現場を混乱させないために必要不可欠なのは「伝達力」。幹部自衛官を養成する日本最強の教育機関「防衛大学校」が教える、必ず結果を出すためのリーダーの哲学・所作を体系化した書籍『防衛大流 最強のリーダー』より、一部を抜粋してお届けします。
「伝える」と「伝わる」は違う
こちらが「伝えた」と思っていても相手に「伝わっていない」ことなど多々ある。
リーダーには特にこの「伝達力」が大切になる。リーダーの伝達一つで強力な組織にも非力でバラバラな組織にもなる。
組織の動きを加速させるも止めるも、それはリーダーの「伝達力」にかかっている。
D3佐から学んだ「相手に伝わらなければ意味がない」という考え方は、実際に自分が管理職になったときにも意識した。
チーム運営をするにあたって一番もったいないことは、部下とのミスコミュニケーションである。ミスコミュニケーションのせいで、本来ならうまくいくことが、うまくいかないことも往々にしてある。これは絶対に避けたい。
ミスコミュニケーションを防ぐために必要な3つのポイントを紹介する。
特殊なものではなく、誰でもすぐに実践できる。そして、リーダーは現場を混乱させないためにも、この3つは確実に押さえなければならない。
- (1) 自分で整理してから指示を出す
- (2) あいまいな表現はしない(5W2Hの徹底)
- (3) 部下にリピート発言をしてもらう
まず、自分の頭で考えない行き当たりばったりの指示は絶対に避けねばならない。この類の指示を出しているリーダーの組織がうまく機能しているのを今まで見たことがない。頭の中で整理してから指示を出す。これは指示を出す側としての大前提である。
次に、あいまいな表現は絶対にしてはいけない。ビジネスコミュニケーションの基本は5W2H(When、Where、Who、What、Why、How、How muchもしくはHow many)である。この5W2Hを度外視すると指示を出された側は混乱する。
現場からしてみると混乱は迷惑以外の何物でもない。
私が入社1年目のころ、上司と待ち合わせすることがあった。新橋駅の烏森口改札を出てすぐの場所での待ち合わせだった。ただ、人が多かったこともあり、上司がどこにいるのか見つからない。そもそも烏森口改札を出て「すぐ」という指示があいまいだ。改札を出て1メートルの場所なのか5メートル先の場所なのか、「すぐ」などという表現は人の肌感覚でどうにでも変わる。
結局、約束の時間になっても上司と合流できない。携帯電話で「今どちらですか」と聞くと、上司は「こっちこっち」と言う。今度は「こっち」というのがどちらなのかが分からない。最終的に会えたのは烏森口のみどりの窓口前だった。最初から「烏森口のみどりの窓口前」と指示を出してくれていたら余計に時間を使うこともなかったし、またこちらも指示をあおぐべきであった。
あいまいさを排除するということはとても大切である。そして、排除するために手っ取り早いのは数値表現である。
防衛大では、あいまい表現は絶対に許されなかった。書類やメールを出すときも、「明日の」という表現などは使わない。「明後日」や「昨日」といった表現も使わない。全て明確な日付で表現する。「2017年10月6日(金)の9時30分までに……」。そしてこの後にどこで誰が何を……といったことが続く。
数値表現できるところは全て数値化する。数値表現するだけでミスコミュニケーションを防げるのであれば、これほど便利なものはない。
3番目の「リピート発言をしてもらう」というのも本当に大切である。これは指示した内容が部下に本当に伝わっているかどうかをリーダー自身が確認するために使う。この確認を怠っているリーダーは意外に多い。
例えば、「10月6日(金)12時までに利益管理表を提出するように」と、部下に指示を出すとする。ここで大切なことは、指示を出して終わりにしないということだ。指示を出したらすかさず部下に「分かりました。10月6日(金)12時までに利益管理表を提出いたします」とリピート発言をさせる。これでフィックスとなる。
これは逆も然りである。部下からの依頼に対してはリーダーであるあなたもリピート発言をする必要がある。
「10月6日(金)の10時に打ち合わせをさせてほしいのですが……」
「10月6日(金)の10時に打ち合わせOK」
といった具合だ。
リピート発言は、混乱を事前に防ぐためにとても大切だ。たったひと手間なので、ぜひとも実践していただきたい。
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この続きは書籍『防衛大流 最強のリーダー』でお楽しみください。
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