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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2024.06.27 公開 ポスト

推しに「来てくれ」というだけではなく「来れるように応援する」のも大事カレー沢薫

先日、我が故郷の村で人気アイドルのイベントを開催するという暴挙により、最寄り駅に大量の帰宅難民が発生した、という話をしたが、実は私の実家は、そのイベント会場から徒歩圏内なのだ。

駅ですら大変だったのに、そんな震源地から2キロ以内の赤い円に入ってしまっている実家が果たして無事だったのか、特に連絡はないのはすでに一家全滅しているからではないか。

 

だが、先日実家に行ってみると、更地になった庭にゴザを引いて暮らしているということはなかった。

当日どうだったか聞いてみると、やはり人が多かったが、それで何かあったということもなく、むしろ花火イベントだったため「地元の花火大会より立派な花火が見れた」と言っていた。

炎上騒動で一番騒ぐのは当事者以外、という言葉がある。私も一応地元民だが、この件については過剰に反応しすぎていたのかもしれない。

「連中にうちの庭のツツジを吸いつくされた」など、被害を受けた人間が騒ぐのは良いが、直接害されたわけでもない人間が「さぞ迷惑だったに違いない」と断言し、それを見た、さらに遠くにいる人間が「こいつらはなんて迷惑なんだ」と信じ込んでしまう現象が増えている。

何だかんだいって、我が村にとってこのイベントはプラスだったのだろう、少なくとも我が老親たちは、この村では一生挙がらない立派な花火を見ることができた。

むしろ、人が全くな来ない方が、運営はもちろん、そのために準備をした地元側も困ってしまっただろう。

このアイドルグループファンが、聞いたこともない、地図に記載があるかどうかすら不明の事実上犬鳴村である我が村にすら馳せ参じる精鋭揃いだったからこそだが、ここまで部隊に鎌倉武士を有するグループやアーティストはそこまでいないと思う。

辺鄙なところでやればやるほど集客が見込めなくなるし、集客したらしたで、何せ辺鄙なため難民発生や近隣トラブルなど、炎上の危険性が出てくる。

よってライブイベントはどうしても、集客が見込め、交通や宿泊施設が整っている都会を中心に行われることになり、地方民はそれらを「ガンダーラで行われている伝説上の祭」として諦めることも多かった。

そんな地方民の「もっと地方に来て欲しい」という嘆きに対し、某バンドが「イベントは都会人の特権」という旨の発言をして燃えたことがあったらしい。

言い方は確かに悪すぎるが、言わんとしていることが全くわからないわけではない。

「推し活」という言葉が一般化して久しいが、最近は「課金」という言葉も聞く機会が増えた。

元々はソシャゲなどの有料コンテンツを購入する時に使われていたように思うが、最近は金を使う行為全般に用いられ、当然推し活にも使われている。

もちろん、推しに「無償の課金」というある意味矛盾した行為をしている人も多いが、何らかのアドバンテージを得るために金を使うことを「課金」という人もいる。

ソシャゲの場合、当然だが課金をした人の方が有利かつ手っ取り早くゲームを進めることができる。

それに対し「不公平だから、無課金勢と課金勢を平等にしろ」という声もあった。

今考えれば、マックで750円払ってビッグマックセットを食っている奴を指さし「俺がタダでこいつと同じ物を食えないのは不公平じゃないか」と詰め寄っているようなものだが、昔はそういう意見もあったのだ。

だが現在では課金者によってゲームが成り立っているのだから課金者が優遇されるのは当然という結論になっている。

ソシャゲのみならず、商業でやっている物は大体そうである、金が出せないファンでも楽しめるコンテンツではあるべきだが、課金勢も無課金勢も皆平等、というのは難しい。

某バンドも、田舎者に見せるライブはねえカラオケ喫茶にでも行ってろ、と言ったわけではなく、ライブは高い都会の家賃をはらっている人や、地方住みでもライブのために高い交通費や宿泊費を払っている課金勢が努力で得ているものであり、無課金勢がそれをずるいというのは違うのではないか、という意味で言ったのではないかと思う。

しかし、ゲームなら少なくともスタート地点は平等だが、人間だと「それ初期アバターの装備じゃねえだろ」というSSR顔面や能力、太い実家、そして都会住みという、課金アイテムでもおかしくないものを生まれながらに持っている奴がいる。

何の努力もなしに「都会人」というスキル持ちな奴がいる以上、ライブは都会人の特権と言われて納得いかない人も多いだろう。

だがこの世はどうしようもなく不平等なのである。そして、そのどうしようもない不平等を推しに何とかしろというのも酷である。

ファンも「俺んちの庭に来てタダでライブをやれ」という意味ではなく、自分の手の届く範囲に来てほしいという願いだったのだと思う。

しかし、前述通り地方すぎると集客が確実でないため、推し側の負担とリスクが大きくなってしまう。

推しに地方まで来てほしかったら、推しを犬鳴村でも満員になるビッグアーティストにするしかないだろう。

もちろんビッグになればなるほどますます地方に来なくなったりもするが、我が村のようにワンチャンくることもある。

推しに「来てくれ」というだけではなく「来れるように応援する」のも大事だ。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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