
世界中で規制緩和が進んでいる「合法大麻ビジネス」。海外ではゴールドラッシュならぬ、「グリーンラッシュ」が起きていると言われています。「大麻特需」を前に、日本はこれからどうすればよいのか? 著書『あたらしい大麻入門』を上梓した、ノンフィクション作家の長吉秀夫さんに、大麻の未来についてうかがいました。
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疑問に思ったことはすぐに調べる
──『あたらしい大麻入門』の執筆にあたって、どのような取材や調査を行なったのですか?
過去からもう一度、調べ直すことにしました。改めて当たってみると、大麻取締法が制定されたときの記録って、ほとんど残っていないんですよ。
たとえば、大麻取締法には「所持罪」はあるのに「使用罪」がありません。大麻を持っていることがダメで、吸うのはかまわないというおかしなルールだったんです。
ということは、別の目的があったのではないかとも考えられるわけです。所持してはいけないということは、繊維として使うこともダメ、ということになりますから。
そこで改めて調べてみたのですが、長野で行なわれたある裁判で、厚生省の麻薬取締課長が証言台に立ったんです。その中で、大麻取締法の成立に関する記録は見当たらない、使用罪がなぜ生まれたかわからないと証言しているんです。
戦後のバタバタの中で生まれた法律なので、しかたがないのもわかりますが、どのような経緯で制定されたのか、ほとんどわかっていないんです。ですから今回の本では、いろんな人に会い、いろんな文献に当たって、そのことについてちゃんと書こうと思いました。
──情報をインプットをするときに、意識していることはありますか?
本や資料については、興味のある分野をとにかく乱読することですね。大麻なら大麻に関する本とその周辺の本を、図書館で20~30冊借りてきて、まず当たってみる。そんなことをつねにやっている感じです。
AIはあまり信用していません。ためしに使ってみることもあるのですが、間違った答えが出てくることがよくあるんです。少なくとも本を書くときは、一次情報に当たることが大事だと思います。AIが出した答えを真実だと思って、鵜呑みにするのは怖いですね。
それと、ふだんから意識しているのは、大麻に限らず、疑問に思ったことはすぐに調べることですね。スマホを持っていたら、その場でググる。そして、調べたことはノートに書きとめておきます。
疑問をそのままにすると、すぐ忘れてしまいますよね。だから、少しだけでもいいので、できるだけその場で調べる。調べた痕跡を残しておけば、あとで深く掘ることができますから。
──深く掘っていくときは、どんなことを意識していますか?
大麻の問題は、多岐にわたっています。なので、少なくともこの1年くらいは、大麻そのものより、周辺のことを調べることが多かったように思います。
医療のこと、経済のこと、国際情勢のこと。深く掘っていくと、「大麻とこんなふうにつながっていたんだ」と気づかされることがよくありました。
いろんなことで規制されたり、有効利用されたり、大麻は社会的な植物です。その意味では多面的で、題材としてすごく面白いなと改めて思いました。
誰もがベランダで育てることができる世界へ
──大麻の未来について、どんなことを期待していますか?
少なくとも僕は、規制が緩和されて、誰もがベランダで一鉢でも育てることができる世界になればいいと思っています。ただ、そこまで行くには、おそらくまだ10年、20年はかかるでしょうね。
あと、アメリカでは税金などのルールをきちんと決めたことで、ゴールドラッシュならぬ「グリーンラッシュ」が起きています。今、アメリカの大麻市場、および大麻関連市場は、全体で58兆円にものぼると言われています。ものすごく大きなマーケットができているんです。
それに対して、日本はこれからどうしていくのか。日本にはまだ、きちんとした大麻のマーケットがありません。本気で大麻ビジネスにコミットする人が現れてもいいと思うし、そうした環境をつくることが大事になるでしょう。
日本では大麻は悪いものだと思われているので、ビジネスをするにしても、研究をするにしても、どうしても大きな声で言えなかったりします。日本も海外のように、ビジネスも研究もちゃんとできるような、国際基準の環境になってほしいと思います。
──読者に向けて、最後にメッセージをいただけますか。
『あたらしい大麻入門』には、大麻に関する最新情報がわかりやすく載っています。大麻に興味を持ってくださった人は、とにかくこれを読んでもらえれば、ほとんどすべてのことがわかります。
今、世界中でさまざまなしくみが変化しています。大麻の合法化は、その中のひとつの現象だと思うんです。大麻というものを通じて、世界情勢や人々の価値観の変化を感じ取ることができると思うので、大麻に興味のない人にも、ぜひこの本を読んでもらえたらなと思います。
──前作『大麻入門』は、出版から時間が経っているため紙の本での入手は難しくなっていますが、電子書籍では販売しています。そちらと合わせて読んでいただくと、大麻の歴史も、最新情報も、すべて網羅できると思いますので、みなさんぜひチェックしてみてください。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】長吉秀夫と語る「『あたらしい大麻入門』から学ぶ大麻との新しい付き合い方」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』はこちら
書籍『あたらしい大麻入門』はこちら
武器になる教養30min.by 幻冬舎新書

AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
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番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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