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それでも猫は出かけていく

2018.03.19 公開 ポスト

予想外です! 思想家・吉本隆明氏の家に集う猫の話 その10ハルノ宵子

思想家・吉本隆明氏の家に集う猫と人の、しなやかでしたたかな交流を綴った『それでも猫はでかけていく』より、試し読みをお届けします。

 トラジマブラザーズ最後の生き残り「ウリ」が、急死してしまいました。

 年末、東京は記録的な豪雨に見舞われました。2、3日前から、どうも食欲が落ちてきたな、と思っていたウリは、雨のしぶきが吹きかかる玄関先の箱の中で、固く丸まり込んで寝ていました。箱には電気マットが入ってるし、あまりにも具合が悪そうだったら明日病院へ連れて行こうと、その夜はそのまま寝かせておきました。翌日気温は急上昇し、ウリの姿はありませんでした。隣の墓地に日なたぼっこにでも行ったのだろうと、さして気にもとめませんでした。深夜になってウリは箱の中に戻っていました。そして翌日も早朝から姿を消し深夜に戻って来る……ちょっとまぬけなウリらしく、どうやら死に場所を求めて出て行っては、ザセツして深夜戻って来ていたらしいのです。その翌日、もはやウリは出て行く力も無く、箱の中にうずくまっていましたが、運悪くその日は私の母親が緊急入院というバタバタ騒ぎでどうにもならず、とりあえずウリを家の中のケージに回収し、保温だけは万全にして翌日、年の瀬の30日、忙しくて殺気立っている院長のイヤミを覚悟しつつ、「D動物病院」に連れて行きました。

 ひどい脱水と黄疸、おそらくは「汎白血球減少症」で、肝臓と小腸がひどくやられているとのことでした。それからD院長が正月返上で(ホントはいい人です!)治療や輸液をしてくれたにもかかわらず、白血病のキャリアで元々免疫力の低いウリは回復することなく、下血が止まらず、元日の夜あっけなく死んでしまったのです。

 信じられない思いです。シロミと同い年、姉弟のように育ってきたウリ。すでにたった2匹になってしまっていた外猫の一方「テンちゃん」は、15才は下らないお婆ちゃんだから、きっと先に死んでしまうだろう。1匹になった時、ウリさえ良ければ家に入れてやろうとさえ思っていたのに。

 これより少し前、この辺のボス「モド」も、元気が無いなーと思っていたら、姿を消して戻って来ません。おそらくは、同じ伝染病だったのでしょう。こうしてノラは、数日であっけなく命を落としてしまうのです。

 ついに外猫は、剣呑な婆ちゃんテンちゃん1匹になってしまいました。玄関の扉を開けたら、ワッと猫たちが群がって来る。そんな二十数年にも及ぶ外猫ライフが、こんなにあっけなく終止符を打ってしまうなんて!

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