「情報」の価値を高める「生きたマニュアル」の作り方とは……? 幹部自衛官を養成する日本最強の教育機関「防衛大学校」が教える、必ず結果を出すためのリーダーの哲学・所作を体系化した書籍『防衛大流 最強のリーダー』より、一部を抜粋してお届けします。
誰がやっても、リーダーがいなくとも
日本広しと言えど、防衛大ほど清掃が徹底されている組織はないかもしれない。
防衛大では1学年が、学生舎のトイレ、洗面所、応接室など、ローテーションで回しながら、ありとあらゆる所をピカピカに清掃する。手順は決まっており、清掃を終わらせる時間も決まっている。各清掃場所には2学年の「長」がいて、その監督の下、厳しいチェックを受ける。チェック項目を満たしていなければもちろん厳しい指導が待っている。
この清掃には「申し送りノート」と呼ばれるマニュアルがある。このマニュアルには清掃の手順、清掃に必要な清掃用具、そして何よりも「長」である上級生から指導指摘された内容をこと細かに漏れなく書き込む。そして、次の清掃担当者に完璧に申し送る。
そのマニュアルノートの通りに清掃すれば、誰がやっても同じようにピカピカになる仕組みがつくられているわけだが、場所によって手順やルールは違うので暗記するのは大変だった。
例えば、拭き掃除だ。拭き掃除には「下拭き」と「上拭き」の2種類がある。拭き方、順番なども違うが基本的には床と平行な部分は全てきれいに拭き取る。ほこり一つ残さない。何よりも厄介なのが「上拭き雑巾」だった。「上拭き」は常に新品同様の真っ白な雑巾を使わなければならない。
少しでも汚れていれば、即座に言われる。
「この雑巾で顔を拭け!」
そのため1学年は休日になると真っ白な雑巾を横須賀の100円ショップで大量購入していた。
掃除の終わりには「長」から、「上拭き雑巾が汚い」「動きが遅い」「ホコリを拾い忘れている」などのフィードバックがあり、それを全て「申し送りノート」に記載していく。
また、清掃の手順だけでなく、「タワシがもう一つ必要」と書き込んであったり、「窓ガラスは重点的に清掃する」と書き込んであったりする。ノートに書かれていなければ、「長」に言われたことを、次々と申し送りとして書き込んでいく。しっかりと申し送られていなければ、その際はもちろん申し送ったほうも申し送りを受けたほうも、双方が連帯責任で指導されることになる。
申し送りを書き留めることによって、マニュアルが日々更新されていく。蓄積されたマニュアルは「生きた情報」と言っても過言ではない。
この「申し送りノート」を使用すれば、誰がやっても、たとえ「長」が不在のときでも、同様の清掃の成果が出せる。全ての1学年が、指導されないために、今日1日を生き抜くために、この申し送りノートを必死で書いていた。
「マニュアル」「情報」の価値を高めていくために日々更新する
管理職になったばかりだというのに人の入れ替わりが激しく、困っていた私はこの「申し送りノート」の仕組みを利用した。1人ひとりに時間を取って細かなこと全てを教えている時間のゆとりがなく、いわば時短のためであった。「電話応対」「社内システム」「問い合わせ対応」など、様々なマニュアルを作成していった。
実際に私がつくったマニュアルを現場で使用してもらい、マニュアル通りではうまくいかない、このように改善したほうがいいというようなことを、誰でも思いついた人が「申し送り」として書き込んでいくようにしたのだ。
自分たちで感じたこと、改善したことも付け加えていったが、特に、お客さまから「褒められたこと」「指摘されたこと」「怒られたこと」などを日々付け加えていくようにした。ほしかったのはただの「取り扱い説明書」ではなく「生きたマニュアル」だった。
このマニュアルを使うようになり、徐々に仕事の成果が出始めた。
最初は情報共有の意味合いが大きかったが、既存のものの価値を高めていくことにみんなのベクトルが向くようになった。情報の価値も高められていくが、結局はマニュアルの価値そのものが高まっていった。
この「申し送りノート」をつくる前は、各メンバーにはお客さまの声を口頭で報告してもらっていた。ただ、口頭での報告では記憶に残らない。そのときは覚えているが、組織としてのノウハウはたまらない。何よりも報告をした者、報告を受けた者にしか共有されない。それでは、効果がさほどではない。全員が同じように成果を出すためには組織における情報共有とその整備が必要だ。
このようなこともあり防衛大時代の「申し送りノート」のようなマニュアルをつくった。
クレームも含めて現場のことがリアルに分かるようになったのである。
新人には最新の内容しか書いていない何月何日版という「マニュアル」を虎の巻として用意して、一番新しいところだけを見てもらう。
「情報共有・情報整備」のためのマニュアルは、「お客さまの声」を加えていった結果、「誰もが一定の成果を出すため」のマニュアルに変わっていった。
大切なことは誰でもある程度の一定の成果を出せる状況にするということだ。落ちこぼれなんてものは絶対につくらない。2対6対2の法則で言えば、下位2割は絶対につくり出さない。マインドが整っていれば、次は技術だ。技術はマニュアルで、ある程度どうにでもなる。この2つをしっかりと押さえれば、その組織で真ん中の6割には入れる。
いつの間にか部下たちは、自分たちで考え、上書き改善を行うようになる。
組織の空気は良くなった。そして、私自身も部下の管理がやりやすくなった。
そして、何よりもマニュアルを日々更新することによって、私がいなくても考え行動する部下が増えた。
生きたマニュアルは、自分の部下たちを組織の上位2割の人材に育てるために最低限必要なものなのだ。
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