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防衛大流 最強のリーダー

2025.01.13 公開 ポスト

ダメなリーダーは「相対評価」「自己基準」で褒める 防衛大流・部下を褒めるコツ濱潟好古

過酷なアイロンがけで学んだ、「絶対評価」の重要性とは? 幹部自衛官を養成する日本最強の教育機関「防衛大学校」が教える、必ず結果を出すためのリーダーの哲学・所作を体系化した書籍『防衛大流 最強のリーダー』より、一部を抜粋してお届けします。

厳しさも優しさのうち、「絶対評価」でいけ

私は防衛大でいろいろな上級生から学ばせてもらった。中でもプレス(アイロンがけ)の合格点をなかなかくれなかった点検官のRさんには、「本当の優しさ」というものを学ばせてもらった。

Rさんは点検時に、どんなに小さなシワも、弱い折り目も見逃さない。Rさんの容儀点検に合格するのは至難の業だった。何度も「プレス不備」という不合格にされた。作業服の容儀点検は毎週日曜日の日夕点呼時に行われ、不合格になると翌日の月曜日から週末金曜日の間ずっと、合格するまで再点検が行われる。

あるとき事件が起こった。

私以外の同期は全員容儀点検を一発合格したが、私のみが不合格になった。点検官はRさんだった。翌日から、私1人でRさんの再点検を受け続けることになったが、毎日毎日、不合格。金曜日になれば再点検がいったんリセットされるので、私はひたすら金曜日が来ることを願った。金曜日になれば全てが解決する……。

しかし、そんな淡い願いはかなわなかった。待ちに待った金曜日当日、私はRさんから静かにこう告げられた。

「お前に関しては、来週も1週間再点検。俺は絶対評価しかしないから」

すぐには、この意味が飲み込めなかった。

来週もまたRさんの点検が続くと思うとげんなりした。とはいえ、手を抜くととんでもなく厳しく指導されることは目に見えていた。まずはひたすら容儀点検に合格するためだけにアイロンがけを行った。それしか選択肢はなかった。

 

「努力は実を結ぶ」ではないが、毎日毎日プレスを必死で行ったせいか、やっと最終日にRさんから合格をもらえた。そしてRさんは、

「プレスうまくなったな。やればできるんだよ。合格おめでとう」

と私に言ってくれた。2週間にわたった過酷なアイロンがけの苦労も、この言葉で吹っ飛んだ。本当にうれしかった。

 

Rさんの「絶対評価しかしない」とは、他の学生に比べてプレスがきれいかどうかなんて関係ない。シワ一つない、弱い折り目もない完璧にプレスされた作業服になって初めて合格だ、という意味だったのだ。私自身、Rさんに鍛えられたおかげで、その後プレスに関してはほとんど上級生から指導されなくなった。

反対に、ぬくぬくと育てられた学生たちのほとんどは、その後、容儀点検で一発合格をすることはほとんどなかった。

「褒める・叱る」の基準をあいまいにするな

絶対評価でしか褒めない」というRさんの教えは、一般企業に入ってからも常に意識した。

管理職になったときも、部下を評価するときは「絶対評価」しかしなかった。何よりも「絶対評価」は分かりやすい。そのときの気分や部下同士を比べて褒めたり叱ったりするようなことは絶対にしなかった。気分で褒めることなどリーダーの利己以外の何物でもない

つまり、比較・相対評価はしないということだ。

リーダーが「褒める・叱る」の基準をあいまいにすると、部下はリーダーの顔色をうかがいながら仕事をするようになる。結果的に組織としてのメリハリがなくなり、その組織の動きは止まってしまうだろう。組織としての動きが止まる、それはリーダーが何の仕事もしていないのと同じことだ。

絶対評価を行うときのポイントは次の2点だ。

  • 「確実にやれることを確実にやったときは全力で褒める」
  • 「自分たちで決めたことを確実にできたときは全力で褒める」

 

業績が上がっているか、下がっているかは関係なしに「確実にやれること」はある。

例えば、営業担当なら、毎月200件の電話をする、毎月30社の取引先にフォローの電話をするといった具合だ。「電話をする」ことなど時間の確保さえすれば誰でも確実にできることだ。私は、そのノルマも全て部下自身に決めてもらった。そして自分たちで決めたプロセスを確実に行えたときは全力で褒めた。

部下もやるべきことが目標に達していれば、褒められることは分かっているし、リーダーも部下がよくやったことに対して全力で褒めることができる。いたって単純明快だ。

部下も上司も何の不可解なことがない。明確なプロセスの絶対評価であるから、褒めるほうも、褒められるほうも、とても気分がいいものだ。何よりも分かりやすい。

リーダーは物理的な満足の前に、まずは精神的な満足を与えなければならない。その際の基本が「絶対評価」で褒めるということだ。

 

間違っても、他人と比べて「相対評価」で褒めたり、自分の気分に任せ、何となく「自己基準」で褒めたりしてはいけない。相対評価や自己基準で褒めても部下の「個」の力は上がらない。正確に言うと、一時的に上がったとしても半永久的に上がり続けることはない。どこかで必ず、リーダーと部下との間で不信が生まれる。

部下が自分たちで決めたプロセスを確実にできたときは褒めよう。リーダーが褒めるとそれは部下1人ひとりの自信にもつながる。

部下1人ひとりの自信の集合体が組織の強さとなる。そして、組織が強くなればなるほど、それはリーダー自身の自信へとつながるのだ。

*   *   *

この続きは書籍『防衛大流 最強のリーダー』でお楽しみください。

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濱潟好古

組織マネジメント・人材育成コンサルタント。株式会社ネクストミッション代表取締役。1982年生まれ。 防衛大学校卒業後、海上自衛隊幹部候補生学校を経てIT系ベンチャー企業に営業職として入社。入社2年目から5年目まで売上№1営業マン。6年目に営業部長に就任後は中堅、新人にかかわらず全ての営業担当に目標予算を達成させる。独立後は企業を対象に組織マネジメント、リーダー研修を行うほか、雑誌、ネットメディアで活躍。著書に『防衛大で学んだ無敵のチームマネジメント』(日本実業出版社)、『何があっても必ず結果を出す「防衛大」式最強の仕事』(あさ出版)がある。

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