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言ってはいけない宇宙論

2018.02.28 公開 ポスト

『言ってはいけない宇宙論』その4

カミオカンデに世界が驚愕!ニュートリノ天文学はこうして生まれた小谷太郎

  2つのノーベル物理学賞に寄与した素粒子実験装置カミオカンデが、実は当初の目的「陽子崩壊の観測」を果たせていないのはなぜ? 元NASA研究員の小谷太郎氏が物理学の未解決問題をやさしく解説した『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』が発売1週間で重版となり、反響を呼んでいます。

 タブー1「陽子崩壊説」を紹介する連載第4回。「もしかして壊れてるのでは?」と疑いをもたれていたカミオカンデ。しかしデータの正しさを証明する信号が宇宙からやってきたのです。

iStock.com/ClaudioVentrella

前回の記事はこちら

 

超新星1987A

カミオカンデのデータに世界が驚愕

 今から16万年前、大マゼラン星雲に属する星が一つ、超新星爆発を起こして吹き飛びました。

 超新星爆発とは、質量の大きな恒星が寿命の最期に起こす、宇宙最大規模の爆発です。その明るさは太陽の100億倍にもなります。略して単に「超新星」と呼ぶこともあります。超新星爆発は恒星の最期ですが、同時に、中性子星という特異な星の誕生でもあります。

 質量の大きな恒星は、核融合反応で輝くうちに、核融合反応を起こさない元素である鉄を中心部に溜めていきます。溜まった鉄の塊は、限界量を超えると、一気にくしゃっと潰れ、超高密度物質に変化します。恒星中心部の鉄の塊が超高密度物質に変化する際、その衝撃で、恒星の外層は爆発的に宇宙空間に弾け飛びます。これが(重力崩壊型)超新星爆発のメカニズムです。

 爆発後には、超高密度物質がポツンと残されます。私たちの太陽よりも質量が大きく、半径が10キロメートルほどしかないこの超高密度物質は、中性子星と呼ばれます。(中性子星がさらに潰れてブラック・ホールになる場合もあります。)

 さて16万年前の超新星爆発は、大量の熱と光と、それからニュートリノを放出しました。鉄の塊が潰れて超高密度物質に変化する反応は、ニュートリノを生成するのです。

 光とニュートリノは(ほぼ)光速で宇宙空間に広がっていき、16万年かけて地球に到達しました。

 光のうちごくわずかな割合が、たまたま大マゼラン星雲に向けられていた望遠鏡に飛び込み、焦点面のフィルムを感光させ、あるいは接眼レンズを覗いていた人間の眼に入って視細胞を刺激し、大マゼラン星雲の異変を知らせました。1987年2月23日(協定世界時)、科学史に残る晩のことです。

 大マゼラン星雲の16万年前の超新星爆発は、ただちに人間(のうち天文学者や天文ファンと呼ばれる人種)の間に知れ渡ることになり、「超新星1987A」と名づけられました。

 16万光年離れている大マゼラン星雲は、広大な宇宙のスケールからすると、ごく近くです。宇宙的には裏庭といっていいくらいです。そういう裏庭で超新星が爆発するのは、50年~100年に1度くらいの珍しい出来事で、天文学者にとっては生涯に出会えるか出会えないかという幸運です。

 そしてこの100年は、観測装置が目覚ましく進歩を遂げた100年です。巨大な光学望遠鏡、電波望遠鏡、人工衛星に搭載されたX線望遠鏡などの最新観測装置の群れが、この100年に1度のチャンスを待っていたのです。たちまちあらゆる観測装置が1987Aに突きつけられ、データを貪欲に取り始めました。(ただし大マゼラン星雲は南天にあるので、北半球の天文台は観測できないものも多いです。)

 そしてそういう観測装置の中でも最も風変わりな部類である、地下1キロメートルに設置されたカミオカンデのデータを調べたところ、2月23日7時35分35秒から13秒にわたって、11個~12個のニュートリノが大マゼラン星雲から飛来し、水タンク内で反応したことが記録されていました。

 世界中を驚愕させた大発見です。

ニュートリノ天文学の誕生

 遠くのものであれ、近隣であれ、これまで超新星の観測は、可視光や電波など、電磁波で行なわれていました。超新星に限らず、ほぼ全ての天体現象は、電磁波を用いて研究されてきました。それがニュートリノという、電磁波とは異なる素粒子を用いて、超新星爆発を初めて捉えたのだから、このことがまず第一に人々を驚かせました。

 カミオカンデは、超新星爆発が7時35分35秒(の16万年前)に起きたことを明らかにしました。これは可視光などの望遠鏡では逆立ちしても得られない情報です。電磁波の望遠鏡は、超新星爆発の外層を見ているのに対し、ニュートリノはその奥の、爆発の中心の超高密度物質から放射されているためです。ニュートリノを観測することにより、電磁波ではとても得られない爆発の中心が手にとるようにわかるのです。これが第二の驚きです。

 ニュートリノの検出は、(重力崩壊型)超新星爆発が本当に中性子星の形成で起きることを証明しました。中性子星形成が超新星爆発を引き起こすことは、理論的には正しいと思われていましたが、観測によって証明することは困難でした。しかし超新星1987Aは、このメカニズムを異論の余地なく証明したのです。

 カミオカンデは、超新星1987Aという天体現象をニュートリノで直接観測し、中性子星形成の物理を明らかにしました。

 これはもうニュートリノ天文学が始まったといっていいでしょう。カミオカンデはニュートリノ望遠鏡です。

 

(つづく)

元NASA研究員の小谷太郎氏が物理学の未解決問題をやさしく解説した『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』好評発売中!

次回は3月3日(土)公開予定です。

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言ってはいけない宇宙論

2018年1月刊行『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』の最新情報をお知らせします。

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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