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キリスト教の100聖人

2024.07.02 公開 ポスト

ロンギヌス イエスの脇腹に槍を突き立てるも聖人になったローマ兵士島田裕巳(作家、宗教学者)

キリスト教の「聖人」たちを8つのパートに分けて列伝化した幻冬舎新書『キリスト教の100聖人』。歴史だけでなく教義や宗派の秘密まで教えてくれるこの画期的な一冊から、一部を抜粋してお届けします。

キリストの奇跡で回心したローマ兵士

十字架刑に処せられることになったイエスは、自ら十字架を背負ってヘブライ語で「されこうべの場所」を意味するゴルゴタまで行ったとされる。だが、これは「ヨハネ」にあるもので、共観福音書では、イエス自身ではなく、ほかの人間が十字架を背負ったと記されている。どの福音書でもゴルゴタが丘とはされていない。丘とされるようになるのは後世になってからである。

十字架に架けられたイエスに対して、一緒に処刑された他の罪人はぼうとくすることばを吐いた。「マルコ」では、イエスは「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」と絶望の声を上げたとしている。「マタイ」でも同様だが、ルカでは、「父よ、わたしの霊をにゆだねます」と、イエスのさいのことばは異なっている。

ヨハネでは、イエスが十字架で息絶えた後、兵士たちの一人がイエスのわきばらを刺し、そこから血と水が流れたとある。水とは遺体からの体液の漏れである。ここでは、兵士がどういう人間だったかはいっさい述べられていない。

ところが、外典の一つである「ニコデモ福音書」、別名「ピラト行伝」には、槍を刺したローマの兵士はロンギヌスという名であったとされる。そこからこの槍は、「ロンギヌスの槍」、あるいは「せいそう」と呼ばれる。

ベルニーニ作「聖ロンギヌス」(サン・ピエトロ大聖堂)

ロンギヌスの槍が発見されたときのエピソードにはいろいろなバリエーションがあるが、有名なのは第1回十字軍がアンティオキアを攻めて苦戦していたときのものである。ペトルス・バルトロメオという修道士であり兵士である人物がお告げで発見し、それで十字軍の士気は高まったものの、その後、槍は行方不明になった

この槍は、イエスの受難にかかわる聖遺物の一つであるが、こうした聖遺物のなかでもっとも価値があるとされたのが、処刑に使われた十字架であり、キリスト教を公認したコンスタンティヌス帝の母、ヘレナが発見した。ヘレナは、イエスのに打ちつけられた釘も発見している。

ロンギヌスについて、『黄金伝説』では、刺した瞬間にてんぺんを目撃してかいしんし、イエスの血によって弱っていた視力が回復したとされる。その後、殉教したとも伝えられ、聖人として崇敬の対象になっていった。

*   *   *

続きは幻冬舎新書『キリスト教の100聖人 人名でわかる歴史と教え』でお楽しみください。

関連書籍

島田裕巳『キリスト教の100聖人 人名でわかる歴史と教え』

宗教では聖人と呼ばれ崇められる人物がいる。キリスト教の信仰世界では、〈神と神の子イエス〉はその絶対性ゆえに一般の信者からは遠い存在であるため、両者の間で、信者の悩みや問題を解決する存在として聖者が浮上する。本書では、聖者たちを、イエスの家族と関係者、12人の弟子、福音書の作者、殉教者、布教や拡大に尽力した者、有力な神学者や修道士、宗教改革者など8つのパートに分けて列伝化した。数多の聞き覚えのある名前を手がかりに、歴史だけでなく教義や宗派の秘密まで教えてくれる画期的な一冊。

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島田裕巳 作家、宗教学者

1953年東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著作に『日本の10大新宗教』『平成宗教20年史』『葬式は、要らない』『戒名は、自分で決める』『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』『靖国神社』『八紘一宇』『もう親を捨てるしかない』『葬式格差』『二十二社』(すべて幻冬舎新書)、『世界はこのままイスラーム化するのか』(中田考氏との共著、幻冬舎新書)等がある。

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