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5度のがんを生き延びる技術

2024.10.26 公開 ポスト

自由診療クリニックの高額治療にひそむ闇…「標準治療」こそが「最高」の治療高山知朗

「抗がん剤に頼らずがんが治るなら」「治療法がないと言われたがんでも治るのなら」……そんな思いで患者や患者家族が頼ってしまいがちなのが、自由診療クリニックの高額ながん治療です。
しかし、5度のがんを経験した高山知朗さんは「標準治療こそが最高の治療」だと断言します。
高山さんの最新刊『5度のがんを生き延びる技術 がん闘病はメンタルが9割』から抜粋して掲載します。

*   *   *

男性の医者がお金のハンドサインをしている

治療を否定したくなる気持ちと闘う

がんには辛い治療のイメージがあるので、「怖い手術や辛い抗がん剤治療を受けなくてもどこかにがんを治す秘策があるはず」と、現実から逃げたくなる気持ちも痛いほど分かります。

実際、「抗がん剤は効かない」「がんは放置するのがよい」などとがんの三大治療(手術、放射線治療、抗がん剤治療)を否定するような、患者にとって耳触りのよいキャッチーな極論をタイトルにした本もかつて話題になりました。

著者が大学病院の医師だったりすると、内容も信頼できそうに思えます。がんという過酷な現実を前にして、そうした安易な道に逃げたくなってしまうかもしれません。

 

でも「抗がん剤が効かない」のが本当なら、世の中から抗がん剤はなくなっているはずですし、放置でいいならがん治療そのものがなくなっているはずです。

これは、「抗がん剤が効かないがんもある」「焦って手術しなくても、放置(正確には経過観察)していればよいがんもある」という事実から、世間の注目を集めるために一部を切り抜いて極端に単純化して表現しているものと考えられます。

極論には注意が必要です。

自由診療クリニックの高額ながん治療の問題点

ネットを検索すると、「副作用の少ないがん治療」「ほぼ全てのがんに対応」「ステージ4でも諦めない」などの甘い言葉が並んだクリニックのページがたくさん見つかります。

そうしたクリニックは、「免疫  療法」「遺伝子  治療」などといった治療を、数十万円から数百万円もかかるような高額な自由診療として提供しています。

驚くほど高額ですが、有名大学や有名病院出身の医師が提供している場合もあり、期待してしまいそうになります。

聴診器と電卓とお金(札束)

しかし、本当にそれらの治療でがんが治るのであれば、その効果を裏づける十分なエビデンスがあるはずです。

そして臨床試験を経て保険適用となって、高額な自由診療ではなく、保険診療として、総合病院や大学病院を含めた多くの病院で提供されているはずです。

そうなっていないのは、有効性と安全性が確認されていないからです。「お金持ちだけが受けることができる最先端の秘密の治療」だからではありません。

 

全ての自由診療のクリニックを否定するつもりはありませんが、実際に、「治療」というより「医療ビジネス」として経営されている金儲け主義のクリニックもあるようですので注意が必要です。

「ちゃんとした医師がやっているから大丈夫」とは必ずしも言えない世界なのです。

 

かく言う私自身も、こうした自由診療のクリニックに関して2つほど苦い経験があります

約20年前に妹が乳がんで闘病していたときの話です。

妹のがんは肝臓にも脳にも転移してしまったため、国立がん研究センター中央病院の主治医から「もう積極的な治療の手段がないので、そろそろ地元でホスピスを探し始めたほうがいいです」と告げられました。

パソコンの前で手振りで話す医者

それまでに免疫細胞療法について調べていた私は「自由診療の免疫細胞療法などは効果がないのでしょうか?」と質問しました。

もちろん答えは「効果はありません」というものでした。

続けて「もし先生が妹と同じ立場になっても、自由診療のがん治療は受けませんか?」と質問しましたが、もちろん答えは「受けません」というものでした。

あまりにもきっぱりした回答だったこともあり、自由診療に期待することはやめました。

 

それでも、妹が治ることを諦めてホスピスを探すということは、私も妹の夫もどうしてもできず、治す方法がまだあるはずだと信じて、代替療法を提供する病院に妹を連れていったりしました。

しかし残念ながらしばらくの後、妹は天国に旅立ってしまいました。

 

また実は私自身、自由診療の漢方専門クリニックで高濃度ビタミンC点滴を受けた経験があります。

このクリニックにはがんの再発予防と帯状疱疹後神経痛の緩和を目的に行ったのですが、問診の後この高濃度ビタミンC点滴を勧められ、「なぜ漢方医がビタミンCの点滴を?」と思ったものの「がんにも痛みにも効くから」と言われ、半信半疑で点滴を受けました。

点滴 病院

会計のとき、点滴と私の症状に合わせて調合されたという1か月分の漢方薬で合計10万円を請求され、耳を疑ったのを覚えています。

高額で、なぜかピッタリ10万円。診療明細も何もないため内訳は分かりません。

このとき、治療内容も治療費の金額も、院長が患者の足元と懐具合を見て適当に決めていると確信し、そのクリニックでの治療はやめました。

あとで調べてみると、高濃度ビタミンC点滴は自由診療のクリニックの金儲けに使われる常套手段のようでした。

高くつきましたが、いい勉強になりました。

 

ちなみに治療費についての参考として書きますが、私は脳腫瘍の治療では標準治療としてがんの三大治療を2か月で全て受け、全部が保険診療で、自己負担額は合計で十数万円でした。

最先端の術中MRIを使った手術も含まれています。つまりこの手術も保険診療の範囲内です。

だから健康保険と高額療養費制度の恩恵を受けることができて、自己負担額は予想を大幅に下回りました。

会計のときに、漢方専門クリニックとは別の意味で「間違いではないか」と思ったほどです。

「標準治療」こそが「最高」の治療

私は脳腫瘍以外の4つのがんも、全て手術、放射線治療、抗がん剤治療のいずれかもしくは組み合わせによる標準治療を受けています。

がんを治すのに最も効果が高く副作用も少ないのが標準治療です。

世界中の病院で数多くの患者を対象とした臨床試験を通じて、その有効性と安全性が確認され、世界中の病院で提供されているのが「標準治療」です。

「標準」という名前を見ると、もっと「上級」の治療があるように感じるかもしれません。

お金持ちやセレブだけが受けることのできる「上級治療」が秘密裏に提供されているのではないか、と。

でもそんなものは存在しません。実際は「標準治療」こそが世界で「最高」「最善」の治療です。

がんを治すのに最も確実で安全な道なのです。

 

有名な話ですが、アップル創業者のスティーブ・ジョブズは膵臓がんが見つかったとき、病院での手術を拒絶し、代替療法(民間療法)に頼りました。

しかし徐々に健康状態は悪化し、最終的には手術を受けることになります。

本人はこの選択を後悔し、もっと早く手術を受けるべきだったと語っていたそうです。

 

病院での治療を拒絶しても、がんが消える秘策などどこにもありません。

がんという現実、そして標準治療が最善の治療だという科学的事実をしっかり受け入れて、病院での治療に臨むことが大切だと思います。

現実から目を逸らさずに、覚悟を決めて、標準治療でがんを治療していきましょう。

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関連書籍

高山知朗『5度のがんを生き延びる技術 がん闘病はメンタルが9割』

5年生存率2%の壁を突破!「折れないメンタル」をいかに作るか? がんを5回告知されても生き延びた著者。40歳で最初のがんになり、53歳の現在までに脳腫瘍、悪性リンパ腫、白血病、大腸がん、肺がんを乗り越えた。著者が5度のがん闘病で実践した、絶望を乗り越えるメンタルコントロール術を体系化して解説。闘病に不安を抱える人や患者を支える人、ストレス過多な現代を生きるすべての人の支えとなる一冊。

高山知朗『治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ』

40歳、脳腫瘍。42歳、白血病。5年生存率10%―― 徹底的に調べつくして2度のがんを生き延びた、IT社長のすごい方法。 30歳でIT企業を興して経営者となった著者は、猛烈に働いていた40歳の時に脳腫瘍、さらに42歳の時に白血病と、2回の異なるがんを経験した。本書では著者が2度の闘病経験から学んだ、病を生き抜くヒントを丁寧に解説。地元の病院にすべきか、東京の病院にすべきか? 民間療法を試してみるべきか? がん患者にはなんと声をかけたらよい? など、病に立ち向かい、克服するための賢い患者の知恵が満載。

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5度のがんを生き延びる技術

2024年10月9日発売の高山知朗著『5度のがんを生き延びる技術 がん闘病はメンタルが9割』の最新情報をお知らせします。

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高山知朗

1971年、長野県伊那市生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、Web関連ベンチャーを経て、2001年に30歳でITベンチャー企業の株式会社オーシャンブリッジを設立。11年、40歳で脳腫瘍(グリオーマ)を発症して手術を受け、腫瘍は全摘出されたものの視覚障害が残る。13年には悪性リンパ腫を発症し、約7か月間入院して抗がん剤治療を受け寛解に至るが、体力面の不安から17年に会社をM&Aで売却。その直後に急性骨髄性白血病を発症し、臍帯血移植を受けて約8か月の闘病の末に寛解に至る。20年には大腸がん(直腸がん)、24年には肺がんを告知されて手術を受ける。53歳の現在は、3か月ごとに検査のため通院しながら、妻と娘とともに自宅で元気に暮らす。

5度のがん闘病の記録をつづった「オーシャンブリッジ高山のブログ」は、がん患者とその家族から「勇気が湧いた」「希望の光が見えた」「冷静で客観的な文章で分かりやすい」と絶大な人気を誇る。著書に『治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ』(小社刊)がある。

オーシャンブリッジ高山のブログ http://www.oceanbridge.jp/taka/

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