アリに乗る、餌をねだる、アリを食べる……。アリの巣の中には、こうしたさまざまな昆虫が居候していることを、みなさんはご存じでしょうか? 彼らの正体と、その驚くべき生存戦略を、著書『アリの巣をめぐる冒険 昆虫分類学の果てなき世界』を上梓した、若き昆虫学者の丸山宗利さんに解説してもらいました。
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アリの巣の中で起きていること
──先生はアリと共生する昆虫を研究されていますが、そのきっかけを教えてください。
アリってすごく身近な昆虫ですよね。昆虫にくわしくない人でも、絶対に見たことがあるはずです。ところが、巣の中にどんな世界があるのかは多くの人が知りません。
実はアリの巣の中をよく見てみると、アリではない違う生き物が居候しているんです。アリの上に乗ったり、口移しで餌をもらったり、中にはアリを食べてしまったり、いろんな生き物がいます。
この研究を始めたのは、大学院に入ってすぐの頃でした。当時はこの研究をしている人は誰もいませんでした。だから、あちこち採集に行くたびに新種が見つかったんです。中には、私の名前(マルヤマ)を学名につけてもらった昆虫もいます。
こうした新しい発見や新鮮な驚き、楽しい思い出がたくさんあって、それが今につながっているのではないでしょうか。
──こうした昆虫を「好蟻性(こうぎせい)昆虫」と呼ぶそうですが、彼らはどのようにしてアリの巣に入り込んだのですか? アリにとっては、何もいいことがないと思うのですが。
アリというのは言葉を話さない代わりに、匂いやフェロモン、あるいは身体の一部をこすることで音を出して会話しています。アリと共生する昆虫の多くは、そうした匂いや音を真似て、アリの巣に入り込んでいるんです。
最初は敵だと思われて、ほとんどの場合は追い出されたり、殺されたりしたと思います。でも、たまたま真似るのが上手いやつが受け入れられて、進化の過程でさらにアリの世界になじんでいった。
アリからすると、本当に知らぬ間にという感じですよね。人間社会で言えば、人間とそっくりな生き物がいつの間にか混じっているようなものです。
──SFなどよく、宇宙人が人間そっくりに擬態して人間社会に入り込んでいる設定がありますが、それと同じようなものですね。
まさに同じです。実際にアリの巣を観察してみると、アリたちから本当の仲間のように受け入れられているんです。その様子を見ていると、今でも面白いなと感じます。
おそらく進化の過程では、アリの社会をダメにしてしまったやつもいたと思うんですよ。でも、そういうやつは生き残ることができません。アリの社会から搾取しきらずに、ほどよくアリをだますやつが今、生き残っていると思うんです。
だから、好蟻性昆虫がアリの巣の中にたくさんいることはなくて、たいていちょっとしかいません。アリの社会にとってはたいした被害はない。一方で、好蟻性昆虫は細々と子孫を残すことができる。こうした共生のしくみになっているんです。
「新種」はあなたのすぐそばにいる?
──こうした好蟻性昆虫は、アリの巣の出入りをじっと見ていれば、私たちでも見つけることができるのでしょうか?
見つけやすい種類のものでしたら、非常に簡単に見つかります。たとえば、クサアリというアリがいるのですが、日本武道館のそばにある森などを歩いていると、かなりの確率で行列を見つけることができます。
その行列をじっと見ていると、クサアリに混じって、ハネカクシという虫が歩いていることに気づくと思います。ハネカクシというのは、好蟻性昆虫の中でも代表的といえる分類群で、意外と身近なところにいるんです。
──都心でも見ることができるんですね。今回の本には、ハネカクシのイラストや写真も入っていますから、それを頭に入れておくと見つけやすいかもしれません。
そうですね。7月くらいまで見ることができますので、ぜひ試してみてください。
──小学生が新種を見つけたというニュースが、新聞などで報じられることがあります。よくあることなのでしょうか?
実は新種って、身近なところにいるんです。日本では今、4万種弱の昆虫が知られています。でも実際には、日本だけで6万種から8万種の昆虫がいると言われています。つまり、数万種の新種が、まだ名前もつけられずに残っているということです。
すでに名前のついている既知種の情報をきちんと持っている専門家に見せれば、すぐに新種だとわかることもあります。ですから、小学生が新種を見つけるのは、まったくあり得ない話ではありません。
ただし、見つけた新種が本当に新種なのかどうかを確認する作業があって、これが大変なんです。時間がかかるので、なかなか追いつかないという現状があります。
──小学生でも見つけることはできるんですね。ロマンあふれる世界だなと思いました。
私自身、子どもの頃から昆虫が大好きで、新種を見つけて発表するのは一つの夢でした。昆虫学はその夢をかなえることができる、とても魅力的な学問だと思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】丸山宗利と語る「『アリの巣をめぐる冒険 昆虫分類学の果てなき世界』から学ぶ生き物の多様性」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
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この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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