都内有数の合格率を誇る進学塾VAMOSの経営をしながら、サッカーなどのスポーツ選手のマネジメントもしている富永雄輔さん。『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』などのベストセラーも持つ富永さんの、最新刊『AIに潰されない「頭のいい子」の育て方』では、親世代が陥りがちな「思い込み」を、片っ端から覆す!
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誰が、どんな職業が、不要になるのか
では、不要となるのはどんな人たちなのでしょう。
スーパーのレジ係をはじめとした、さまざまなサービス業の働き手が、すでに姿を消しつつあるのは前述したとおりです。
でも、彼らは「本丸」ではありません。本当にこれから淘汰されていくのは、平均よりも高い収入を手にしていたホワイトカラーです。
弁護士や税理士などの「士」業。
銀行や保険などの金融関係に勤める人たち。
企業で人事や経理、監査などに従事している人たち。
こうしたエリート層のホワイトカラーは、少なく見積もって800万円から1200万円くらいの年収を手にしています。
データを正確に分析したり、シビアな判断を下したりする能力が求められる職種だからこそ、高い給料を手にしてきたと言ってもいいでしょう。
しかし、「データを正確に分析し、シビアな判断を下す」というのは、AIが最も得意とする分野です。AIに「情」はいささかも絡みません。しかも、人間よりもAIのほうが、蓄積できる情報が遥かに多く、分析や判断のスピードも速く、さらにミスも格段に少ないとなれば、誰が高い給料を払ってホワイトカラーを必要とするでしょうか。
医師ですら例外ではありません。患者の主訴や検査データから、正しい病名や理想の治療法を探し当てるのはAIのほうが得意です。AIなら誤診もほぼないでしょう。私が病院経営者だったら、生身の医師だけに頼ることはしません。
現在、高給取りのホワイトカラーとして最も活躍し、高い地位にいるのは40代から50代です。彼ら自身の多くはチャットGPTも使いこなしていないため、自分が淘汰の渦中にいる実感を持てていません。あたかも台風の目の中は静かなように。
そして、「あれ?」と思ったときには、抗いようもない突風に吹き飛ばされてしまうのです。
VUCAの時代。親の認識次第で、子どもに格差が生まれる
私が経営している塾の子どもたちを見ていると、幼いなりに彼らは「変わりゆく世界」にしっかりついて行っています。特別な説明を受けるまでもなく、彼らにとって世の中はどんどん変化するのが当たり前であって、確実なものなどありません。
現に、今の時代についてVUCA(ブーカ)という言葉で語られるのを聞いたことのある人も多いでしょう。VUCAは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。変化が目まぐるしく、未来の予測が困難で、「正解」の見えない時代であることを、一言で表しています。
問題は親世代です。
世の中は変化することを理解しつつも、「だからこそ、変化に負けない確実な職業を」などと考えている人が多いのです。
とくに、50歳近くともなると、弁護士だったり、公認会計士だったり、大企業の役員クラスに上り詰めているような人だったりは、同窓会に行けば「確実な仕事に就いている成功者」として扱われているはずです。つまり、遠からずAIに淘汰されてしまう職業にもかかわらず、いまだに「価値のある仕事」と思っているし、思われているわけです。
しかし、確実な道を歩もうとすることは、これからの時代、崩れゆく崖を歩くのと同じで、リスク以外のなにものでもありません。
にもかかわらず、まだ30代であっても、そうした発想転換ができていない人がたくさん見受けられます。
彼らは、子どもたちが鋭い肌感覚で進もうとしているのに、その道を理解できず、自分の価値観の古さに気づかず、良かれと思って我が子をミスリードしてしまいます。
私の塾では、親子揃っての面談をよく行います。加えて、子ども本人とだけ話すこともあるし、親からの相談を受けることもあります。要するに、子どもたちの傾向と親たちの傾向の両方がわかっています。
そうした経験を通して強く感じるのは、「一部の“わかっている親”だけが、相当先を走っている」ということです。
大半の親は、我が子の将来どころか、今はそこそこ稼げている自分の数年後がとんでもないことになっている可能性についてさえも、大甘な認識しか持っていません。
一方で、かなり鋭い親はすでに動き始めており、結果的に、子どもたちに大きな格差がついてしまうだろうと思えるのです。
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【新刊】AIに潰されない「頭のいい子」の育て方
生成AIの台頭により、5年後には今ある職業の2割が消えると言われる。まず淘汰されるのは、ホワイトカラーの中のエリート層だ。そんな時代の「頭のよさ」とは何なのか。親は何を目指して子どもを育てればいいのか。「親自身の成功体験を忘れろ」「“一つを極めろ”より、“あれもこれも”の選択肢を」「いつも勝てる場より、競争を」など、親の価値観転換を迫る緊急提言とともに、「愛嬌がある」「負けた回数が多い」など、伸び伸びと強く生きていける子どもの特徴も解説。子どもの未来への不安を払拭する、きれいごと抜きの実践的子育て論。
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