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ゴルフは名言でうまくなる

2024.09.22 公開 ポスト

第309回

「ヘッドスピードを上げるには、インパクトのあとのヘッドスピードを上げるような気持ちで振ること」――金井清一岡上貞夫

風切り音とヘッドスピード

この言葉は、金井清一プロの著作『金井清一の50歳からうまくなるゴルフ』の中で、一般アマチュアからの「ヘッドスピードを上げる方法を教えてください」という質問に対し、答えている章に出てくる。

このように「インパクトの先のフォローでスピードが最大になるように振れ」という教えは、金井プロだけでなくあらゆるレッスンプロなども、レッスンの現場やレッスン書の中で説いている。

 

このため、多くのゴルファーは、素振りをするときに、インパクトのあとのフォローに入ったところで、シャフトがビュンと風切り音を鳴らすように意識して振っていたものである。

これは、インパクトでヘッドをボールに合わせて当てにいくようではヘッドスピードが出ないから、インパクトを通過点と考えて、一気に振り切ることがヘッドスピードを上げるには重要だという教えだ。これはこれで、確かに振り切るスウィングが身につくことで、ヘッドスピードを上げられるという点では正しい教えである。

しかし、私はかねてよりビュンという風切り音がフォローで鳴るということは、そこが最大のヘッドスピードなのではないか。そうだとすれば、そういうスウィングではインパクト時に最大のヘッドスピードに到達していないのではないか、という疑問を持っていた。

実際、ダウンスウィングではグリップよりもヘッドが遅れて降りてくるものだから、フォローで音を鳴らそうとすると、グリップがインパクトの位置を通り過ぎてからヘッドを追いつかせるようなタイミングにしないと、フォローで風切り音が鳴らない。これでは、振り遅れた状態でフェースが開いてインパクトしてしまうのだ。

「フォローで音が鳴るように振れ」という教えの罠

しかし、表題の言葉のような教えは、正論としてあまりにも広まっている。素振りをするとフォローでビュンと音が出ているプレーヤーを見ると、「インパクトの先で音が出ているから、いいねぇ」なんて、褒めてしまうのだ。結果、このプレーヤーはプッシュアウトやスライスばかりになる。

冷静になって物理法則を考えれば、ビュンと音が鳴るのが、フォローではなくインパクトのタイミングであれば、ヘッドスピードが最大になったところでインパクトできているはずである。当たり前といえば、当たり前の理屈ではないだろうか。

フォロースルーというのは、ボールを打ったあとのことだから、そこでいくらヘッドスピードが速くなろうが、ボールの飛距離にはなんの影響も与えられない。これも、当たり前の話なのである。

先日、2年ほど前にも一緒にラウンドしたことのある親子さん(父と息子)と再びラウンドする機会があった。息子さんは、学生時代に野球をやっていたとのことで、軽く振っているようでもヘッドスピードがあり、かなりの飛ばし屋だ。

その息子さんが、めでたく結婚するそうで、その日はフィアンセの女性とも一緒にラウンドした。その女性も、なかなかスピードのあるスウィングをしているのだが、やはりフォローで音が鳴る素振りをしていたのだった。

それで、義理のお父さんが「インパクトの先で音が出ているね、いい感じだよ」なんて言うものだから、案の定、振り遅れのスライスばかり打ってしまっていた。そのお父さんも息子さんもプロに指導してもらっているそうだから、ひょっとするとそのプロから表題の言葉のようなレッスンを受けていたのかもしれない。

私は、ラウンド中にレッスンすることは、求められない限りはやらないことにしているが、フィアンセさんのスウィングはとてもいいので、あまりにもったいないと思い、「振り遅れているから、少し早めにヘッドを返してみて」とワンポイントだけアドバイスしてみた。

すると、フィアンセさんはやはり運動神経のいい人だったようで、一発目からスライスが止まり、ドローボールになった。スウィングはできているから、インパクトにヘッドが戻るタイミングさえ合えば、すぐにいいボールが出たというわけだ。

お父さんのほうにも、「フォローで音が鳴るように振れ」という教えが誤解を生んでいることを説明した。インパクトで音が出るスウィングのほうが、最大のヘッドスピードでヒットできるということを理論的に伝えたが、「確かに、言われてみればその通りだ」と納得されていた。

身体とクラブの構造からスウィングを考える

では、どうすればインパクト時に風切り音が出て、ヘッドスピードを最大にできるかだが、これを体得するのは、実はなかなかに難しいのだ。

スウィングでは、腰が回転するほうが速くなりやすく、腕は長いからその回転に対し遅れやすい。クラブにも長さがあるから、ドライバーでは特に振り遅れやすくなり、シャフトはネック側に刺さっているからトウ側も遅れやすくなる。

つまり、プレーヤーの身体の構造も、クラブの構造も、すべて振り遅れになりやすくできているのだ。だから、ビギナーにクラブを持たせて打ってもらうと、最初は必ず振り遅れのインパクトになり、うまく当たったとしてもスライスにしかならないのである。

野球やテニスの経験がある人は、バットやラケットをコントロールする感覚があるから、この振り遅れを修正するのが上手い。先の息子さんも野球選手だったから、インパクトでヘッドスピードを最大にするカンに優れていた。

しかし、一般のゴルファーはどうしても振り遅れになりやすく、それを矯正することができないでいるものだ。だから、なかなかインパクトのところでビュンと音を出せない。

まず、イメージとしては、多くのゴルファーは前方(目標方向)へ向って振ろうという意識があると思うが、インパクトで音を鳴らすには下方(身体の正面)に向かって振るという意識にしたほうがいい。そして、インパクトではグリップエンドが自分の方を向き、シャフトと飛球線が直角になるイメージを意識したい。

とはいえ、自分ではそうしているつもりのゴルファーでも、まだまだ振り遅れていたりするのが実態だ。自分の感覚と実際のヘッドの戻りに誤差があるのだ。こういう人は、インパクト時にグリップエンドよりヘッドが先(目標方向)へ先行するぐらいのつもりでいいだろう。構造的に、振り遅れようとする力は、意外と大きいのだ。

タオル・ドリルでスウィング改良

このあたりの感覚を体得するのにいいドリルがあるので紹介しよう。俗に、タオル・ドリルと呼ばれるものだ。スポーツタオル(細長いタオル)の片側を結んでお団子にし、少し重くする。そのお団子と反対のほうを持って、できるだけ速くタオルのお団子を振るというものだ。

これを、「インパクトのあとのヘッドスピードを上げるような気持ち」で振ろうとすると、タオルを勢いよく、スピードを上げて振ることはできないことに気づくはずだ。つまり、普通に振り抜いてフィニッシュに至るようなスウィングではスピードが出ないのだ。

スピードを上げるには、トップから下の方へ向って、つまり重力の方向へ向って一気に振り下ろし、最下点のところで左手を止め右手が追い越していくようにすることだ。そうすると、フニャフニャのタオルでも、ブンっと音が鳴るぐらいスピードが出せる。むしろ、インパクト後のフォローやフィニッシュはなくてもいいのだ。

これは、布団叩きで干している布団を横から叩く動きにも似ている。手が先に出て布団に当たるようでは強く叩けない。布団に手が当たる寸前で止め、先の方のハート型の部分を走らせると強く叩ける。その動きだ。

このタオル・ドリルはトレーニングにもなり、ヘッドスピードが30m/秒台の人が40m/秒以上になったりもする。私も、一時期の背筋痛でサボッていたらヘッドスピードが41~2m/秒しか出なくなっていたが、このドリルをやり始めて45m/秒を超えるようになった。

インパクト時にタイミングよく効率的にヘッドスピードを最大にすることは、高齢ゴルファーがプレーのレベルを落とさないために、とても重要なファクターだ。筋トレやストレッチも効果があるが、筋力や柔軟性はどうしても老化で衰える。それよりもインパクトのタイミングで音を鳴らすような振り方をマスターすることは、すぐに効果が出るし、成果も大きいと私は思う。

歳をとったから飛距離が落ちて当たり前だとあきらめるのではなく、「工夫次第、努力次第でまだまだ飛ばせるぞっ」と老け込まないことが一番だ。

 

参考資料:
金井清一『金井清一の50歳からうまくなるゴルフ』主婦と生活社、1997年

フォローで“ビュン”と音が聞こえる素振りはNG!? 本当に飛距離が伸びる「クラブを振るべき方向」とは?」ゴルフのニューース、2024年9月13日

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岡上貞夫

1954年生まれ。千葉県在住。ゴルフエスプリ愛好家。フリーライター。鎌ヶ谷カントリークラブ会員。1977年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。大学入学時は学生運動による封鎖でキャンパスに入れず、時間を持て余して体育会ゴルフ部に入部。ゴルフの持つかすかな狂気にハマる。卒業後はサラリーマンになり、ほとんど練習できない月イチゴルファーだったが、レッスン書ではなくゴルフ名言集やゴルフの歴史、エスプリを書いたエッセイなどを好んで読んだことにより、40年以上シングルハンディを維持している。著書に『ゴルフは名言でうまくなる』『90を切るゴルフの名言33』(ともに幻冬舎新書)がある。

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