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礼はいらないよ

2024.06.28 公開 ポスト

「ユーロ2024」をどう見るか?「都知事選」をどこで判断するか?“国籍”をめぐる考察ダースレイダー(ラッパー・トラックメイカー)

「フランス人」になる選択肢もあった

サッカーのユーロ2024が開幕した。ドイツで熱戦が繰り広げられているわけだが、試合は全部深夜だ。

ここ数年、深夜起き続けているとダメージが翌々日くらいまで続いてしまうので、ここぞというライブだったりがない限りは寝てしまう。仕方ないのでリアルタイムは諦めて、翌日フルで観ようと思っても結果を速報で知ってしまうとダイジェストで良いかなと考えてしまう。ダイジェストを観るとやはり面白いので、フルで観れば良かった! と後悔する。

 

サッカーは不思議なスポーツでゴールシーンはどれも強烈で刺激的なのだが、90分の中には大小様々なドラマが起きていて、それが空気を少しずつ、あるいは劇的に変えていく。それがわかっているのにダイジェストを観てしまうのは昼間、2時間の試合鑑賞時間を確保する余裕が自分に無いこともある。時間があっても次の予定が容赦なくやってくる。フリーランスだと隙間が怖いからなんだかんだで埋めてしまう。じゃあ、仕事がない深夜に観るのがやはり良いか、と振り出しに戻って、悩む。

そんな悩める大会だが、毎回僕が応援するチームは決まっている。生まれた国フランスと育った国イングランドだ。あとは大会中のプレーで今回はアルバニアが熱い!と驚いたりウクライナの試合を見守るキッズの表情に感情を揺さぶられたりするわけだが、フランスとイングランドには特別な思い入れがある。その思い入れについて考えるとまた不思議な感覚に陥っていく。

フランスは出生地主義を取っているので、フランスで生まれればフランス国籍を取得できる。僕と弟は二人ともフランス生まれだ。両親から厳密な説明はなかったが、日本国籍だった僕らは、16歳と21歳の時に申請すればフランス国籍を取得することも出来たらしい。

突然フランス人になるという展開は面白いなとも思ったが、4歳まではそこそこ喋れたフランス語は完全に記憶の彼方に飛び去っていたし、10歳でロンドンから帰国して以降はずっと東京住まいで東京の学校に通っている。現実的にフランス国籍取得を考えることはなかった。そして国籍なるものの正体をちゃんと考えることもしなかった。ただの書類上の手続きで、僕自身がフランス人になった瞬間にエスプリの効いたキャラに変わるはずもない。

実際、パリでもロンドンでも東京でも話している相手の国籍がどこか? を気にしたこともそれほどなかったと思う。もちろん、以前この連載でも書いたと思うがロンドンの小学校では上級生によるアジア人いじめにはあっている。

その時はチャイナマン!と囃し立てられて、僕はジャパニーズだ! とだけ言い返した。この時は僕が自分を日本人だと主張していたが、この根拠が書類的な国籍ではない。インド人、ポーランド人、ギリシャ人、ヴェネズエラ人などの同級生がいたが、それぞれの出身に基づく生活様式の違いはあったが彼らの個性を国籍に基づいて考えたこともない。当時僕が住んでいた地域はユダヤ人地区。ユダヤ人というのも国籍ではないし、むしろ近所だけでも様々な国籍のユダヤ人がいた。

今、ユーロ2024と同じ時期に東京都知事選挙も行われている。現職の小池百合子候補に挑む候補者は全部で56人。その選挙戦の話題はポスター問題など色々あると思うが、有力候補とされる蓮舫氏について国籍を話題にする人がいる。

彼女は台湾人の父と日本人の母の間に生まれた東京生まれの東京育ちだ。日本の国籍法では昭和59年(1984年)12月までは父系主義が採られ、外国人父と日本人母の間に生まれた子には日本国籍が与えられなかったが、のちに法が改正されて国籍取得が可能になっている。蓮舫氏はこの時に日本国籍を取得したわけだが(未成年だったため手続きは父親が行った)、その際に台湾国籍が残ってしまっていた。

これは書類上のことであり、東京で生まれ育った事実は変わらない。ちなみに日本では右派にも台湾を応援する声は大きい。その点から言えば蓮舫さんのルーツも応援しても良さそうだが、不思議と中華人民共和国と結びつけて話す人を見かける。蓮舫氏は2017年に台湾籍離脱の手続きをするのだが、ここでは日本が台湾を国家承認していないが故に複雑な手順を踏むことになった。国家、国籍、法、書類、その人自身。僕らが物事を判断する時にどこに依拠すべきか?

フランスではマクロン大統領が解散総選挙を宣言した。欧州議会選挙で与党が大敗を喫し、右派が台頭する中で社会の混乱に対処するため、という理由だ。フランス社会の分断は未だかつてない事態にまで進行している。その中でサッカーのフランス代表チームは数少ない統合の象徴としても機能している。

デシャン監督にキャプテンのエムバペ、グリーズマンにデンベレらが共にボールを回す。彼らの仲間意識は国籍に基づくのか? それとも共に闘う中で築かれた信頼関係に基づくのか? 彼らが胸に手を当てながらラ・マルセイエーズを歌う姿を見ながら、物事は単純ではないが、それでも一人の人として僕は思いを巡らせている。

関連書籍

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』

ヒップホップは逆転現象だ。病、貧困、劣等感……。パワーの絶対値だけを力に変える! 自らも脳梗塞、余命5年の宣告をヒップホップによって救われた、博学の現役ラッパーが鮮やかに紐解く、その哲学、使い道。/構造の外に出ろ! それしか選択肢がないと思うから構造が続く。 ならば別の選択肢を思い付け。 「言葉を演奏する」という途方もない選択肢に気付いたヒップホップは「外の選択肢」を示し続ける。 まさに社会のハッキング。 現役ラッパーがアジテートする! ――宮台真司(社会学者) / 混乱こそ当たり前の世の中で「お前は誰だ?」に答えるために"新しい動き"を身につける。 ――植本一子(写真家) / あるものを使い倒せ。 楽器がないなら武器を取れ。進歩と踊る足を止めない為に。 イズムの<差異>より、同じ世界の<裏表>を繋ぐリズムを感じろ。 ――荘子it (Dos Monos) / この本を読み、全ては表裏一体だと気付いた私は向かう"確かな未知へ"。 ――なみちえ(ラッパー) / ヒップホップの教科書はいっぱいある。 でもヒップホップ精神(スピリット)の教科書はこの一冊でいい。 ――都築響一(編集者)

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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