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pha『持たない幸福論~働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない』をもう読んだ?

2015.06.28 公開 ポスト

後編

「普通」の縛りから抜け出せば、もっと楽に生きられるpha

 仕事のために自分の生活を犠牲にするのっておかしくない?
 家族を作ることだけが正しい生き方なの?
 いつもお金に追いかけられてる感じって変じゃない?

 京大卒・日本一有名な“ニート”として知られるphaさんが、こんな問いを投げかけて、新しい生き方を提案したのが、新刊『持たない幸福論~働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない~』。
 大学を卒業して「通っぽい路線」を選んだものの、ずっと違和感があったphaさんが会社を辞めたのは、28歳、2007年夏のこと。
 生計はどうやって立てたのか? 今のスタイルをどう築いていったのか? ニートになったphaさんが気づいたこと、大切にしていることのなかには、「生きるのがつらい人がたくさんいる世界」を「これまでの時代で一番自由な世界」に変えるヒントが、たくさん詰まっています。


◎好きなものが自分を支える

 会社を辞めた瞬間は本当にスッキリした。まあお金はあまりないし先行きもどうなるかは分からないんだけど、「みんな普通はそうしているものだから」と、自分でピンと来ない生き方に渋々従っているときに比べて、毎日自分自身で判断してやりたいようにできる生活のほうがずっと生きている実感があった。

 ニートになった僕はとりあえず、それまで暮らしていた関西を離れて全く住んだことのない東京へと上京した。ネットの知り合いやネットで見かける面白そうなイベントは大体全部東京に集まっていたからだ。東京でネットで知り合った人と遊んだりしていれば、無職でも全く孤独にはならなかった。何か欲しい物があるときはネットで「誰か自転車余ってませんか」とか「捨てる家具ありませんか」とか聞くと、親切な人が結構タダで譲ってくれた。広く探せば世の中には物はたくさん余っているものだ。あと、プログラミングで作ったサイトやブログに広告を貼ることで、ある程度の金銭収入も得られたりもした。

 そして、もともと僕は学生の頃に寮に住んでいて共同生活が好きだったので、また寮のような、ネット上だけではなくリアルで人が集まれる溜まり場を作りたいと思って、「ギークハウス」というパソコン好きやプログラマが集まるシェアハウスを立ち上げて、ネットで知り合った仲間と共同生活をするようになった。

 ちなみにちょっと話が逸れるけど「ニートがプログラミングを覚えて就職して社会復帰した」みたいな例は結構多くて、僕の知り合いだけでも十人くらいいる。プログラミングやコーディングなどのIT系のスキルは独学でも勉強できるし、人と話すのは苦手だけどもくもくとパソコンに向かい続けるのは好きだという人は結構いる。ひたすらコツコツと作業する職人的な仕事なので、ちょっと変人でも技術があればそれなりに働ける。IT系、特にウェブ系は若い業界で小さい会社が多いから経歴がなくても潜り込みやすいし求人も多い。という感じで、人によって向き不向きはあるけど、ニートがプログラミングなどのIT系スキルを身に付けるのは結構お勧めだ。まあIT系以外でも、料理でもデザインでもマッサージでもなんでもいいから、自分が好きなことの延長線上でなんかちょっと人の役に立てるようなスキルを身に付けておくと、今いる場所と別の場所に行っても受け入れてもらいやすくなって、社会の中での動きやすさが少し上がるので良いと思う。

 そんなこんなで僕は毎日昼過ぎに起きるようなふらふらした生活を始めてから八年経つんだけど、生活費をどうしているかというと、ブログを書いたりサイトを作ったりとか、古本やデジタル機器を安く手に入れてネットで売ったりとか、ときどき文章を書いて原稿料をもらったりとか、そんな感じでなんとかしのいでいる。できるだけ働きたくないので、仕事を頑張っているというよりは趣味の延長でちょこちょこと小銭稼ぎをやっているという感じだ。そんなゆるい感じでやっているとやっぱりあまりお金は入ってこなくて、大体毎年の収入は百万円前後くらいだろうか。日本の中では低収入なほうだろう。

 でもまあお金はあまりないけど、最低限生きてはいけるし、好きなことをやっていれば毎日は楽だし、仲間がいればわりと楽しいし、お金がなくてもちょっと工夫をすれば毎日の中で面白いことがたくさんできると思っている。

 例えば、暇潰し用のコンテンツなら今はネットや図書館や古本屋でいくらでも安価に手に入るし、寂しくなったらネットの知り合いと適当にチャットをしたり、ときどきはオフ会的に集まったりとかすればいい。シェアハウスに住んでいると家賃も安く済むし、人を集めて宴会とかもやりやすい。他にも、最近は和歌山県の山奥に家賃が月五千円の古民家を友達と共同で借りてときどき遊びにいくシェア別荘にしたりとか、そんな感じでお金がなくても楽しめることはいくらでもあると思っている。

 会社や家族に属さなくても、インターネットやシェアハウスでゆるく仲間を作っていれば、孤独にならずにわりと楽しく暮らしていける。あんまりお金がなくても、毎日好きなだけ眠ってのんびりと目を覚まして、天気のいい昼間に外をぶらぶら散歩したりしていれば十分幸せな気がする。

 会社や家族やお金に頼らなくても、仲間や友達や知り合いが多ければわりと豊かに暮らしていけるんじゃないだろうか。生きていく上で大事なのは他者との繋がりを保ち続けることや社会の中に自分の居場所を確保することで、仕事や会社や家族やお金はその繋がりを持つためのツールの一つに過ぎない。いわゆる「普通」とされている生き方以外にも、世界には生き方はいくらでもある。

 ただまあ、働くことや稼ぐことにとらわれすぎても良くないけど、逆に働かないことに固執しすぎるのも良くないだろう。ニートでふらふらしている状態も一時的ならいいものだけど、ずっとそこから抜け出せなくなるとつらい。多分理想的なのは、会社員を数十年間ずっと続けるのでもなくニートを数十年間ずっと続けるのでもなく、その中間くらいで流動的に、状況に合わせてあっちに行ったりこっちに来たりできるような感じだ。

 昔の日本では仕事に自分の時間の大半を捧げることが理想とされていたけれど、その厳しさがニートやひきこもりなどの脱落者を生んだり、出産や育児など家庭のことと仕事のキャリアとを両立させるのが難しくて少子化や晩婚化を引き起こしたりしてきた。今は終身雇用で何十年も雇われるのを目指す時代でもないし、家庭を持てばその中で何十年もずっと安定が続くと安心できる時代でもない。だから、仕事がしんどくなったら数カ月や数年しばらく休んだりとか、元気が出たらまた社会に出て働いたりとか、暮らす相手も状況に応じて柔軟に組み替えていったりとか、そういうのを流動的に選べるような生き方がこれからは必要とされているのだと思う。

 

◎知識は人を自由にする

 僕が何故本やブログを書いているかというと「知識は人を自由にする」と思っているからだ。

 僕は小さい頃から毎日学校に行ったり会社に勤めたりする生き方に違和感を抱いていたけど、そういうことを周りの人に言っても「何言ってんだ?」みたいな感じで理解してもらえなかった。だから「自分のほうが間違っているんじゃないか?」「自分がだめなだけじゃないか?」という不安がずっとあった。

 でも成長するにつれていろんな本を読んだりしていくと、「今の世の中のメインになっている価値観は絶対的なものじゃなくて、それはここ何十年かで出てきた一時的なものに過ぎない」「世界にはもっといろんな価値観や生き方がある」ということを知ることができて、そうすると「会社や学校に違和感を持つ自分の生き方もまあありなんじゃないか」という風に、自分の生き方にある程度自信を持てるようになった。

 本というのは「自分がぼんやりと気づきかけていることをはっきりと言葉にして教えてくれるもの」だ。本を読んで知識を得ることで、頭の中が整理されたり、考え方の選択肢を増やすことができたり、自分の周りの世界で当たり前とされていることを相対化して見ることができるようになったりする。本を読むことで僕は生きるのが楽になった。

 周りにいる人たちとの生活だけでそれほど違和感を覚えないのならわざわざ本を読む必要はないけれど、自分の考えていることを分かってくれる人が周りにいないようなとき、遠くにいる顔も知らない誰かが書いた文字列が自分を支えてくれることがある。

 別にこの本を読んだ人みんなが、僕みたいに会社を辞めてニートになったりとか友達とシェアハウスで暮らしたりとか都会と田舎を往復したりとかをすればいいと思っているわけじゃない。僕の例は極端な例だから多分万人に勧められるものではないし、人によってそれぞれ向いている生き方は違うし、なんだかんだ言っても社会の多数派に合わせてるほうが楽なことも多いからだ。

 ただ、「こんな生き方やこんな考え方もありなんだ」という選択肢の多さを紹介することで、この社会に漂っている「人間はこう生きるべきだ」という規範意識のプレッシャーを少し弱らせて、みんなが自分自身の生き方にも他人の生き方にも少しだけ寛容になって、生きることの窮屈さが少しマシになればいいなと思いこの本を書いた。

 一昔前の社会だったら「会社と家族を大切にして生きるのが幸せな人生だ」(さらに昔だったら「イエとムラを大切にして生きるのが幸せな人生だ」)みたいな大きな頼るべき価値観があって、それに従って大人しく真面目にやっていれば、誰でも最低限は食わせてもらうことができた。でも今は社会状況が変わってしまって、会社も家族もイエもムラも、完全になくなったわけじゃないけれど、人の生き方を包括的に支えてくれるような強い力を失ってしまった。だから今は大きな価値観に頼るのではなくて自分の頭で一つひとつのことを考えて生き方を設計していかないといけなくなった。

 そんな状況の中でそれぞれの人が自分に合った新しい生き方を考えるためのサンプルとして、僕や僕の友人の生き方や僕が本で読んだいろんな考え方などをこの本では紹介していきたいと思っている。

 

◎今は今までで一番自由な時代

「生きるのがつらい人が多い時代だ」ということを最初に書いたけれど、僕はそれと同時に「今は今までの歴史の中で一番なんでもできる自由な時代だ」ということも思っている。

 例えば、僕や僕の友達がやってるような「会社を辞めて昼間からふらふらしている」とか「シェアハウスで友達と共同生活をしている」とか「都会から田舎の山奥に移住する」とかそういうのって、三十年前の社会だと「すごく変な人」「何か宗教でもやってるんじゃないか」「警察に通報したほうがいいんじゃないか」などと疑われて怪しまれるような感じだった。

 それが今だと、まだまだ「普通」と見られるわけじゃないけど、「変な人だけど、まあそういう人もいるよね」くらいの感じに少しずつなりつつある。それは「人はみんなこう生きるべき」というメインの価値観の力が弱まって、価値観が多様化しつつあるからだ。

 まあ、今でも多少変人として白い目で見られるのは仕方ない。世の中の大勢の価値観というものはそんなに一気には変わらない。特に年をとった人間の考え方は変わりにくい。でも古い価値観を持った世代はこれからどんどん死んでいく。今いる年配の人間は、十年後、二十年後には死ぬか老いるかして少しずつ社会から退場していく。

 世の中は「三歩進んで二歩戻る」くらいの感じで少しずつしか変わらないけど、確実に少しずつは変わっていく。時間はかかるかもしれないけど、ニートやシェアハウスやボランティアやシングルマザーや地方移住や専業主夫や同性婚など、今は「一部の変人」がやるものとされている少数派の生き方が、少しずつ「ちょっと変わってるけどそういう人もいるよね」というレベルの認識になっていくはずだ。

 多少変な人だと周りから見られるのさえ気にしなければ(そもそも違う価値観の人の目なんて気にしなくていい)、今は今までで一番なんでもいろいろ自由にやりやすい時代だと思う。なんだかんだ言っても日本は物はたくさんあるし、各種の文化や娯楽もレベルが高いし、食べ物も美味しいし、治安もいいしインフラも整備されている。インターネットの発達で、個人が情報を発信したり友達とこまめに連絡を取ったりとかも昔より全然やりやすくなった。

 今の社会は生きるのに必要な物資や技術といったハードウェアは既にかなりなレベルで整っているから、あとは「どういう風に生きるか」というソフトウェアさえうまくインストールできれば、もっと伸び伸びと楽しく生きられるはずだ。そうした新しい生き方を考えるヒントとして、この本が役立てばいいなと思う。

 

*仕事、家族、お金についてのphaさんの考え方、さらにphaさん流居場所の作り方については、ぜひ本書をどうぞ。
 また本書の一部は「cakes」でもお楽しみいただけます。

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pha

1978年生まれ。大阪府出身。京都大学卒業後、就職したものの働きたくなくて社内ニートになる。2007年に退職して上京。定職につかず「ニート」を名乗りつつ、ネットの仲間を集めてシェアハウスを作る。2019年にシェアハウスを解散して、一人暮らしに。著書は『持たない幸福論』『がんばらない練習』『どこでもいいからどこかへ行きたい』(いずれも幻冬舎)、『しないことリスト』(大和書房)、『人生の土台となる読書 』(ダイヤモンド社)など多数。現在は、文筆活動を行いながら、東京・高円寺の書店、蟹ブックスでスタッフとして勤務している。Xアカウント:@pha

 

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