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2024年12月の大麻取締法改正について、その経緯・詳細・改正内容をわかりやすく解説し、国内外の大麻最新事情をお伝えする幻冬舎新書『あたらしい大麻入門』(長吉秀夫・著)。
その「はじめに」を3回に分けてご紹介します。
いったいなにがダメなのか
大麻を規制する理由は、THCが有害であるということだ。では、THCは人体にとってどれくらい有害なのだろうか。
海外では研究が進み、THCには考えられていたほどの重篤な有害性はないというのが一般的な認識となっている。そのため、国連主導で規制の見直しがはじまり、欧米やタイなどでは有害性の程度に応じた規制緩和と、量刑の引き下げが行われている。
こうした国際的な大麻の規制緩和は、医療大麻の合法化と、THCによる公衆衛生への影響と量刑とのバランスの見直しが目的である。
薬物政策に厳しい姿勢をとってきたアメリカ連邦政府も、THCの有害性ランクを見直し、大麻で捕まったひとたちへの恩赦を行うと、バイデン大統領が発表している。
しかし前述の通り、日本ではTHCが人間に与える影響の研究は行われておらず、科学的なデータが不足している。日本の大麻問題の根本的な原因はここにある。
THCとはなにか?
ところで、ここまで何度も出てきているTHCとは何なのか、簡単に解説しておこう。
厚生労働省のホームページには、大麻とTHCの乱用によって、「知覚の変化」「学習能力の低下」「運動失調」「精神障害」「知能指数の低下」「薬物依存」などの心身への影響があると記載されている。
その原因となるのが、大麻の花穂や葉に含まれるTHCだ。「テトラ・ヒドロ・カンナビノール」の略称であり、大麻の主成分の一つである。
THCを吸引や経口摂取すると、「ハイ」と呼ばれる精神状態を引き起こす。いわゆる嗜好用の大麻にはなくてはならない成分だ。これが原因で、大麻は世界的に規制物質として扱われてきた。
その一方で、THCには以前考えられていたよりも有害性が低く、医療価値があることが、近年の研究で明らかになってきている。その結果、大麻に関する国際条約でTHCや「大麻」の規制基準が改正されたのである。
雰囲気に流されていく規制の強化
今回の法改正で、大麻の医療利用は合法化された。しかし、今までもあった所持罪に加えて、使用罪も適用された。さらに、5年以下だった懲役刑が7年以下に変更されたことで、旧法よりも厳しい規制となった。その目的は、大麻乱用の防止である。
海外の規制緩和のニュースや、THCや大麻の最新データは、インターネットをみればすぐに入手できる。そのことが、大麻の乱用に拍車をかけていると厚生労働省は主張する。しかし待ってほしい。どれくらい有害なのか明確な指標がないまま、法改正を行うことに、筆者は強い疑問を感じる。
今回の法改正には、裏付けとして採用された海外のデータはあるが、いくつもあるデータの中からなぜそれを選んだのか。その選択は妥当だったのか、そしてその根拠はどこにあるのか、いずれも判然としない。
THCの有害性について科学的な検討がほとんどなされずに規制を続けていくことに、問題はないのだろうか。
法律を守らないことは犯罪である。しかし、その法律の大前提が、もしも間違っていたら……?
「とにかく違法だから、大麻は絶対にダメ」というメッセージに懐疑的なひとたちの中には、「間違っているのは法律だから、大麻を使用してもいいのだ」と主張する者もいる。
筆者は、公衆衛生における大麻の影響を科学的に分析した上で、バランスの取れた量刑やルールにするべきだと考えている。
厚労省は、今後も研究を続けて、THCをどのように規制していくかを検討していく姿勢をみせている。規制する側もされる側も、これが初めての法改正である。今後、研究や議論を重ね、よりよい方向へとこの法律を修正していくことが大切だ。
大麻の問題は、命や人生に関わる問題でもある。
この問題を解決していくには、戦後どのように大麻規制が行われてきたのか、そして、どのように法改正がなされたのかを正しく知る必要がある。
実はこの本の出版は、大麻取締法改正案が国会を通過した2023年12月に決まった。しかし、THC残留限度値や検査・運用方法の準備に時間がかかり、法案通過から2024年12月の施行まで、1年を要した。
1948年に施行された大麻取締法は、戦後の混乱期に作られた法律だったこともあり、成立した経緯に不明点が多い。
今回、大麻取締法が75年ぶりに改正された。
この記録は是非とも残したい。そんな思いから関係者に取材を重ね、今回の法改正から施行までの1年間をつぶさに取材し、記録に留めるように留意した。
本書では、それらの経緯をなるべくわかりやすく書いていこうと思う。
それでは、75年ぶりに改正された法律の内容や文化的背景について、詳しく解説していこう。