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知られざる北斎

2017.12.20 公開 ポスト

伊藤博文に「民間外交官」と称された、林忠正の業績神山典士

いま、改めて葛飾北斎が世界中から注目を集めています。
テレビではたくさんの特集が組まれ、すみだ北斎美術館や小布施の北斎館には、近年まれに見る大勢の人が押し寄せています。さらに、ロンドン大英博物館15万人、阿倍野ハルカス26万人、国立西洋美術館で開催中の北斎とジャポニズム展も連日大盛況と、その勢いは日本にとどまらない世界規模のものです。
北斎が「世界の北斎」となりえた背景には何があったのか。ノンフィクション作家・神山
典士氏が北斎の謎に挑戦。来年春発売予定『知られざる北斎』の執筆模様を一足先にお伝えします。

知られざる北斎』の製作に参加できる!クラウドファンディング企画も進行中です。

休日は3時間待ちにもなった、あべのハルカス美術館「北斎展」

北斎に夢中になっているノンフィクション作家・神山典士です。

「林忠正は無名ですか?19世紀ヨーロッパ美術とは切っても切れない巨星です。ジャポニスムを牽引した人物の一人で、印象派からアール・ヌーヴォーまで大きな影響を与えました。印象派や後期印象派の画家たちの研究をしていると、林忠正が当時どんな浮世絵をフランスで展示販売していたかが重要な背景になったりします。私たちの頃は直接、展覧会リストを手に取る事ができなかったので、フランスの美術研究誌で見たりしました。林忠正についてはお孫さんが本を書いてます」

前回の投稿に、読者の方からこんなメールをいただきました。
ありがとうございます。この方は芸術大学で美術史を学ばれたのでしょうね。

おっしゃる通り忠正は、「知ってる人は知っている、でも知らない人は全く知らない」という存在。国立西洋美術館が松方コレクションから派生したということは比較的知られていても、忠正のことは全く聞いたことないというのが一般の感覚だと思います。ましてオルセー美術館の59番ルームに行く人は皆無、、、、ではないでしょうか。あの美術館に日本人の作品があるということすら、ぼくのパリの友人たちでもしりませんでした。

忠正はただ日本美術品や浮世絵を販売していたわけではありません。ジャポニズムに沸くフランス、いやヨーロッパに向けて、日本の美術史、日本の歴史風土、日本人の気質というものを、極めて詳細に正確に伝えた人でもあります。

たとえば「イリュストレ」という雑誌の日本美術特集や、1900年 万博の日本館にできた古美術館、その後発行された「日本時美術史」等々。忠正は美術商としてよりも、美術評論家、美術史家として、西洋人に対して日本の美術のなんたるかを説きました。

さらに日本人に対しては「このまま放置していたら日本の浮世絵はすべて海外に流出してしまうぞ」と諭したり、政府に対しては「芸術を国家戦略にするのが列強のやりかた」といった警告も発しています。
伊藤博文は忠正のことを、「民間外交官」と呼んでいたとか。忠正の最晩年に生まれた娘には、自分の名前をとって「文子」と命名してもいます。

つまりパリの邦人が20数名しかいなかった明治初期から、約30年間もその地に留まって日本のために尽くした忠正のことは、もっと評価されていい。その業績をもっときちんと伝えたい。彼の存在こそが、北斎を北斎たらしめた原動力でもあったのだから。

そんな思いでこれから執筆に取りかかります。

関連書籍

神山典士『知られざる北斎』

モネ、ゴッホはなぜ北斎に魅せられたのか? いまなぜ、北斎なのか? 天才画商・林忠正と、小布施の豪商・高井鴻山から日本人だけが知らない真実を解く、圧巻のノンフィクション! 葛飾北斎(1760〜1849)。西洋ではダ・ヴィンチと並び称される19世紀最大の画家であり、モネ・ゴッホなど芸術家へ与えた影響も大きい。しかし日本では「子どもの鼻ふき紙」だった北斎(浮世絵)が、なぜ西洋でここまで価値が上がったのか。そこには資本主義の光と闇があった。そして北斎が晩年のアトリエとした長野県小布施には何があったのか? 林忠正と高井鴻山、二人の男から「いまなぜ北斎なのか」を解く革新的ノンフィクション!

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知られざる北斎

長澤まさみさんが主演する映画『おーい、応為』が話題です。
モネ、ゴッホを魅了し、西洋で「東洋のダ・ヴィンチ」と称された葛飾北斎。
その名を世界に広めた画商・林忠正、そして晩年を支えた小布施の豪商・髙井鴻山。芸術と資本、江戸と西洋が交錯する中で創作に生きた画家の生涯を描いた書籍『知られざる北斎』もあわせてお楽しみください。本書から一部を抜粋してお届けします。

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神山典士

ノンフィクション作家。1960年埼玉県入間市生まれ。信州大学人文学部卒業。96年『ライオンの夢、コンデ・コマ=前田光世伝』にて第三回小学館ノンフィクション賞優秀賞受賞。2012年度『ピアノはともだち、奇跡のピアニスト辻井伸行の秘密』が青少年読書感想文全国コンクール課題図書選定。14年「佐村河内守事件」報道により、第45回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)受賞。「異文化」「表現者」「アウトロー」をテーマに、様々なジャンルの主人公を追い続けている。

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