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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

2024.07.11 公開 ポスト

藤岡みなみが裏切られた本は、読書の考え方がガラッと変わるピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』菊池良(作家)/藤岡みなみ(エッセイスト/タイムトラベラー)

元々、芥川賞候補作を読んでお話する読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。

毎月テーマを決めて、1冊ずつ本を持ち寄りお話する、「マッドブックパーティ」。第二回のテーマは「いろんな意味で裏切られた本」です。みなさんはどんな本を思い浮かべますか?

今月も、おふたりの自由な読書会がスタートします。ぜひ皆さんも、参加してみてください。

 

読書会の様子を、音で聞く方はこちらから

*   *   *

藤岡:今回は「裏切られた本」っていうテーマでしたよね。

菊池:はい。「いろんな意味で裏切られた本」

藤岡:そうそう、「いろんな意味で裏切られた本」っていうテーマで今回も1冊ずつ持ち寄りました。よろしくお願いします。

菊池:よろしくお願いします。

藤岡:「裏切られた本」っていうテーマに決まって、例えばミステリーとかで、大どんでん返しのものを選ぶこともできるじゃないですか。

菊池:はい。

藤岡:でも私は「どんでん返しが最後にあるよ」って言われたくない派で。

菊池:わかります。

藤岡:そう言われると構えすぎてずっとそのことばっかり考えちゃって。どんなどんでん返しなんだろうとか、意外と思ったよりそうでもないなとか思って、あまり裏切られなかったりして。だからそういう意味で、ミステリーを持って来るのはちょっとリスクがあるなって思ったんですよ、今回。

菊池:確かに、ちょっとネタバレにもなっちゃいますしね。この後全部ひっくり返りますよって。

藤岡:そうそうそうそう。裏切ることが約束されているみたいな。なので、ちょっと 色々考えて本を持ってきました。

藤岡みなみさんの「いろんな意味で裏切られた本」:ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』(ちくま学芸文庫)

藤岡:今日はどうします? どっちから行きましょうか。

菊池:前回僕からだったんで、今回は藤岡さんからにしましょう。

藤岡:はい、そうしましょう。今回私が「いろんな意味で裏切られた本」ということで持ってきたのはこちら。ババン。読んでいない本について堂々と語る方法』ピエール・バイヤール著、大浦康介訳。ちくま学芸文庫の本です。これ、すごい面白い本なんです。

菊池:面白かったです。

藤岡:面白いですよね。まず、私がこの企画で『読んでいない本について堂々と語る方法』っていう本を紹介すること自体が、 読者に対する裏切りみたいなところありません?

菊池:そうですね。

藤岡:読書会の企画やってるのに、もしかして藤岡は、この間紹介した本もこれから紹介する本も、ちゃんと読んでないんじゃないかって思われそうな。

菊池:この本に書かれてることを使って、やってたんじゃないかっていう。

藤岡:そうそう、そう思われても仕方がないような本なんですけど。
この本、タイトルからするとちょっとふざけたというか、かなり軽いというか、舐めてるというか……、読んでいない本について堂々と語ることができたら嬉しいですよねっていう魅力もありつつ。だけど、実はこの本はすごく面白くて、読書に対する見え方がガラッと変わる本なんですよね。

菊池:確かにそうですよね。

藤岡:まず背景として、私たちが持ってる「読んでないと語っちゃいけない」という呪縛みたいなものがあるじゃないですか。例えば名作とかは、読んでないとちょっと恥ずかしいとか、読んでないってバレたくないとか。それが一般的でもあるし、特に先生とか専門家とか書評家になってくると、かなり緊張感が走るわけです。

菊池:そうですね。誰もが知ってる名作とかに、読んでないのに言及しなきゃいけない時の緊張感とか。

藤岡:そう、私も読んだふりしちゃったことありますもん。あまりに名作とかだと、なんかちょっと話を合わせるみたいな。で、すごく汗をかくんですけど。
ただこの著者は、読んでいないことを恥ずかしがる必要はないっていうふうに言うんですね。まず、読んでる状態と読んでない状態ってそんなに差がないよねって言うんですよ。大胆なことに。

菊池:うんうん。

藤岡:読んだとしても忘れるよねとか。でも確かにそれは本当にそうで、私も今回この本を10年ぶりぐらいに読んだんですけど、結構忘れてたし。だから、自分が読んだって思っても、どのぐらい読めてるかどうか、わかんないですよね。

菊池:そうですよね。その時の状況とかもありますし。

藤岡:だから、むしろそれだったら、読まない方がその本のことを客観的に語れるとまで言ってるんですね。相当大胆なんですけど。
本文中に図書館の司書の例が出てくるんですけど、 図書館の司書って、そこにある本を全部読むことはまずできないですよね。

菊池:うん。

藤岡:だったら、一部の本に肩入れしてしまうよりは、全部読まずに、その本がその分野においてどういう位置づけなのかっていうことだけを掴んでいる方が司書としてはいいんじゃないかみたいなこと言っていて。つまり、読まずにその本のことを客観的に理解する力っていうのも教養なんじゃないか。そういったことが書かれていますね。

菊池:うんうん。そうですね。

読者の下心に訴えかけるタイトル

藤岡:菊池さんはいかがですか? この本読んでみて。

菊池:さっきも藤岡さんがおっしゃってたように、読者の下心に訴えてる(笑)。タイトルがやっぱり、すごいインパクトありますよね。

藤岡:そうですよね。

菊池:『読んでいない本について堂々と語る方法』。この”堂々と”っていうところがすごくいいですよね。

藤岡:そうそう、いかに堂々と語るかっていうことが結構しっかり解説されてて、例えば、愛する人の前で、とかいろんな状況が示されていたり。堂々と語るには気遅れしないことが大事だ、 自分の考えを押し付けることが大事だ、内容をでっち上げることが大事だとか。あと、作者本人の前で喋んなきゃいけない時はどうすればいいかとか、すごいいろんなパターンがあって、ありがたいんですよ。

菊池:そうですね、実践的でもある。
このタイトルから受ける印象で、僕がここを裏切られたなって思うのは、もっとハウツー的な本かと思ったんですけど、読んでみると、文学とか本についての本ですよね。

藤岡:そうなんです。ちゃんとした本ですよね。

菊池:そうですね。いろんな古典の小説、筆者が読んでいない本についても言及して、昔の小説とかを出してきて、そこから読書とはなんなのかっていうことを考える本ですよね。

藤岡:そうなんです。菊池さん、さすが!と思ったのは、私が裏切りだと思ったところもそこで。ハウツー本に見せかけて、実は「読書とは何か」という、すごいしっかりした論文になっているんです。あとは教養コンプレックスからの解放とか、そういったことについて解いているすごい真面目な本っていうところが、いい意味で裏切りですよね。

菊池:うん、そうですね。下心で買って読んでみると、すごく価値観が変わるような本。点じゃなくて空間で捉えてるというか。この中にも「共有図書館」というワードが出てきますが……。

藤岡:そうそう、すごく面白いキーワードが出てきますよね。「共有図書館」とか、「内なる書物」とか、社会学的なワード。実際の本じゃなくて、その本にまつわる空間とかイメージっていうものについて人々は交換してるという。本の概念、読書の概念がめちゃめちゃひっくり返るような、 そんな一冊。

菊池本は孤立した存在じゃない、みたいなことが書かれてるところがあって、確かになって思いました。

藤岡:そうなんですよね。
しかもこの本、さっき菊池さんが話してくれたように、いろんな古典とか作品が引用されているじゃないですか。だから、なんならこの本一冊読んだ時点で、すごいたくさん語れる本が増えたともいえる。一部しか載ってないけど、語れそうになっているっていう。

菊池:あと面白いなって思ったのが、この本の中で他の本に言及した時に脚注がついてて、作者が実際に読んだかどうかが記号で書かれてる。

藤岡:しかも、「未、×」とか書いてあって、読んでないのに面白くないって評価していたり(笑)。だけど多分ですけど、半分冗談のところもあって、本なんか読まなくていいとか、尊重していないっていう人では決してないんですよね、この作者。

菊池:そうですね。読書についてすごい考えてるので。著者は大学教授の方なんですよね。それで、授業とかで知らない本にも言及しなきゃいけないから、この本を書いた。

藤岡:そうそう、もう実感がすごいこもってるというか、確かにそういう瞬間はすごい多いだろうし、すべてを読んでいたら無限に読まなきゃいけなくなっちゃうから。特に学生さんに教えるとなったら、その本が歴史の中でどういう位置なのかとか、他の本をどう批判してるかとか、そういった情報の方が大事なのかもしれない。

菊池:まさにそういった、ある本に対する位置付けとか周りの言葉とかも含めて、本なんじゃないかっていう本ですよね。

藤岡:そうなんです。これを読むと、すごい勇気も湧きますし、読まなきゃいけないっていう呪縛から解き放されつつ、もっと自由な読書を楽しめる。これからどんどんもっとたくさん読める。もっと読もうともなる、不思議な本。

菊池:いろんな価値転換が起こりますね、読んでて。

藤岡:はい。これもしかしたら、映画でも同じことが言えるかもしれないですよね。見てない名作映画について。だから、映画が好きな人にも応用できるかもしれない一冊です。

菊池さんにとっては「読んだことはあるけど、忘れてしまった本」だった⁉

菊池:読んだのは10年ぐらい前っておっしゃってましたけど、その時は本屋で出会ったんですか。

藤岡:いや、これはどうだったかちょっとあんまりはっきりと覚えてないんですけど、多分誰かが紹介してたんだと思いますね。これ実はすごい面白い本なんだ! みたいな。その情報と、やっぱりこのタイトルに惹かれて、そんな方法があるならと飛びついたのは事実ですよね。

菊池:当時、結構話題になってた気がしますね。

藤岡:そうですよね。2016年に文庫になったってことは、今2024年だから8年前か。文庫になった時にすごく話題になって、ネットにいろんな感想があふれたんですけど、あえてこの本自体を読まずに感想を書くみたいな、そういうギャグも流行ってたみたい。

菊池:このタイトルを実践するっていう。

藤岡:そうそう。「読んでないけどいい本です」とかいうコメントがあふれたっていう。

菊池:この本、タイトルのインパクトで覚えてて。僕、読んだ本の記録を全部つけてるんです。いつ何を読んだかっていうのを全部記録してるんですけど、その記録を見たら、この本もやっぱり読んでて。

藤岡:うん、うん。

菊池:でも、全く覚えてなかった。 この本にも分類がありますけど、「読んだことはあるが、忘れてしまった本」だったんです。

藤岡:そう、それは読んだと言えるのか。「読んだ」と「読んでない」って、すごく近いんじゃないかっていうね。なんと、まさにこの本の通りのことが、菊地さんの身に起こっていたとは。

菊池:そうなんです。読んでも内容を全く覚えてなかったんで。すごい不思議な経験です。

藤岡:本って、読んでいても誤解することもあるじゃないですか。主人公はこうなったって、本当はそんなこと書いてないのに、自分の中でそう思い込んじゃってるみたいなこともある。だから別に、細かいストーリーとかは間違ってても語っていいんだよ、みたいなことも書いてあったり。

菊池:うんうん、語ることを後ろめたく思わなくていい

藤岡:結構忘れますか? 菊池さんは。私は読んだ本のこと、めちゃめちゃ忘れるんですけど、菊池さんはどうですか?

菊池:はい、忘れます。でも読んだこと自体は忘れていても、読み直したら覚えてたりするんですけど、なぜかこの本に関してはそれが一切本当になくて、すごい新鮮な気持ちで読めて、面白い体験でした。この本の中に、読んでも忘れることについて書いてあるので。

藤岡:すごい、予言されてたみたいですね。でも多分、ピエール・バイアールさんは、忘れましたって言っても絶対に怒らないと思う

菊池:そうですね。

藤岡:というわけで私が紹介したのは、『読んでいない本について堂々と語る方法』でした。

*   *   *

菊池良さんの「いろんな意味で裏切られた本」は、次週7月18日(木)に公開! お楽しみに。

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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

菊池良さんと藤岡みなみさんが、毎月1回、テーマに沿ったおすすめ本を持ち寄る読書会、マッドブックパーティ。二人が自由に本についてお話している様子を、音と文章、両方で楽しめる連載です。

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菊池良 作家

1987年生まれ。「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」シリーズ(神田桂一氏との共著)は累計17万部を突破する大ヒットを記録。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』『芥川賞ぜんぶ読む』『タイム・スリップ芥川賞』『ニャタレー夫人の恋人』などがある。

藤岡みなみ エッセイスト/タイムトラベラー

1988年、兵庫県(淡路島)出身。上智大学総合人間科学部社会学科卒業。幼少期からインターネットでポエムを発表し、学生時代にZINEの制作を始める。時間SFと縄文時代が好きで、読書や遺跡巡りって現実にある時間旅行では? と思い、2019年にタイムトラベル専門書店utoutoを開始。文筆やラジオパーソナリティなどの活動のほか、ドキュメンタリー映画『タリナイ』(2018)、『keememej』(2021)のプロデューサーを務める。

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