名著の新装版『アリの巣をめぐる冒険 昆虫分類学の果てなき世界』を発表した、若き昆虫学者の丸山宗利さん。『情熱大陸』『クレイジージャーニー』への出演など、今や大人気の丸山さんですが、子どもの頃はどんな少年だったのでしょうか? 好きなことをつらぬく大切さ、そしてわが子の才能を伸ばすヒントをうかがいました。
* * *
「放任主義」が昆虫学者を育てた
──東京都の新宿区や江戸川区で育ったという先生ですが、小さい頃から昆虫好きだったのでしょうか。
はい、大好きでした。いろんな昆虫を捕まえてきては、餌をあげて観察していました。ただ、当時はうまく飼えなくて、ほとんどの昆虫が途中で死んでしまったんです。無駄にいろんな昆虫を殺してきたなという反省がありますね。
昆虫だけではありません。トカゲとか、魚とか、ザリガニとか、とにかく何でも捕まえてきては飼育していました。普通の子どもたちのように、ハムスターやインコも飼っていましたね。だから部屋の中は、水槽や鳥かごでいっぱいでした。
──当時の東京には、自然の生き物が豊かにいたんですね。
いや、むしろ今のほうがいると思いますよ。今は東京の都心部でも、カブトムシやクワガタムシがいたりするんです。
なぜかと言うと、私が学生のころはバブル時代で、東京のあちこちに豪邸が建っていました。そのときに植えられた木や植え込みが、成長して大きくなったんです。だから東京の住宅街は今、とても自然豊かです。
私が子どもの頃は、これから景気がよくなっていく時代だったので、開発が進んでいる途中でした。だから、昆虫はむしろ少なかったですね。草むらや空き地はいっぱいあったので、そこでバッタやトンボを捕まえたりするくらいでした。
──生き物を捕まえてくることを親御さんは歓迎していたのでしょうか。
そのことに関しては、とくに干渉しなかったですね。飼ってはいけないと言われたことはありません。かといって、積極的に英才教育をするわけでもなく、とにかく放っておくという放任主義でした。
家族みんなで使っているコップの中にミミズをいっぱい入れたり、今考えるとひどいことをいろいろしましたね。でも、それでも怒られなかったのは、恵まれた環境だったのかなと思います。
──でも、捕まえてきた生き物が死んでしまうと、子ども心にも胸が痛みますよね。
まさにそのときの経験が、すごく勉強になっています。今でも研究の必要に迫られて、生き物を飼育することがあるのですが、当時、身につけた肌感覚のようなものが役に立っているなと思います。
生き物を飼うというのは、理屈だけじゃない部分があるんです。生き物の気持ちになってみるとか、そういった感覚は小さいときに培っておくことが大事だと思っています。
今を楽しむことが将来につながる
──今や昆虫学者として大人気の先生ですが、就職先が見つからなくて苦労された時代もあったそうですね。
研究者の就職活動は、一般企業の就職活動とはだいぶ違うんです。そもそも、運よくそのときに自分に適したポストが空かないと、就職活動のしようがない。なおかつ、同世代のライバルもたくさんいます。優秀な研究者はたくさんいますから、たとえば大学の助教のポストが空いたとしても、彼らとかち合ってしまうんです。
ですから、ライバルたちに負けないような数の論文を書いたり、そういった努力は必要でした。いいポストが出たときには必ず勝てるように、あらかじめ準備しておくことが大事ですね。
──このジャンルの研究はポストが多いとか、そういった計算はしなかったんですか?
まったくなかったですね。でも、恵まれたポジションに就職できる確率って、やっぱり低いんですよ。私のように国立大学で昆虫の分類学を思いきり研究できるのは、恵まれていると思います。
そのことを見越して、大学院までは研究をするけど、卒業したら一般企業に就職したり、公務員になったりする学生も圧倒的に多くなりつつあります。たしかにそれは賢い選択だとは思いますが、学生たちにはもっと挑戦してもらいたいという思いもあります。
──先生みたいに本当に昆虫の世界が好きで、夢中になって飛び込んだ人がずっと研究を続けられるような環境が、もっと充実していくといいですね。
自分はそういうことを考えない点でアホだったと思いますが、それが結果としてよかったのかなと思いますね。いいポジションにつけるかどうかを自分の将来に組み込んでしまうと、それがかなわなかったときにつらくなると思うんです。
だから、とにかく今を楽しんで、頑張って、それを将来につなげていこうと前向きに考えるしかないのかなと思います。
──最後に読者のみなさんへメッセージをお願いします。
『アリの巣をめぐる冒険』に書かれていることは、みなさんにはあまりなじみのない世界かもしれません。しかし、生物の多様性の解明や、生物の環境保全を行なうにあたって、昆虫分類学はきわめて重要かつ基礎的な学問です。
新種を見つけたときのエピソードなど、面白い話もたくさん載っています。ぜひ、読んでいただけたら幸いです。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】丸山宗利と語る「『アリの巣をめぐる冒険 昆虫分類学の果てなき世界』から学ぶ生き物の多様性」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』はこちら
書籍『アリの巣をめぐる冒険 昆虫分類学の果てなき世界』はこちら
武器になる教養30min.by 幻冬舎新書の記事をもっと読む
武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
- バックナンバー
-
- 「働けない」のは甘え、サボりではない…誰...
- 貧困は自己責任ではなく「働けない脳」のせ...
- 「直感」は脳が出した最適解…最先端研究で...
- 「ひらめき」は寝ている間につくられる…脳...
- トルコからの石油を止める、ネタニヤフ政権...
- イスラエルとハマスの衝突は「宗教対立」で...
- ついに日本でも始まった、元金融庁官僚が手...
- 「インデックス投資信託」以外は見向きもし...
- 情報はイベントではなく人間から理解せよ…...
- 独裁主義者に操られる究極のニヒリスト…ト...
- 「叱られ耐性」がある、「自分が決めたルー...
- 「VUCA」の時代を生き抜くために…話題...
- とにかく一歩踏み出してほしい…『女性の品...
- 30~40代ビジネスパーソンにおすすめ!...
- 外国語を身につけたいなら「スピーキング」...
- ものごとにはすべて裏と表がある…元外務省...
- 文系ビジネスパーソン必見…「数学への苦手...
- ムダなく、最短距離で、正しそうに…文系ビ...
- コップいっぱいにミミズを入れても怒られな...
- アリに乗る、餌をねだる、アリを食べる! ...
- もっと見る