど。主人公が43歳の男性で、ラジオ局で働いている時に心臓発作で死んじゃうシーンから始まるんですよね。死んだ次の瞬間、大学生に戻ってる。記憶を持ったまま人生をやり直すっていう小説ですね。

菊池:これ、すごい面白かったです。

藤岡:良かった。面白いですよね。あらすじだけ聞くと、もはや使い古されたって思うかもしれないですけど、すごく哲学的なことが語られていたりとかして、エンタメとしても面白いし、それ以上の読みごたえもある本。

菊池:そうですね、いろんな要素が入ってますよね。

藤岡:そうなんですよ。これを私は、人におすすめしまくってて。最初に読んだのは15歳ぐらいでした。どんどん人に貸して、それが返ってくる前に他の人にも貸したいから買って、何度も買い直した本でもあります。しかも誰に貸しても、読んだら絶対面白いって言ってくれる。

菊池:そうなんですね。ループものって、もうジャンル化されてるぐらいですけど、この小説の面白いところは、43歳の男が、 20年以上前に戻ってやり直すっていうところですよね。

藤岡:しかも、1回じゃなくて、何回も。43歳になったら、また死んじゃうんですよね。繰り返すたびに、違う女性と結婚してみたり、違う仕事をしてみたり、山で暮らしてみたりとか、いろんな人生を経験できる。それって夢のようなことに思えるけど、でも実はすごい苦しいというか、 むちゃくちゃ喪失感にあふれている。とにかく孤独。 ループものに共通してるのが、孤独だと思うんですね。自分だけが時間の檻に閉じ込められたというか。

菊池:そうですね。この小説の主人公もすごく孤独で、そこから始まるんですよね。

藤岡:最初はやっぱり、記憶を持ったままやり直せるから、競馬で大儲けしたりとか、株に強かったりとか、お金を稼ぐことは簡単なんです。それを読んでると「うわ、いいな、羨ましいな」って思うけど、でもそれ以外の孤独感とか喪失感とかを読んでると全然羨ましくなくて。せっかく築き上げた環境とか人間関係とかをまたリセットされて、それもなかったことにしちゃう瞬間の、もうとんでもない、心に穴が開いたどころじゃない。

菊池:そう、ループものであり、リセットもの。

藤岡:リセットものですね、確かにそう。喪失の物語っていうとこが結構あるかもしれないですね。確かにリセットものだ。『リプレイ』っていうか、『リセット』っていうタイトルでもしっくりくるような。ゲームでいいとこまで行ったら消されちゃうんですよね。

菊池:強制終了ですもんね。

藤岡:しかも展開が面白くないですか。ただ繰り返すだけじゃなくて、次はこんなことが起こる、こんなことが起こるっていう、いい展開で。

菊池:そう、2回目はこうしたから、じゃあ3回目はこうしようとか。

藤岡:そうそう。そして運命論というか、自分が生きてることで、世界に与える影響とか、精神世界の描写が結構あったりして、ただのエンタメとしても読めるけど、人生の哲学があるんじゃないかなと思って、すごくこの本好きで。

人生の原体験にもなっている一冊

藤岡:私、タイムトラベル専門書店っていう本屋さんをやってるんですけど、この『リプレイ』がなかったらやってなかったかもしれないって思うんですよね。この本を読んだことで、「タイムトラベル」っていうテーマが、ただのエンタメじゃなくて、人生の話なんだって思えたんです。

菊池:じゃあ、原体験なんですね。

藤岡:本当に何回も読み直していて。
あと、今回の企画のために『風の歌を聴け』と『リプレイ』を連続で読んだら、なんかちょっと似てるとこもあるんだって思ったんですよね。

菊池:あ、ほんとですか?

藤岡:設定としてはどちらも男性主人公で女性が出てくるし、主人公がいろんな女の子と寝てみたりとか、そういう部分も似てるし。さっき言った『風の歌を聴け』の、冷蔵庫の中身が全部書いてあるみたいな細かさが『リプレイ』にもあって。実在する作品とか実在する事件とか、生活の細かい描写が割と書き込まれているのも似ています。展開のテンポもいいのに、描写もすごい細かいから読みごたえがあるなと感じるところが。

菊池:そうですね。この話、1960年代に戻るんで、実際にあった事件とか流行ってたものとかがどんどん出てくるんですよね。

藤岡:そうなんですよ。だから、もしかしたら私よりもう少し上の世代の人が読んだらピンと来ることが結構あったりするのかもしれない。

菊池:ビートルズとかも出てきますし。あと印象的だったのが、最初にリプレイしたときに、主人公がラジオを聞いたら、ラジオから懐メロしか流れてこないっていう描写。全部当時の流行りものなんだけど、主人公は「どの局も懐メロしか流してないぞ」みたいな。

藤岡:その気づき方いいですよね。タイムトラベルものって、主人公がタイムトラベルしちゃったことに気づくシーンって必ずあるじゃないですか。それが、新聞を見てとか、服装が違うとか、そういうパターンがあるけど、聞こえてきた曲が全部懐メロだったっていう気付き方。面白い。
主人公はラジオ局で働いてるディレクターですけども、K・グリムウッド自身もラジオ局で働いてて、この本が売れて専業作家になったんです。しかも、この『リプレイ』の続編を書いてる時に、心臓発作で亡くなったんです。

菊池:そうなんですね。

藤岡:主人公とのリンクがすごくあって、もしかして今ごろリプレイしてるんじゃないかっていう、ちょっとぞっとする、余談もあり。

読書をリプレイするための1冊

菊池:15歳の時は何がきっかけで読んだんですか。

藤岡:多分家にあって、母が勧めてくれたのかな。そういうの結構多いんです、「これ面白いよ~」みたいな。私、海外小説を当時読まなくて。カタカナだと頭に入ってこないっていう偏見があって。 でも『リプレイ』はすごい読みやすいなと思って。
最近たまに、「本が読めないな」って時があるんですよね。自分がアウトプットモードになってる時とか、忙しすぎて集中ができない時とか、活字がすべっちゃうっていう時に、弾みをつけるというか、面白い本を1冊読めばそこから読めるようになることがあるから、「ちょっと一発『リプレイ』読むか」っていう時があります。

菊池:そうなんですね、読書をリプレイするための1冊。

藤岡:そう! さすがいいコピーが! 読書をリプレイするための1冊ですね。
この本、読み終わった後がすごい気持ちいいんですよね。読み終わった後に、「あー、私の人生、1回きりでよかったな」って思って。「今から人生やるぞ」っていう気分にさせてくれるラストっていうか。

菊池:そうですね。すごくポジティブな終わり方ですよね。

藤岡:そうなんです。そこがいいなと思って。 だって、やっぱ人生の時間って関係ない人がいないじゃないですか。だから自分の毎日の時間について考えてしまう。

菊池:そうですね。読んでる時は、自分がリプレイするならどうしようかなとか色々考えるんですけど、その考えも読みながらだんだん変わってくる。

藤岡:そうなんです。だいぶ苦労しそうですから。

もし18歳からやり直すとしたら……?

菊池:藤岡さんなら、 18歳からやり直すとしたら、何しますか?

藤岡:どうしよう。子供が生まれる前は、いろんな自由な妄想もできたんですけど、今となっては、いかに前と同じ風に生きて、子供と会うところまでは変えずにいきたいと思ったんですよね。現実的すぎるけど、どうしてもそう考えちゃう。

菊池:そうなんですね。

藤岡:でもそれを考えずにやるとしたら、もっと早く芸術を志したかったとか? わからないけど。菊池さんは18歳に戻ったらどうしたいですか?

菊池:僕も、自分から聞いといてあれなんですけど、18歳の時は高校中退して引きこもってた時期なんで、もう今のようなルートに入ってる時なんです。だからそのまま突っ走るしかないかもしれないです。

藤岡:今の菊池さんルートに。そうなんですね。
この本の最後にも語られるんですけど、やり直せるってなった時、もっとうまくやるぞってどうしてもそういう考えが働くんですよね。なんだけど、よりうまく生きることよりも贅沢な生き方っていうのがあるんですよね。それが多分私たちのこの1回限りの失敗しまくりの一生懸命やってる人生っていうことなんだと思うんですけど。

菊池:そうですよね。人生の成功ってなんなんだろうって、読んでて感じましたね。

藤岡:なんかこういう話ができるっていうのも、この本のすごくいいところですよね。本当面白い。43歳になったらまた読もう。

菊池物語がスタートする、43歳の10月18日に読みましょう。

藤岡:それ絶対いいと思う。 なんか疑似体験できると思います。最後のページを読み終わった時の気持ちで、43歳からまた一生懸命生きる。最高ですね。ぜひおすすめです。皆さんも読んでください。

次回のテーマを決めましょう

藤岡:そんなわけで、 初回のテーマは「何度も読んだ本」ということで、私たちが1冊ずつ紹介してきました。楽しいですね、やっぱり。

菊池:そうですね。その人のことも見えますし。本について話すのって楽しいですね。

藤岡:楽しすぎる。なんかみんなで同じ本を読むのがやっぱり楽しくて。担当の黒川さんも2冊とも読んでくださって、面白かったって言ってくださったんですけど、面白いって言われると、嬉しい。自分が書いたものではないけど、なんかすごい嬉しい。なので、またいろんなテーマで様々な角度からお話していきましょうね。
次回、テーマとかどうしますか。

菊池:そうですね。「何度も読んだ本」の次。なんだろう。「夏に読みたくなる本」とか。「自分の人生を変えた本」とか。

藤岡:うんうん。壮大なテーマだ。

菊池:「裏切られた本」とか。

藤岡:ポンポン出てきますね、菊池さん。どうしよう、どれも面白そうだけど、「裏切られた本」、気になります。いってみますか?

菊池:そうですね、事前の印象とか、いろんな意味で「裏切られた本」。

藤岡:そうしてみましょう。楽しみ。

菊池:じゃあ次回は「裏切られた本」ということで1冊ずつ持ち寄りましょう。

藤岡:はい! これからもよろしくお願いします。

*   *   *

次回は「裏切られた本」をテーマに、お二人が本を持ち寄ります。皆さんなら、どんな本を紹介するかも考えながら、お待ちください。次回もお楽しみに!

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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

菊池良さんと藤岡みなみさんが、毎月1回、テーマに沿ったおすすめ本を持ち寄る読書会、マッドブックパーティ。二人が自由に本についてお話している様子を、音と文章、両方で楽しめる連載です。

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菊池良 作家

1987年生まれ。「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」シリーズ(神田桂一氏との共著)は累計17万部を突破する大ヒットを記録。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』『芥川賞ぜんぶ読む』『タイム・スリップ芥川賞』『ニャタレー夫人の恋人』などがある。

藤岡みなみ エッセイスト/タイムトラベラー

1988年、兵庫県(淡路島)出身。上智大学総合人間科学部社会学科卒業。幼少期からインターネットでポエムを発表し、学生時代にZINEの制作を始める。時間SFと縄文時代が好きで、読書や遺跡巡りって現実にある時間旅行では? と思い、2019年にタイムトラベル専門書店utoutoを開始。文筆やラジオパーソナリティなどの活動のほか、ドキュメンタリー映画『タリナイ』(2018)、『keememej』(2021)のプロデューサーを務める。

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