元々、芥川賞候補作を読んでお話しする読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。
毎月テーマを決めて、一冊ずつ本を持ち寄りお話しする、「マッドブックパーティ」。第六回「読んでいて笑った本」の後編です。藤岡さん曰く「菊池さんらしいチョイス」という、菊池さんの選書とは?
読書会の様子を、音で聞く方はこちらから。
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菊池良の「読んでいて笑った本」:トーマス・トウェイツ著/村井理子訳『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮文庫)
菊池:僕が「読んでいて笑った本」で選んだのは、トーマス・トウェイツさんの『ゼロからトースターを作ってみた結果』っていう本です。
藤岡:これ、すごく菊池さんらしいチョイスだなって思いました。
菊池:あ、本当ですか(笑)。そうかもしれないですね。
もうタイトルに全部は内容が書かれてるんですけど、『ゼロからトースターを作ってみた結果』は、ゼロからトースターを作るっていうノンフィクションです。
藤岡:ね。びっくりしました。細かい部品とかも全部、再現する。
菊池:そうですね。主人公というか、作者のトーマス・トウェイツさんは美大生で、卒業制作としてトースターを作ってみようっていうチャレンジをするっていう本なんですけど、そのトースターを作るっていうのが、部品を手に入れて作ろうっていうレベルじゃなくて、鉄とかを鉱山とかから手に入れて、それを生成して作ろうっていう、本当にゼロから。
藤岡:全然ズルしないですよね。
菊池:うん、すごいですよね、
藤岡:本当に地球から自分が取り出せるかどうかっていうところからやってる。
菊池:そうなんですよね。買うとかじゃなくて個人で採ってくるっていう、チャレンジ企画の顛末を書いた本ですね。
最初に製品の、既存の普通に売ってるトースターを分解して、どういう構造になってるかっていうのを調べてから、それを1個ずつ調達して作っていくんですけど、その調達が壮大すぎる。いろんな鉱山とかに行って、そこで働いてる人に協力してもらって、鉄鉱石とかを手に入れてきて。
藤岡:しかも怖いもの知らずで、いきなり電話して「おたくの鉱山、掘っていいですか?」みたいな、そういう感じでいろんな人にお願いをしていく。大企業とかにもどんどんガンガンアプローチして、その勇敢さも面白いですよね。
菊池:そうですよね、どこまでやるんだっていう。専門家とかにも直接アポを取って、どうやったらトースターができるのかっていうのを聞いていくんですけど、結構呆れられたりね。
藤岡:そうそう。でも、全然へこたれない。
菊池:とにかく完成まで持ってくっていう。その過程がすごい面白いですよね。
藤岡:大冒険ですね。
菊池:トースターっていう身近にある道具が、こんなに世界中を駆け巡ってできあがってるものなんだってわかる。面白いんだけど、非常にためになる。
藤岡:勉強になる。
菊池:インターネットの記事とかで「○○やってみた」っていう……。
藤岡:やってみた! うん、やってみた系ですね。
菊池:やってみた系の記事って結構あるんですけど、それのすごいバージョンというか。
藤岡:そうですね、壮大バージョン。
菊池:普通だったらここまでやらないよなっていうのをやってて、すごい笑いましたね。
村井理子さんの翻訳手腕にも脱帽
藤岡:語り口調がユーモアにすごい溢れてて、現代的な言葉だったりもするんだけど、それって結構、翻訳してる村井理子さんの手腕があるのかなって。
菊池:そうですよね、普通に読んでも面白エッセイなんですよね。
藤岡:言葉遣いとか、自分で自分に突っ込んでる感じとか、茶目っ気とかがすごい溢れてて、読んでて声に出して笑っちゃう部分がありますね。
菊池:笑いのセンスが日本人の感覚に合ってるというか。そういうところはやっぱり翻訳で調整したんでしょうね。
藤岡:というのも私、今回の「読んでいて笑った本」というテーマで一瞬、村井理子さんのエッセイというか日記本をちょっと頭に思い浮かべたんですよ。
菊池:そうなんですね。
藤岡:結構最近出た本でまだ読み終わってないんですけど、『ある翻訳家の取り憑かれた日常』っていうこれもとっても面白い本で、368ページある分厚い本なんですけど。だからこの『ゼロからトースターを作ってみた結果』を見て、これも村井理子さんか! って自分の中で納得しました。
菊池:繋がりがあったんですね。
藤岡:やっぱ面白いよな、と思いながら。
菊池:そうなんですよね。笑って読んでたら、身近な道具のすごさに気づくというか、こんな高度な文明社会に生きてたんだなって気づくというか。
藤岡:いつも忘れて生きてるから。
菊池:そうですね。「いやでもそうだよな、鉄を取るのって鉱山とかに行かなきゃいけないんだよな」とか、そういうのを改めて笑いながら気づかせてくれる本ですね。
藤岡:どうしてもニッケルが手に入らなくて、カナダの記念硬貨を使うっていうのがあって、「でもこんなことしたら捕まるかもしれない」みたいな。そんなこと言いながら使ってて、どうなったのかめちゃめちゃ気になる……(笑)。
菊池:ここは……、どうなんでしょうね(笑)。
藤岡:「カナダに行かなければ捕まらない」って言って、コインを熱してワイヤーにしちゃってるんです。
菊池:うん、そうなんですよね。ここだけ裏技というか。
藤岡:どうしても手に入らなかったニッケル。
菊池:個人で調達するには限界もあったっていうことですよね。
結果としてトースター自体は完成して、そのトースターが表紙になってるんですけど……。
藤岡:ドロドロ(笑)。
菊池:見た目もすごいっていう。この結果もすごい面白かったですね。
藤岡:そうですね。実際使えるトースターができたんでしょうか? っていうのは、読んでみてからのお楽しみ。
菊池:そうですね。その過程がものすごく面白いんで。いっぱい写真もついてて。
藤岡:そうですね。
菊池:すごい楽しめる作品だと思います。
トースターの次のプロジェクトは、ヤギ⁉
菊池:トーマス・トウェイツさんは、この次にもう1冊書いてて、トースターじゃないやつを。トースターの次のプロジェクトとして、「ヤギになる」っていうのをやってます。
藤岡:なんでヤギ? なんでなんだろう。
菊池:それも同じ村井理子さんの訳で『人間をお休みしてヤギになってみた結果』っていう本になっていて、それもすごく面白いです。
藤岡:それも読みたくなりました。
菊池:ヤギって草食じゃないですか。だからヤギが食べてるものを人間が直接食べても消化がうまくできないみたいで、ヤギの消化器官をどう再現するかとか。
藤岡:え、できなくないですか? できるの……?
菊池:っていうのを、いろんな専門家に会いに行ったりして、どうやったらヤギになれるか検証するっていう本です。
藤岡:やりたくないですよね。すごいな。そんなモチベーションが保てないですよ。
菊池:本当ですよね。途中で諦めるか、そもそもヤギになろうって思わないですよね。そっちもおすすめですね。
藤岡:いやぁ、本ってありがたいですよね。自分では到底やろうともしない、やりたくないことを、誰かがやってくれてるのを、ありありと読むことができる。
菊池:ほんとそうですね。
藤岡:やってくれてありがとうっていう。
菊池:はい。宮田さんもいろんなところに行ったりしてて、それを書いたのを僕らは読めるっていう。
藤岡:そうそう。一緒に旅できる、一緒に冒険、 発見できる。発見の喜びは読むほうも一緒に得られますよね。
菊池:ほんとそうですよね。この『ゼロからトースターを作ってみた結果』は、9ヶ月かかってて、3060キロ移動してて、約15万円かかってるって書いてありました。
藤岡:え、もっとかかってそう……。
菊池:いや、全然かかってるでしょうね。
藤岡:旅費とかね、色々。
菊池:はい。あと、色々善意で手伝ってもらってる部分もあるんで、そういうところでこの金額になってるのかもしれないですね。
藤岡:そうですよね。これ、ブログでこの様子を公開してて、それで段々メディアとか企業からの注目もどんどん集まっていったっていう風に書いてありましたよね。
菊池:そう、最初はネットで書いてたら、どんどん注目されたっていうやつですね。
トーマス・トウェイツさんの、この続編のヤギのやつも結構前の本で、もう6年ぐらい確か経ってるんですけど、最近何してるかっていう情報が全然ウェブにはないんですよね。
藤岡:なんかしてますよ。多分。
菊池:だから、なんかすごいことを今やってて、今後発表されるかもしれないので、すごい楽しみです。
藤岡:楽しみですね。これからが楽しみ。
菊池:僕の「読んでいて笑った本」は、『ゼロからトースターを作ってみた結果』でした。
藤岡:はい。ありがとうございます。
菊池:ありがとうございました。
次回のテーマを決めましょう
藤岡:そして、次回のテーマですよね、また。
菊池:そうですね。
藤岡:なんかやりたいのありました?
菊池:「笑った本」の後ですよね。
藤岡:そう。私がなんとなくさっき思いついたのは、「元気が出る本」。
菊池:「読んだら元気が出る本」。
藤岡:そうそう。
菊池:いいですね。
藤岡:じゃあ、「読んだら元気が出る本」にしてみましょうか。
菊池:それにしましょう。
藤岡:はい。じゃあ次回は「読んだら元気が出る本」を持ち寄ってお話ししていきましょう。
菊池:ありがとうございました。
藤岡:ありがとうございました。
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次回は「読んだら元気が出る本」です。落ち込んだ時に読む本、あなたはありますか? 次回もお楽しみに!
菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ
菊池良さんと藤岡みなみさんが、毎月1回、テーマに沿ったおすすめ本を持ち寄る読書会、マッドブックパーティ。二人が自由に本についてお話している様子を、音と文章、両方で楽しめる連載です。